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67.
胡桃が朝ごはんを食べに降りると、そこには少数の〈冒険者〉たちしかいなかった。
味のある食事〈クレセントバーガー〉が出てからは、ここの客はめっきり減った。
それでも胡桃は出かけたくない日は、ここで食事をとる。
彼女は見知った顔の隣に腰かけて、トーストと目玉焼きを頼む。
すると、隣に座る少年が声をかけてきた。
「コンコンさんたち少しの間、アキバにおらんらしい」
「そうなん?どこ行ってしまったんやろうね?」
「わからん。おれらには、なんも話してくれへんかったなぁ・・・」
「そうやね・・・。でも、コンコンさんを信じて、ここまで来たんやし、話してくれるの待つしかないんちゃう?」
胡桃がそういうのに、話しかけた雷牙は少し驚いた。
それまでの彼女とは違う、覚悟を感じて、いつの間にか彼女が自分より強くなってしまったような気持になった。
彼の焦りに気付かない胡桃が、出されたトーストに目玉焼きを載せてかぶりつく。
いつもの味気ない、ふやけたダンボールを咀嚼して飲み込む。
ついつい、心の声が漏れてしまう。
「早くおいしいご飯が、どこでも食べれるようになったらいいんやけどな」
「〈クレセントバーガー〉高いし、めっちゃ並ぶもんな」
雷牙はついこの間口にした〈クレセントバーガー〉を思い出す。
長蛇の列に並んだし、その値段も目を見張るものだたが、その味は格別だった。
胡桃もあの味を思い出したのか、目を輝かせる。
「でも、美味しかったやんな!」
「苦手なトマトが食えるぐらいにな」
「・・・よかったやん。ふふふ」
「バカにしとるやろ・・・?」
首をすくめる胡桃に、雷牙はわざと怒ったような表情をして言い返す。
そのあと2人で笑いあうと、なんだか初めて会った時のようだった。
まだ、何も持っていなくて、途方に暮れていたころだ。
「なんか、めっちゃ遠くに来たな。おれら」
「うん。そうやね。いろいろな人らに、いっぱいもろたね」
「おれらも、がんばったやんな」
「うん!雷牙くんはがんばった!」
「胡桃もな」
雷牙に褒められて、胡桃は少しくすぐったいような気持になった。
やっと追いかけるばかりだった雷牙に、追いつけたような気がしたのだった。
「最初のころは泣き虫やったけど、今はそんなことないもんなー」
「うぅ・・・。確かに泣き虫やったけど・・・、ひどいわぁ。」
胡桃が唇を尖らせると、雷牙が目を爛々と輝かせる。
その顔は、好奇心でいっぱいだと物語っていた。
「そんなことよりさ、今日アキバを見て回らへん?めっちゃ面白いもんありそうやん?」
「うーん・・・。今日はやめとくわ・・・」
「えー?なんでぇな?どっか行こうやぁ。胡桃の部屋ん中ばっかりで退屈やろ?」
事実、アキバに到着してから、おつかいに行った日以外ずっと宿に籠っている。
最初は旅の疲れから、外出したいとも思わなかったが、今は退屈でしかたない。
それでも、彼女はまだ気持ちの整理がついていなかった。
アキバの街が、怖い街ではないことは少しずつ分かってきていた。
ミナミの街とは違うことも頭では理解している。
それでも、まだ雷牙と2人で外出することには、不安を覚えていた。
「で、でも・・・。もう少しゆっくりしたいやん?」
危険だから、そういってもきっと納得してくれないだろう雷牙に、曖昧な返答ではぐらかす。
「そうか?んー。ならおれも行くのやめるわ」
「ほんま?」
「一人で行ってもつまらんやん」
「そうやんね!」
雷牙の返事を聞いて、なぜかすごく安心した気持ちになった。
自分ひとりで宿に閉じこもっているのも、なんとなく心細いのだ。
(うち、こうやって雷牙くんに甘えてばっかりやんな・・・)
申し訳なさと不甲斐なさに苛まれつつ、胡桃はにっこりほほ笑んだ。
その隣で、雷牙は今日の予定を立て始める。
「じゃぁ、今日は戦闘訓練つけてもらうかな?
AGEさんとか前衛職やし、いろいろ教えてもらえへんかな?」
「いいやん。そうしようや」
「あとで頼みにいかなな」
胡桃の思惑通り、今日も宿の中で過ごす方向で話が進んでいく。
ふと、胡桃はアニアのことを考えて口を開く。
彼女の友達を迎えに行く計画が、どうなるのか分からない。
だが、その計画があるなら、胡桃たちはどうなるのか気になった。
「私たちも強くなれるやんな?」
「なれる!なれる!そしたら、おれはいろんなダンジョンに挑んで、モンスター倒しまくるねん!」
「え?あ・・・、そうなんや・・・」
(やっぱり男の子やなぁ。うち、置いてかれるんやろか・・・。
でも、雷牙くんが楽しいんやったらいいかな・・・)
寂しい気もしたが、それでも胡桃はミナミにいたころと比べ物にならない、雷牙の生き生きとした顔に嬉しくなる。
雷牙はそんな胡桃の気持ちには気づいていなかったようだった。
「そうと決まれば早速、訓練やなー。胡桃もいくで!」
「あ、う、うん」
「ダンジョン潜るには、最低でも6人のパーティーがいるやろ?
あと4人は仲間を集めなあかん!」
雷牙は指を折って、数え始める。
彼の指が、最初から2本折られていることに、胡桃は疑問を感じる。
「4人・・・?」
「だってそうやろ?
胡桃と俺以外に、もうあと4人おらんと、パーティーになれへんやん?」
「うん?わ、私も一緒にいく計画なん・・・?」
置いて行かれるとばかり思っていた胡桃は、驚いて声がひっくり返る。
その様子を不思議そうに見た雷牙は、当たり前のように言う。
「へ?当たり前やん?来うへんの?」
「う、うん。・・・考えとくわ!」
そう元気に返事をしてみたものの、彼女は本当に自分が行きたいかは分からなかった。
(だって、モンスターこわいんやもん・・・!)
やっと〈円卓会議〉の設立まで数話のところまで、到達いたしました。
1つ1つの話が短いのに、ずいぶんと長くかかってしまいました。
今後も、気の向くままにダラダラと垂れ流していこうかと思っております。
どうぞお付き合いくださいませ。




