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アキバの街でのグズグズ期間(作者の煮詰まり期間)が終わりました。
やっと物語が動き始めてくれたらいいなぁと、思うております。
引き続き、不定期更新は変わりません。申し訳ないです。
少しずつ、お話しを練っておりますので、お付き合いください。
66.
ヨコハマへと出発する赤司たちを見送るために、AGEとタカム、セルクルは宿の外に出る。
3人は太陽から降り注ぐ、温かい朝日に包まれた。
昨日に比べたら、かなり元気になったように見えるコンコンが3人に気が付いて、にこりと笑った。
「おはようはん。わざわざ見送りかいね?」
「おはようございます。まぁ、そんな感じですかね」
「悪いなぁ。こんな慌ただしいことになってもうて」
「いえいえ。こんな時だし、仕方ないでしょ?」
丹波の謝罪に、2人とも笑うしかない。それ以上の言葉は出てこないだろう。
正直、こんな状況では何が起きるかは神様にしかわからない。
それをうまく乗り越えるのが、今1番大切だった。
「〈鷲獅子〉だったら急げば日帰りで行けそう」
「どうやろうな。話の進み具合にもよるやろうな」
「うちらがおらん間、雷牙と胡桃を頼みますえ」
「まぁ、クロノもいるし、なんとかなるでしょ?」
コンコンが最後まで気にしていたのは、雷牙と胡桃の初心者2人だった。
彼女が連れてきたにも関わらず、ほとんど何もしてやれないことを悔んでいた。
そして、悔やむことしかできない自分に、自己嫌悪を感じていた。
AGEはこっそりと赤司に近づいて、小声でささやく。
表情こそ何食わぬ顔をしているが、声を落としての会話に赤司も耳をそばだたせる。
「もしかしたら、70人収容できる場所あるかも」
「ほんまか?」
「ただし、使えるかは分かんない。努力はしてみるけど」
「頼むわ」
「ん」
無理を承知で頼んだにも関わらず、一晩でその場所を見つけてきた友人に、赤司は目を見開く。
持つべきものは、頼れる友人だ。
短い、こっそりとしたやり取りの後、2人は互いに頷きあう。
そして何事もなかったかのように、あいさつをした。
「いってらっしゃい。気を付けて」
「ほな、いってくるわ」
そういって宿を後にする彼らが、アキバの門へと急ぐ。
彼らの後姿を追いかけたのは、セルクルだった。彼女は、コンコンの腕をとって、引き留める。
その表情は、固かった。彼女たち2人の間でしか聞こえない声で、セルクルはささやく。
「コンコンさん・・・。私からお兄ちゃんたちを取らないで・・・」
「え・・・?」
予想していなかった言葉に、コンコンはなんとも驚く。
だが、小柄な少女はその瞳に、強い光を宿して見つめ返してくる。
「コンコンさんは、ずるいと思う。
AGE兄ぃが、困ってる人を放っておけないのを知ってて、いろいろお願いしてくるでしょ?」
否定できない内容に、コンコンは言葉を失う。確かに彼女は、彼の人の好さを知っていた。
だが、セルクルの言葉はそれだけで終わらなかった。
「AGE兄ぃがやるって言ったら、私やタカム兄ぃも付いていくのも知ってるでしょ?
今までは、そうだったよ。だってゲームだったし、面白かったから。
でもね、今はもうゲームじゃない・・・。痛いのも、怖いのも、全部自分で感じなきゃいけない・・・」
セルクルは落ち着きなく、目をきょろきょろさせながらも、言葉をつなげていく。
最初は自信がなさげだった声も、最後の言葉は決心したような声だった。
「でも、今回はそうはさせない・・・!
私だって、お兄ちゃん達に守られるだけじゃない!私だって、お兄ちゃんたちを守れる!
だから・・・、ごめんなさい。コンコンさん・・・」
そこまで言い切ると、セルクルは逃げるように、兄たちの元に戻っていく。
2人の兄の間に収まった彼女の姿から、コンコンは悲痛な思いを抱きながら目を反らす。
待たせていた赤司と丹波に追いつくと、コンコンはアキバの門に向かって行った。
「なぁ、セルクル、何の話してたの?」
「・・・いろいろ」
口の中でゴニョゴニョと返事をした妹を、タカムは横目で眺めた。
「ふぅん・・・。俺、二度寝しようかなー」
「別に、いいけど。なぁ、今日出かけられるか?」
「んー?いけど、なんで?」
グーッと伸びをしつつ、返事をする弟にAGEは満足そうに笑いかける。
タカムの視線は、昨日と打って変わった表情の兄に投げられる。
「ちょっとね、付き合ってほしいんだけど?セルクルも」
「・・・え?」
「大丈夫。パルさんに会いに行くだけだから」
「なんだ、おっさんに会いに行くだけかー。なら、適当に起こしてー」
弟妹が宿に入る姿を確認して、AGEはフレンドリストから1人の名前を探す。
時間を考えて一瞬躊躇したが、結局念話をかける。
8回目のコールで相手はようやく出た。
「なんだよ・・・?ったく、朝早くに・・・」
「いやぁ、パルさん。すみません。お久しぶりです」
「あー。セルクルちゃんのお兄さんか・・・。なんか用事?」
「はい。ちょっと込み入ったお願いなのですが、今日お時間いいですか?」
念話に不機嫌そうに出たのは、セルクルの所属するギルド、〈アキバ動物園〉のギルドマスターであるパルだった。
可愛らしい名前をしているが、中身もキャラクターの見た目も、30後半のいいおじさんである。
AGEの言葉に、パルの声はより不機嫌になった。
「なに?念話じゃだめなの?」
「はい。念話じゃダメなんです」
「念話で言えないようなことね・・・。やな予感」
「まぁまぁ、セルクルも連れていきますし。ね?」
このおじさんは、セルクルを自分の娘のように可愛がっている。
彼自身は、決してロリコンではないと自称しているが、周りからは疑いをかけられていた。
AGEもその実態が、「娘が一緒に〈エルダー・テイル〉で遊んでくれなくて拗ねてるおじさん」だと分かるまでは疑いの目を向けていた。
「セルクルちゃん来るのか・・・。ならいいよ」
「じゃぁ、今日のお昼頃でいいですか?」
「うん。いいよ。場所は追って連絡して」
(このおじさん、セルクルにはとことん甘い・・・)
生返事で承諾したあと、AGEは念話を切る。
この念話の相手こそ、赤司に言っていた70人収容できる場所の所有者だった。




