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77.
「なーんか、呆気なくアキバ行きが決まってしまったな」
「予想してたよりも、早かったね」
「でもでも、行くまでの行程が大変なんだろ?」
最近は不定期開催だった、定期会議。
ただ喋っているだけの時も多かったが、今日の内容はかなりヘビーなものだった。
議題は、勿論アキバへの移動に関するものだ。
コンコンたちの訪問から一夜明け、バタバタと資料を整理している間に夕刻になってしまった。
アキバへの移動に関してシェンシュンは、安堵と不安に板挟みになっていた。
〈大神殿〉の情報が変更されることは嬉しいが、〈冒険者〉の集まる場所に赴くのはまだ怖かった。
「なんか、話がトントンと進みすぎて怖いよね」
「あの、ミナミへの遠征協力の話もあるしね」
「正直、俺はそれに参加したくないな・・・」
シェンシュンが弱弱しくつぶやく。
5人の中で最年少な彼は、いまだにこの世界や〈冒険者〉を恐れていた。
この世界に来て、少年というだけで、彼は襲われた。
それは彼にとって、屈辱でしかなかった。
「私も、参加するのは反対よ。危険すぎる」
「そのことは、もっとよく吟味してから決めたいと思う。
今日は移動手段や、その時の計画とかを話し合いたいんだけどいいかな?」
「はい。今日の資料ね。赤司さんからもらった情報よ」
ダーシーが話を遮ると、メイズが預かった資料を全員に見えるよう広げる。
赤司による、細かな情報までまとめられたそれに目を通して、一同の口から驚愕の溜息が出る。
「なにこれ・・・アキバまでの最適なルートに、懸念事項までまとまってる」
「あの人、すごい人だとは思ってたけど、本当にすごい・・・」
「こんな細かい情報を、まとめて持ってくるとは、彼はよっぽどのオタクだな」
最適なルートのまとめ、ポップするモンスターの種類・レベル帯がまとめられている資料は目を通すだけで一苦労だ。
シェンシュンは、地図に赤い線で書き込まれたルートを目で追う。
日本人ではない彼には、元の世界の地名と一致させることはできなかったが、最終地点にはしっかりとアキバと書かれていた。
「無事にアキバまで行けるのかしら・・・?」
ティエンシャンが、不安の声をあげる。
「そうね。移動しても、仲間を失ったら元も子もない」
「徒歩での移動は避けたいね」
ダーシーが同意すると、そのあとにメイズが続く。
「馬ならアクティブなモンスターからも、逃げられるしな」
「問題は、馬の調達だよ」
結局ここで行き詰ってしまった。
馬の召喚をすることができない者の移動をどうするか、が最大の論点になった。
〈召喚術師〉や〈調教師〉はいるが、それでも数は圧倒的に不足しているだろう。
「俺には〈赤兎馬〉がいるからいいけど、このへんで馬は借りれないのかな?」
シェンシュンは自分の鞄から、小さな赤い笛を取り出す。
「そうだね。それは探してみる価値があるかもしれない」
「馬が1人しか乗せられないだなんて、盲点だったわ・・・」
複数で乗合ができないことが分かった今、馬の調達の難易度は上がってしまった。
70人のうち17人は、移動手段を持たないからだ。17頭もの馬を調達するのは難しい。
そこであることに気が付いたティエンシャンが、ポツリとつぶやく。
「あれ?・・・そういえば、馬車はこの世界にあるんだっけ?」
一瞬の間をおいてから、その場にいる全員に衝撃が走った。
移動速度の制限がかかるが、馬車というのも有効な手段である。
これだったら、1頭の馬でも複数の仲間を運ぶことができる。
「ば、馬車・・・」
「考えもしなかったわ・・・」
全くもって考えてもみなかったアイディアだった。
「でも、馬車持ってる人っている?」
「それだよなー。普通に考えて持ってないわぁ」
馬車といえば、〈NPC〉が所持していることの多いアイテムだ。
それに、人を乗せて走行するようなタイプとなれば、貴族など一部の者しか持っていないだろう。
〈妖精の輪〉を主な移動手段としてきた〈冒険者〉で持っている者がいたら、かなり奇特な人物だろう。
「どっかから買い取るのは?それか、先にアキバで調達するとか?」
「先発隊をアキバに送るってことか?二度手間じゃないか?」
「でも、飛ぶ手段さえあればすぐなはずだよ?往復2時間くらい?」
ダーシーはこれまた、赤司からもたらされた情報を確認する。
飛行ルートをとれば、道に関係なくアキバまで直線で行けてしまう。
陸路よりも安全性も高く、スピードも速いだろう。
「その気になったら、日帰りで帰ってこれるわね」
「調達にどれくらい時間がかかるかにもよるけども」
「まぁ、そんなに急いで帰ってくる必要性もないんじゃないかな?
どうせ行くなら、アキバの様子もしっかり確認してきてほしいしね」
話は先発隊による馬車調達で、まとまりつつあった。
シェンシュンはアキバに行く不安を抱えつつも、馬車調達班に含まれた。
タオロー、ティエンシャンと一緒に〈メイ・ロン〉でアキバに急ぐ。
「コンコンさんたちにアキバの案内をお願いしよう。彼女たちはヤマトのプレイヤーだからね。
ついでに、彼らのことも観察してきてほしい」
ダーシーからの密命も受けたところで、会議はお開きになる。
不安と興奮を抱えながら、シェンシュンは自分の部屋に戻った。
(そわそわする。眠れるかな・・・?)
そんな心配をしてみるも、ベッドに入った途端、彼は寝息を立てはじめるのだった。
更新が、長らく途絶えておりました。申し訳ありません。
ゴールデンなウィークを満喫しておりましたので・・・。
最近、お話しがトントンと進んでしまっていて、おもしろくないなぁと、自分で感じております。
びっくりするようなことが起こるのは、もう少し先ですのでお付き合いくださいませ。




