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「うーん。やっぱりだめかぁ」
「これさえ動いてくれてたらねぇ」
「早くギルドに戻りたいんやけどな・・・」
「くそぉ。なんで動かないんだよ!」
「あの子あっちで怖い思いしてないかな?」
〈都市間ゲート〉の前のでは、〈冒険者〉たちの落胆の声で今日も溢れている。
今日こそ動作しているのではないかという、彼らの淡い期待はあっさりと打ち砕かれていた。
他のプレイヤータウンにいる仲間を思いやる者、自分の拠点に戻れない者、中には今にも小競り合いに発展しそうなほど騒がしい者たちまでいる。
最近のアキバの街ではめっきり見かける回数が減った〈大地人〉たちが、その集団を遠巻きにしながら逃げるように往来をしていた。
「〈都市間ゲート〉ダメみたいだな」
「そうだね。・・・あれが動いたら、コンコンさんたちも楽にこれるのに」
「でもあれが動くってことは、コンコンさんたちが避けたいと思ってるものも簡単にこっち来ちゃうってことだろ?意味なくね?」
「でも・・・」
〈冒険者〉たちの様子を遠くから見ていた3人は今朝連絡をよこしてきた、友のことを思う。
〈大震災〉以降まったく機能を止めてしまった〈都市間ゲート〉は、今日もそこに存在しているだけだった。
物言わぬ〈都市間ゲート〉の前で、小さかった小競り合いは徐々に本格的な喧嘩に発展していた。
巻き込まれてたまるかと言わんばかりに遠のく者、仲裁に入ろうとする者、どちらかに加担する者、各々が身の振り方を決め始めたころ、3人は既にその場を離れ〈ギルド会館〉に向かっていた。
(最近、大手ギルドのタグをつけた人が増えたなぁ)
AGEは街ゆく人たちのステータスを確認しながら、〈大災害〉後から目立ち始めたギルドタグを頭の中で列挙する。
(〈D.D.D〉なんかは特に増加が顕著だな。〈ホネスティ〉もよく見かけるようになった。まぁ元から大手だけど。
どこも数の力を得ようって必死だよな。群れてより強力な影響力を持とうってことか・・・)
アキバ最大級のギルド〈D.D.D〉はレベルと関係なく、全ての〈冒険者〉にその門戸を開いている。
そのギルドタグをつけているだけで、PKの被害に合わない程の影響力を持っているため、新規加入を希望する〈冒険者〉が山のようにいるのだ。
AGEは自分のステータスを見ながら、空欄になっているギルドタグ欄を見る。
〈大災害〉の後、AGEは3年近く所属していたギルドを抜けた。
仲間は引き留めたが、彼は弟妹たちと過ごすのを優先するために考えを変えなかった。
案の定ギルドに残っている仲間たちは、狩場争いや他のプレイヤーへの牽制で忙しく、アキバの中で見かけることがほとんどない。
タカムは元からソロプレイヤーとして活動していたので、空欄のまま。
セルクルは〈アキバ動物園〉という〈召喚術師〉しか加入できないギルドに入っていたが、そのほとんどが〈大災害〉当時ログインしておらず、ほぼ開店休業の状況だ。
とことん、ギルドというものに縁がなくなったように見えた3兄弟だったが、フリーの彼らをアキバの街は放っておいてくれなかった。
2週間も断り続けているにも関わらず、今日も「彼ら」はやってくる。
「セルクル嬢!今日こそきちんと話を聞いてください!」
「うるせぇ!AGEさん達は俺たちのとこにくんだよ!」
「なっ、うちのギルドの方が規模もレベル帯だって高いんだぞ!」
「だからどうしたってんだよ!うちのギルマスはなぁ…!」
「うちのギルドで一緒に暴れようぜ!タカム!」
異なるギルドタグをつけた〈冒険者〉たちが、3人の目の前で言い争いを始める。
突然現れた彼らは、3兄弟の予定などお構いなしにまくし立てる。
それぞれのギルドの威厳をかけてなのか、漁港のせりのようにその強さ誇張しあっている。
「AGE兄ぃ・・・。また来たよ。」
「うわー。しつこい奴らだな。」
「はぁ・・・。仕方ない・・・。」
3人は目の前で騒ぐ〈冒険者〉たちに冷たい視線を送りつける。
その視線を全く感じないのか、〈冒険者〉たちの騒ぎは大きくなる一方だった。
「うちに加入しろ!タカム!お前のその力をもっともっと伸ばしたいと思わないのか?!」
「仲間が必要だろ、タカム?俺らの仲間になるチャンスだぜ!」
「いや、俺、別に仲間がいなくてソロだった訳じゃないし・・・」
スカウターの言葉に、タカムの顔が呆れてようにひきつる。
それを聞いて、セルクルもAGEも噴き出すのを必死にこらえていた。
「AGEさん!あんたの〈守護戦士〉の能力がなら、うちのギルドでも十分やっていける!ぜひうちにきてくれ!」
「え。なんでそんなに上から目線・・・」
「そんな弱小ゴミギルドなんかさっさと抜けてうちに加入されよ!セルクル嬢!」
「はぁ?!あんたちょっともう一回言ってみなさいよ!」
最後にセルクルが吠えたため、ギルドのスカウターたちが首をすくめる。
どすの利いた声で、ギルドを侮辱した〈冒険者〉をどやしているセルクルを落ち着かせ、AGEは苦笑をしつつ、スカウターたちを見回す。
「今日は・・・逃げよう」
「今日『も』だけどな・・・」
「雪くんたちー」
セルクルのその一言を合図に3匹の〈雪狼〉が騒がしい〈冒険者〉たちの頭上から現れる。
サブ職〈調教師〉のセルクルが、呼び出した3匹がAGEたちをそれぞれの背に乗せ、大きく跳ぶ。
彼女の〈ペット〉である〈雪狼〉は3~4匹の群れをなす、北方系のエネミーである。
突然のことに騒がしかった〈冒険者〉たちは呆気にとられていた。
その隙に、3兄弟はセルクルの召喚した〈セイレーン〉のおかげもあって、風のように街中に消えていくのだった。