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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・下
66/82

66

アキバの街でのグズグズ期間(作者の煮詰まり期間)が終わりました。

やっと物語が動き始めてくれたらいいなぁと、思うております。

引き続き、不定期更新は変わりません。申し訳ないです。

少しずつ、お話しを練っておりますので、お付き合いください。

66.


ヨコハマへと出発する赤司たちを見送るために、AGEとタカム、セルクルは宿の外に出る。

3人は太陽から降り注ぐ、温かい朝日に包まれた。


昨日に比べたら、かなり元気になったように見えるコンコンが3人に気が付いて、にこりと笑った。


「おはようはん。わざわざ見送りかいね?」

「おはようございます。まぁ、そんな感じですかね」

「悪いなぁ。こんな慌ただしいことになってもうて」

「いえいえ。こんな時だし、仕方ないでしょ?」


丹波の謝罪に、2人とも笑うしかない。それ以上の言葉は出てこないだろう。

正直、こんな状況では何が起きるかは神様にしかわからない。

それをうまく乗り越えるのが、今1番大切だった。


「〈鷲獅子〉だったら急げば日帰りで行けそう」

「どうやろうな。話の進み具合にもよるやろうな」

「うちらがおらん間、雷牙と胡桃を頼みますえ」

「まぁ、クロノもいるし、なんとかなるでしょ?」


コンコンが最後まで気にしていたのは、雷牙と胡桃の初心者2人だった。

彼女が連れてきたにも関わらず、ほとんど何もしてやれないことを悔んでいた。

そして、悔やむことしかできない自分に、自己嫌悪を感じていた。


AGEはこっそりと赤司に近づいて、小声でささやく。

表情こそ何食わぬ顔をしているが、声を落としての会話に赤司も耳をそばだたせる。


「もしかしたら、70人収容できる場所あるかも」

「ほんまか?」

「ただし、使えるかは分かんない。努力はしてみるけど」

「頼むわ」

「ん」


無理を承知で頼んだにも関わらず、一晩でその場所を見つけてきた友人に、赤司は目を見開く。

持つべきものは、頼れる友人だ。

短い、こっそりとしたやり取りの後、2人は互いに頷きあう。

そして何事もなかったかのように、あいさつをした。


「いってらっしゃい。気を付けて」

「ほな、いってくるわ」


そういって宿を後にする彼らが、アキバの門へと急ぐ。

彼らの後姿を追いかけたのは、セルクルだった。彼女は、コンコンの腕をとって、引き留める。

その表情は、固かった。彼女たち2人の間でしか聞こえない声で、セルクルはささやく。


「コンコンさん・・・。私からお兄ちゃんたちを取らないで・・・」

「え・・・?」


予想していなかった言葉に、コンコンはなんとも驚く。

だが、小柄な少女はその瞳に、強い光を宿して見つめ返してくる。


「コンコンさんは、ずるいと思う。

AGE兄ぃが、困ってる人を放っておけないのを知ってて、いろいろお願いしてくるでしょ?」

否定できない内容に、コンコンは言葉を失う。確かに彼女は、彼の人の好さを知っていた。

だが、セルクルの言葉はそれだけで終わらなかった。


「AGE兄ぃがやるって言ったら、私やタカム兄ぃも付いていくのも知ってるでしょ?

今までは、そうだったよ。だってゲームだったし、面白かったから。

でもね、今はもうゲームじゃない・・・。痛いのも、怖いのも、全部自分で感じなきゃいけない・・・」


セルクルは落ち着きなく、目をきょろきょろさせながらも、言葉をつなげていく。

最初は自信がなさげだった声も、最後の言葉は決心したような声だった。


「でも、今回はそうはさせない・・・!

私だって、お兄ちゃん達に守られるだけじゃない!私だって、お兄ちゃんたちを守れる!

だから・・・、ごめんなさい。コンコンさん・・・」


そこまで言い切ると、セルクルは逃げるように、兄たちの元に戻っていく。

2人の兄の間に収まった彼女の姿から、コンコンは悲痛な思いを抱きながら目を反らす。

待たせていた赤司と丹波に追いつくと、コンコンはアキバの門に向かって行った。


「なぁ、セルクル、何の話してたの?」

「・・・いろいろ」


口の中でゴニョゴニョと返事をした妹を、タカムは横目で眺めた。


「ふぅん・・・。俺、二度寝しようかなー」

「別に、いいけど。なぁ、今日出かけられるか?」

「んー?いけど、なんで?」


グーッと伸びをしつつ、返事をする弟にAGEは満足そうに笑いかける。

タカムの視線は、昨日と打って変わった表情の兄に投げられる。


「ちょっとね、付き合ってほしいんだけど?セルクルも」

「・・・え?」

「大丈夫。パルさんに会いに行くだけだから」

「なんだ、おっさんに会いに行くだけかー。なら、適当に起こしてー」


弟妹が宿に入る姿を確認して、AGEはフレンドリストから1人の名前を探す。

時間を考えて一瞬躊躇したが、結局念話をかける。

8回目のコールで相手はようやく出た。


「なんだよ・・・?ったく、朝早くに・・・」

「いやぁ、パルさん。すみません。お久しぶりです」

「あー。セルクルちゃんのお兄さんか・・・。なんか用事?」

「はい。ちょっと込み入ったお願いなのですが、今日お時間いいですか?」


念話に不機嫌そうに出たのは、セルクルの所属するギルド、〈アキバ動物園〉のギルドマスターであるパルだった。

可愛らしい名前をしているが、中身もキャラクターの見た目も、30後半のいいおじさんである。

AGEの言葉に、パルの声はより不機嫌になった。


「なに?念話じゃだめなの?」

「はい。念話じゃダメなんです」

「念話で言えないようなことね・・・。やな予感」

「まぁまぁ、セルクルも連れていきますし。ね?」


このおじさんは、セルクルを自分の娘のように可愛がっている。

彼自身は、決してロリコンではないと自称しているが、周りからは疑いをかけられていた。

AGEもその実態が、「娘が一緒に〈エルダー・テイル〉で遊んでくれなくて拗ねてるおじさん」だと分かるまでは疑いの目を向けていた。


「セルクルちゃん来るのか・・・。ならいいよ」

「じゃぁ、今日のお昼頃でいいですか?」

「うん。いいよ。場所は追って連絡して」


(このおじさん、セルクルにはとことん甘い・・・)


生返事で承諾したあと、AGEは念話を切る。

この念話の相手こそ、赤司に言っていた70人収容できる場所の所有者だった。


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