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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・下
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68.


〈鷲獅子〉でものの1時間で到着する街、ヨコハマ。

そこに降り立った赤司は、緊張した表情のコンコンを横目に歩き出す。

とりあえず、アニアに合流する必要があった。


(大丈夫や・・・。こっちには交渉の材料がある。何とかなるはず)


赤司は気持ちを引き締めながら、アニアのいるはずの宿へと向かう。

彼が心配していたのは、彼女のほうだった。

なんと説明したらいいのか、正直、赤司もわからない。

ただ、彼女にも理解してもらわなくてはいけない。

でないとこの計画は成功しない。


「まずは、アニアに説明からやな」

「うち、ようやりまへんわ」

「あんたが撒いた種なんやから、自分でしっかり回収しぃ」

「赤司はんの鬼ぃー」


コンコンが丹波に泣きつくが、丹波も彼に叱られたばかりなので、何も言わない。

コンコンの頭を軽く撫でてから、自分で歩かせる。


「甘やかしたらあかんって、赤司にくぎ刺されとるねん。がんばりよし!」

「丹波はんまで?はぁぁ。あかんやつや」


冗談交じりの溜息をついて、彼女は前を向く。

アニアのいる宿は、前回泊まったものから少し距離があった。

そこを目指しながら、急ぎ足で街を横切る。


「連絡なく来られるなんて、驚きですね・・・」


不意に、聞き覚えのある声が後ろから声をかけてくる。

悪い予感を感じながら、振り向いた赤司は頭を抱えたくなるのを必死に抑えた。

そこにいたのは、あの夜に会った5人の中国人プレイヤーたちだった。


「すまん。これには深いわけが・・・」

「おや、コンコンさん。〈外見再決定ポーション〉を飲まれたんですね?」

「え、ええ・・・。慣れた体に戻りましてん・・・」


丹波が慌てて前に出て、早口で弁明しようとする。

だが、それを遮るように、ダーシーがコンコンの容姿に関してふれた。


「それで、本日はどのようなご用件で?」

ダーシーの物腰の柔らかい話し方は変わらない。

しかし、そこには明らかに疑念の感情が感じられた。


自然と会話の主導権があちらに渡ってしまうのを恐れ、赤司は口早に話を切り出す。

赤司としては、彼らとここで会ったことは大誤算だったが、乗り切らねばならない。


「実はな、俺らの問題に、あんたらを巻き込んでしもうたみたいなんや」

「・・・問題と、いいますと?」


赤司は、大げさなくらい肩をすくめて見せる。

そして、相手に質問させると、彼らが1番気になっている話題をちらつかせた。


「俺らの中での、伝達の不備による意見の相違やな。

アニアがあんたらのところを訪ねたやろ?その件に関してや」


赤司のその言葉に、ダーシーの眉がピクリと上がる。

彼が興味と感心を示した証拠だろう。

彼と一緒にいる4人の〈冒険者〉たちも、わずかにざわつく。

ダーシーはあの柔らかい話し方によく似合った、柔らかい動きで対応する。


「そうでしたか・・・。では、こんなところでもなんですから、うちの宿で話しましょうか。

ぜひ、詳しく伺いたいので・・・」


すらっとした手で、目指していた宿ろとは逆の方向に促される。

その状況に、若干の焦りを感じながら、赤司は気取られぬように笑みを浮かべる。


(そう簡単に、逃がしてはくれえへんってか・・・。

これは、こいつらとの闘いを先にけり付けるしかないやろうな・・・)


「そうしてもらえたら助かるわ」

「では、こちらへどうぞ?」


前を歩く5人に聞気取られないように、コンコンが赤司に耳打ちする。

彼女は今回のことにたいして、大きな責任を感じていた。


「大丈夫なん?赤司は?」

「さぁなぁ。何とかするしかないやろう」

「何とかなるもんなん?」

「どうやろうな・・・」


5人の案内で宿に着くと、そこには大勢の〈冒険者〉たちが集まっていた。

中には無邪気に走り回る、小柄なものも混ざっている。

そんな彼らに軽くあいさつをすると、ダーシーは小さな部屋に3人を通した。


机と椅子だけの簡素な部屋に、8人の〈冒険者〉が顔を合わせる。

いままで生きてきた中で、こんなにも居心地の悪いのは赤司には初めてだった。


(小学校で、親と一緒に呼び出しくらった時でも、もうちょっとマシやったで・・・)


「それで、今回の件なんやけどな、ちょっと込み入った話になりそうなんや」

「はぁ。その前に、認識のすり合わせをしてもいいですか?」

「ええよ」


話し始めた赤司を、ダーシーが手で制して止める。

そのあと彼の合図で、タオローという大男が胸元から取り出した冊子を開ける。


「こちらの認識では、アキバで〈大神殿〉の情報を書き換えるのを補助する代わりに、

ミナミにいる、あなたたちの仲間の救助を手伝ってほしいと、いうふうになっている。

この救助には、かなりの危険が付きまとうとも聞いている」


一息で言い終えたタオローが、赤司、コンコン、丹波を順番に見る。

大男に睨まれて、ほんの少しコンコンの尻尾が震える。


「そうやな、それがアニアが持ってきた話のはずや。こっちとしてはその内容でもええんや。

でもな、そっちにとっては納得いかん内容やろう?」

「そうですね」


ダーシーの短い返答で、赤司もコンコンも彼らの不信感を感じとる。

やはり赤司の予想通り、コンコンが得ていたわずかばかりの信頼は崩れ去ってしまったようだ。

しかし、今さらそんなことを気にしていられない。

赤司は努めて明るく、軽快に言葉を紡ぐ。


「だから、その内容を修正したものを伝えに来たんや」

「・・・ではその内容を聞かせていただこう」


タオローの言葉で、赤司に視線が集まる。

赤司はゴクリと唾を飲み込んでから話し始めた。


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