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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
開く道
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75.


「なんだ・・・今の声?!」


アキバを取り囲む森に、断末魔の叫び声が響き渡る。

ユニコーンに跨ったパルは、咄嗟に警戒の声をあげる。


「分からない。でもクロノの可能性がある。行ってみよう。」

「雪くんたち!お願い!急いでね!」

「ユニ!僕らも急ぐぞ!」


〈雪狼〉に跨る3人とユニコーンに跨る1人の〈冒険者〉が、森を超えていく。

声の聞こえたほうにかけると、木々の向こうから大きな生き物の頭が覗く。

その姿を見て、パルは再び驚きの声を上げた。


「なんだ・・・!あんな〈召喚生物〉見たことない!」

「あれは・・・〈豪王:虹孔雀〉!クロノはあそこにいる!」


やっと木々を超えると、より詳しい状況が分かってくる。

まず、あの見たことのない生き物。煌めく虹色の瞳をした巨大な孔雀。

そして、それを引き連れているクロノと、その前に跪く〈冒険者〉の姿。


「うっ・・・」


その〈冒険者〉の姿に、セルクルは思わず嗚咽を漏らす。

彼の体は、数十本の刀に串刺しにされ、割れた頭蓋骨からは桃色の脳みそが覗いていた。

そして、その手に握られている刀は、クロノに向けて振り下ろされようとしている。


カツンッと乾いたおとがする。

動けないクロノに当たりかけた刀を、AGEの盾がはじいたのだ。

それを待っていたかのように、刀を振るっていた〈冒険者〉の体に、容赦なく〈孔雀刀〉が突き刺さる。

思わずセルクルは顔を背け、タカムは妹を自分のそばに引き寄せた。


「・・・」


〈冒険者〉が泡と光となって消えたころ、クロノもその場に崩れ落ちる。

ステータスを見ると、HPは残り数百まで削られていた。

最後の攻撃が当たっていたら、彼はきっと〈大神殿〉に送られていただろう。


「と、とりあえず、回復!パルさん、セルクル、お願い!」

「任せとけ!ユニコーンくん出番だ!〈ファンタズマルヒール〉!」

「カーバンちゃん、〈ファンタズマヒール〉お願いっ!」


パルの〈ユニコーン〉とセルクルの〈カーバンクル〉が、クロノの回りをかける。

彼の体が温かい光を放ち、HPのバーが静かに上昇する。


「・・・まったく、俺が間に合わなかったらどうするつもりだったわけ?

〈豪王:虹孔雀〉で動きが制限されるのくらい、自分の武器なんだから知ってるだろ・・・」


AGEは地面に転がるクロノを見下ろした。彼の言葉が届いているかは、定かではなかった。


その間に、タカムは隅のほうで怯えている〈冒険者〉たちに近づく。

彼らが、話に聞いた初心者パーティーだろう。

小柄な少女から、背の高いの青年まで、容姿はまちまちだが一様にレベル50以下で構成されている。


よほどまじまじと見ていたのか、〈守護戦士〉の青年が前に出て仲間をその後ろに庇うような仕草を見せた。

タカムは軽く頭を下げる。56レベル、彼が1番高レベルのようだ。


「友達が迷惑かけたみたいで、すみません」

「こちらこそ、彼には助けていただいた」


青年は見た目より年上のようで、しっかりとした低い声で答える。

口では感謝を述べていえるが、その目は警戒を解いていなかった。

彼の視線はタカムの〈ステータス画面〉にあるようで、視線が合わない。

ハスキーのように目の覚めるアイスブルーの瞳が、タカムを品定めしていた。


「・・・知ってると思うけど、俺、タカムって言います」


タカムも彼の〈ステータス画面〉に目を通す。


「存じてます。ツークフォーゲルと申します」

「どうも。んで、あのでかいのが兄のAGEで、妹のセルクルと、おじさんが知り合いのパルさん」

「おじさん言うな!」


タカムが軽くそこにいる人物を紹介していく。

そのたびに彼は、1人1人を警戒したように見つめる。

セルクルが〈カーバンクル〉を送ってきた時には、武器を構えて追い返してしまった。


「驚かしてごめんなさい。みなさんの回復をしようとしたんだけど・・・」


武器に怯えて帰ってきた〈召喚生物〉を抱きながら、セルクルは謝罪する。

それに対して憤慨したのは、同じ〈召喚術師〉のパルだった。


「おい!〈召喚生物〉の回復を拒否るとか!それはだめだろ!」

「ギルマス!」

「〈召喚生物〉はな、生き物や。拒絶されたら、ショック受けるんだぞ!」

「申し訳ない。しかし、私達の中には他人の〈召喚生物〉にひどい目に合わされた者もいる。許してほしい」


彼が言うことも、理解できるものだった。

レベル85の彼女が連れている〈召喚生物〉は、新人ばかりのパーティーには十分脅威である。

しかし、PKから助けられたということを加味すると、それは過剰反応のようにも取れる。


「助けていただき、感謝する。では、私達はこれで」


タカムたちが何か言う前に、ツークフォーゲルが軽く頭を下げる。

それが別れの合図であることは、なんとなく伝わった。

アキバまでの護衛を申し出ようとしたAGEだったが、その仕草に口をつぐむ。

傷口が塞がり、歩けるようになったクロノを〈雪狼〉に乗せる。

去り際にもう一度AGEが振り返ると、彼らの〈施療神官〉が仲間を癒していた。

〈回復ポーション〉の瓶に口をつけている者もいる。


「本当に大丈夫かな?街の門まで結構距離あるよ?」

「うん・・・。でも彼らが望まないんだったら、仕方ないよ」

「いいやん。いいやん。あんなん放っておき」


5人が去った後、ツークフォーゲルはパーティーの他の5人を駆り立てて森へ入っていく。

その後、彼らの姿を見たものはいなかった。


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