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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
開く道
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74.


(これは。よくない。・・・というか、やばい)


クロノは正直、ピンチに陥っていた。

目の前にはバランスの取れたパーティーのうち、4人が残っている。

回復職を1人残してしまったので、相手のHPはまだ緑色だ。


それに引き換え、クロノはHPがレッドゾーンに差し掛かっている。

加えて、後ろには初心者パーティーの6人を庇っていた。

その中の1人がヒールを投げてくれるが、レベルの差が大きくタイミングも未熟なため要領を得ない。


「マジか!知らんガキンチョを守るとか!マジか!」

「ねー、もう私飽きちゃった。早く終わらして帰ろうよー」

「これ、やってても埒あかないぞ?もう良くない?」


〈守護戦士〉・〈施療神官〉・〈盗剣士〉の3人が口々に呟く。

彼らは正直、この消耗戦に疲れてきているようだった。

しかし彼らのリーダー的な〈武士〉の男は、そういう訳にはいかないようだ。


「うるせぇ!俺はこいつを絶対倒す!」


クロノを大げさな仕草で指さした〈武士〉の顔は、なぜか高揚していた。

クロノ自身も、なぜ彼にここまで執拗に狙われているのか分からないでいた。


「なーんで、そんな熱くなってるの?あんた?」

「こいつが、〈孔雀刀〉を持ってるからさ。ドロップしたら儲けじゃね?」


その不純な瞳はしっかりと、クロノがまだ抜いていない刀に向けられていた。


「・・・それが君の狙いか」


クロノは小声で呟いた。

目の前の男はクロノの装備した〈孔雀刀〉に狙いを定めているようだ。


(だとしたら、こいつとんだバカだな・・・)


〈孔雀刀〉は〈秘宝級〉のアイテム、一度持ち主が決まると他人は装備できない。

目の前のレベル80代の〈冒険者〉たちは、それを知らないのだろうか。

そんなことを考え出すと、今自分が置かれている状況も忘れて、嘆きの言葉が口をついて出る。


「はぁ、最近の若い子は・・・。

まぁ、レベル上げも簡単になっちゃったしね。レベルと知識が釣り合ってないのかな・・・」


〈孔雀刀〉は、孔雀神社のダンジョンを突破しないと手に入らない。

しかも、その最後にいる〈豪王:虹孔雀〉に〈武士〉が止めを刺して倒さなければならない。

そう易々と彼らに奪われていいものではない。


「うっせ!お前、今の自分の状況分かってねぇの?圧倒的不利だろうが!」

「ふふふ・・・!あっははははは!」


〈武士〉の男の威勢の良い叫び声をよそに、急にクロノが笑い出す。

その異様な姿に不気味さを感じた、〈武士〉の男以外のPKが一歩後ずさる。


「本当は使うつもりなかったんだけど、・・・そんなにこの刀の凄さ、知りたいかい・・・?」


ひとしきり笑ったクロノは〈孔雀刀〉を抜き、その狂気の瞳でPK達をにらみつける。


「なっ・・・なんだこれ・・・?」

「ちょ、ちょっと!あんた詳しいんじゃないの?!何よあれ?」

「わ、わ、わかんねぇ・・・。じ、実際に見たことないし・・・」


状況を把握し、青ざめる〈武士〉に、同じく怯えたような他のPKが問い詰める。


しかし、クロノの放つ禍々しい空気に、全員が動けないでいた。

これも、彼が装備している〈孔雀刀〉の、相手の動きを制限する効果なのだろう。

助けられたはずの初心者たちでさえ、彼の姿に怯えていた。

片唇を歪めたクロノは、その不気味な虹色の瞳を輝かせる。


「僕も、〈大災害〉以降これを使うのは初めてなんだ。

ゲームの時のエフェクトがすごかったから、楽しみだね・・・。〈豪王:虹孔雀〉」


クロノの背後に、大きな孔雀が現れる。鮮やかな孔雀の羽は金色の光を放つ。

そして、クロノと同じ不気味な虹色の瞳は、しっかりとPKたちを映している。


「なんだ・・・あれ・・・?あいつ〈武士〉じゃなかったのか・・・!?

くそっ!〈アンカー・ハウル〉!とっとと倒せよお前ら!」


〈守護戦士〉が仲間に対して指示を出している間に、孔雀の尾羽が1本ずつ〈孔雀刀〉へと変化していく。

徐々に数を増やす〈孔雀刀〉は、孔雀の羽根のように扇状にクロノの背後に並んでいく。


「おいおいおい。やばいぞこれは・・・」

「うっ!あががっ・・・!」

「はぁ?!・・・なんで?・・・俺の〈アンカー・ハウル〉が無視された・・・?!」


最初にクロノの〈孔雀刀〉が襲ったのは、〈施療神官〉の女だった。

回復役から潰していくつもりだろう。1本1本と〈孔雀刀〉が彼女の体を貫く。

みるみる間に〈施療神官〉のHPは無くなり、最後には泡となって消えてしまった。


「僕のサブ職はね、〈紳士〉(ジェントルマン)なんだ。

戦闘でも、レディーファーストだよ。それに、これからのシーンは女の子に見せたくないしね。

でも君たちには、そんな気遣い無用かな?・・・二度と、戦闘にでれないようにしてあげる」

「くっそ・・・!」


〈武士〉の男が、汚い言葉を発している間にも、彼の仲間はクロノの刀の餌食になっていく。

仲間の姿に茫然としていた〈守護戦士〉と〈盗剣士〉が、〈孔雀刀〉の次なる標的となったのだ。


「ぐああっ!いてぇ・・・!」

「ぎゃあぁぁぁ!」


2人の〈冒険者〉は串刺しにされながら、うめき声をあげる。

〈豪王:虹孔雀〉の攻撃対象は、1人しか選べない。

そのため〈守護戦士〉と〈盗剣士〉は、〈施療神官〉よりも長く苦しむことになる。


〈冒険者〉の体では痛みはそれほど感じないが、それでも串刺しにされる精神的ショックは大きい。

大量に流れる血液や、切り裂かれたのど元から漏れる空気、できない呼吸に苦しむはめになる。

仲間を助けるためなのか、PKの〈武士〉がクロノに切りかかった。


「くふぅっ・・・」

「こ、攻撃中は動けないんだろ?・・・ちがうか?」


ガクガクと震える足で、クロノに刀を構える〈武士〉の表情は、恐怖で染まっていた。

仲間の姿で、自分の行く末が見えたのだろう。それでも彼は、クロノに挑みかかってきた。

防御のできないクロノはそれを受けるしかできない。

しかし、最後のPKの脳天に〈孔雀刀〉が降り注ぐ。


「小賢しいねぇ・・・」

「うぐあぁぁっ・・・!」 


戦闘シーンは少な目ですといいつつ、今回はがっつり戦闘シーンを書きました。

クロノの、この装備の戦闘を、書きたくて書きたくて仕方なかったのでございます!

そして、ちらりと彼のサブ職〈紳士〉(ジェントルマン)も登場させました。

いまだ活かせておりません、元王子系プレイヤー設定でございますが、今後少しずつその片鱗がでてまいります(予定です)。

今後とも、脇役〈冒険者〉たちの話をよろしくお願いいたします。

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