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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・下
69/82

69

3兄妹と、手玉に取られてるおじさんの話。

69.


大地人の食べ物屋は軒並み〈クレセントバーガー〉の波に押されていた。

客がほとんどいない食堂にテンプル3兄弟は、1人の男と対峙して座る。


「えっと・・・。そんなに警戒心丸出しの顔されてもなぁ・・・」


パルは困ったように、無精ひげの生えた顎をさする。

主に今の言葉は、タカムに向けられていたらしい。


「そうだよ、タカム。いくらパルさんでも、それは失礼だ」

「いや、君も今さらりと失礼なこと言ったよね?」

「ギルマス~。相変わらずだね~」


セルクルがにこにこ笑っている隣で、タカムは明らかにパルに警戒心を向けていた。

どうやら彼は、AGEとの関係は良好なようだが、タカムとはまだなようだった。

そのAGEからも、年上の威厳を感じられない扱いを受けている。


「で、念話でできないような、込み入った話ってなんなん?」

「あ、いきなり本題なんですね」


意外と、すんなりと話しが進むことに、AGEは少し驚く。

どうせ、セルクルの近況等の、セルクル話を挟むことになると予想していたのが、その振りすらなかった。


「いや、だってタカムくん怖いし、早く終わらせたいもん。最近の若者はキレやすいから・・・」

「日頃の行いが悪いからだよ!」

「ひーん。すいません。で、本当になんなの?」


AGEは努めて、真面目な表情を作りなおす。

どうしても、パルの前ではふざけてもいいという風潮が抜けなかった。

そのため、意識していないと常に軽い会話になってしまいそうだ。

話の内容や手筈を知っている、タカムやセルクルもAGEに習い、彼が言葉を発するのを待っている。


「実はですね、この度、俺たちで大きなことを起こそうと思ってるんです」

「ほう、どんな?」

「中国サーバーから避難してきたプレイヤーの、保護活動です。

きっと、これからそういう保護が必要な人が、増えてくるのではないかと考えています」

「・・・また、ずいぶんと大きなことを」

「そうですね」


AGEの言葉に、パルは水を口へと運ぶのを止め、その手を顎に当てて無精ひげを撫で始めた。

実はこの人物、こんな扱いを受けてはいるが、元の世界で規模は小さいが会社の創設社長だったのだ。

ビジネスになること、また大きな人数が動くことに興味が湧かないわけがない。


「俺たちの友人が、ヨコハマの街で偶然中国サーバーの〈冒険者〉に会ったんです。

彼らは、中国サーバーの惨状に耐え兼ね、そこから避難してきたそうです。

しかし、彼らの〈大神殿〉の情報は、最後に立ち寄った中国の街のまま。

いつ元の中国サーバーに死に戻されるかと、恐れてらっしゃいます」


AGEは淡々と、事実をできる限り簡素に伝える。

コンコンの名前や、ミナミから来る途中だったことは、あえて伏せることにした。

変な勘繰りを入れられたら面倒くさいのだ。

パル自身も手練れの〈召喚術師〉で、コンコンとは何度か冒険をともにしている。

その破天荒さを知っている相手に、わざわざそれを知らせてやる必要はない。


「それで?僕に頼みたいことって?」

「パルさんには、ギルドホールを開放してほしいんです」

「・・・はぁ?」


怪訝そうな顔をしたパルに、考える暇を与えないよう、AGEはすぐに続きの説明を始める。

この話はスピードが重要だった。


「ヨコハマに身を寄せている中国人プレイヤーたちは、約70名です。

彼らは今後もヨコハマに滞在することを望んでいます。

彼らに必要なのは〈大神殿〉の情報を書き換えることだけです」

「なら、なんで俺のギルドホールが必要やねん?」


腑に落ちないパルに、AGEはまくしたてる。

元の世界で、営業職の先輩に叩き込まれた交渉のノウハウを思い出す。

相手に考える時間を与えずに、結論を急かす。姑息な手ではあるが、効果的だ。


「彼らのレベルはマチマチです。空を飛ぶ術を持っている人のほうが少ないでしょう。

また彼らには、ある計画にも協力を要請しています。

そのためには、アキバに留まる期間はかなり長いものになる。

そこで、彼らを収容でいる場所が必要なんですよ」


パルは口を開かずに、うーんと唸っていた。

彼が協力するかどうかで、迷っているのは明らかだ。


(もうひと押し・・・)


AGEはにっこり笑って、セルクルに合図をする。

セルクルは、小さく頷いて目の前のお茶をすする。


「はあ・・・。これもただの水か・・・。そういえば、ギルマスは、〈クレセントバーガー〉食べた?」

「ん?ああ。味がある食べ物だろ?食べたぞ!すごくうまk・・・」

「中国サーバーから来てた、子供たちにも食べさせてあげたいなー。

みんな美味しいご飯食べたいだろうなー」

「・・・子供たち?」


(((かかった!)))


「うん。友達の話だとねヨコハマには、私と同い年とかもっと小さい子もいるんだって。

まだあの湿ったお煎餅みたいなご飯食べてるらしいの・・・」

「そ、そうか・・・」

「それで、ギルドホールの件なんですけど、ほとんど使っていないのに維持費ばかりがかさみません?」


3兄弟はパルが子供の関わる話には、めっぽう弱いことを知っていた。

そのため汚い手ではあるが、中国サーバーの〈冒険者〉のなかに子供が含まれていることを匂わせたのだった。

そして、今後のビジネスへの可能性も、同時に意識させる。

我ながらよくできた計画だと、明らかに表情が変わったパルを見て、AGEは心の中で自画自賛するのだった。


「そういうことなら、もっと早くに言ってくれたら・・・。仕方ない。うちのギルドホールを彼らに開放しよう」

「やったー!ギルマス、ありがとう!」

「ありがとうございます。パルさん。では、すみませんがこれで」


AGEの一声で、3人が席を立ち始める。


「え?あ、え?帰っちゃうの?」

「いろいろ準備があるから。じゃぁね、ギルマス!ご馳走さま!」

「は、はぁ・・・」


テーブルに伝票と共に残されたパルは、茫然とするしかなかった。


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