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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・下
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65.


その夜、AGEはタカムとセルクルと顔を合わせるのを、憂鬱に感じていた。

彼は、また兄弟には言いずらいことを抱えてしまった。


「あ、AGE兄ぃ、おかえりー。・・・どうしたの?怖い顔して?」

「え・・・?」

部屋に入った途端、セルクルにツッコまれてしまう。


「んー?兄貴が怖い顔してるって?・・・どれどれ、今度はどうした感じ?」

セルクルの言葉に、タカムまでもが衝立の向こうから顔をのぞかせる。


「怖い顔って・・・、俺そんな顔してる?」

自分の顔を触るAGEに、2人は息の合った動きで頷くのであった。


「兄貴+怖い顔=何か困りごと。つまり、俺たちに何か言いたい、だろ?」


そう言いながら、タカムはじっとAGEを見つめる。

どうも彼は、隠し事がめっぽう苦手なようだ。

自分から切り出す必要性がなくなっても、AGEの気持ちは軽くならなかった。


「2人に、相談をしなきゃいけないことがある・・・」

AGEは2人に向き直り、重い口を開く。

タカムもセルクルも、視線を交し合ってからその続きを待った。


「今日、コンコンさんから、今後の計画に参加してほしいっていう依頼を受けてきた。

ことの発端は、アニアさんがミナミに戻りたがってってこと。理由は、彼女のサブPCを迎えに行きたいかららしい」

「・・・それって!」

「うん。質問の前に、全部話ししていい?」


タカムが口を挟むのを抑えながら、AGEは話を続ける。

話たいことは山ほどあるが、全部話しているといつまでも終わりそうにない。


「でも、今のミナミの現状では難しい。街の周りには、街に出入りしようとする〈冒険者〉を襲うパーティーが巡回してる。

彼らに対抗するには、ハーフレイドの体制で向かう必要があると、コンコンさんは考えてるらしい」

AGEの言葉に、セルクルはビクッと体を震わせた。


「計画は2段階になってる。1段階目は、ハーフレイドのメンバー集め。

これは、ヨコハマにいる中華サーバーのプレイヤー達と交渉するとは言ってたけど、現状は不明」


AGEはちらりと2人の反応を伺う。

タカムは表情に大きな変化は見られなかったが、何やら深く考え込んでいるようにも見えた。

一方のセルクルは、大きな瞳を落ち着きなくキョロキョロとさせている。


「2段階目は、実際にミナミに出向いて、力づくでアニアさんのサブを連れ帰る。

これも、詳細は不明・・・」

「・・・はい。アニアさんのサブPCっていうのの、詳しい発生理由は?」


AGEが言葉を切ると、タカムが間髪入れずに質問を浴びせてくる。

この世界に来てから、何度も思っていることだが、なかなか鋭い弟である。

自分の弟に感心しつつ、AGEはそれに関しての回答を探す。


「あの日、アニアさんは、メインとサブ両方でログインしてた。

そして両方のアカウントで〈大災害〉に巻き込まれた。どっちも本人っぽい。今分かってるのはそれだけ」

「じゃぁ、中華サーバーのプレイヤー達と交渉の材料は?」

もう少し何か感想があってもいいのではないかと思いつつ、AGEは淡々と回答していく。


「彼らは、中華サーバーでひどい目にあって、ヤマトに逃げてきた〈冒険者〉たちなんだ。

〈大神殿〉の情報を書き換えたい。けど、低レベルプレイヤーを守りながらアキバに来るのは難しい。

だから、そこを手伝おうって話だったけど、どうなるかは分からない」


一通り、話しが終わると、3人の間に沈黙が訪れた。

AGEは、弟妹の反応によっては、自分も参加を見合わせる考えもあった。

その場合、今後どうするかを考えていると、セルクルが急に立ち上がった。


「私、ちょっと考える・・・」

「お、おう・・・」


1番嫌がると思っていたセルクルの。意外と淡泊な反応にAGEは拍子抜けする。

隣でタカムも驚いたような表情を浮かべていた


「・・・ちょっと、追い詰めすぎちゃったかな?」

「かもな・・・」


彼女が衝立の向こう側に姿を消すのを見届けて、AGEは目頭を押さえる。

彼もまた、思い悩んでいた。

しかし、そんな彼を呼び出したのは、念話の着信音だった。


「赤司?どうした?」

「遅くにわりぃな。ちょっと出れへんか?」

「えー?明日じゃダメなの?」

「あかんねん」


彼はセルクルをタカムに任せて、しぶしぶ部屋を抜け出した。

人気のない食堂に足を踏み入れる。

暗がりに浮かぶ赤司の表情に、AGEは嫌な予感がした。


「どうした?」

「相談したいことがあるんや」

「コンコンさんたちとじゃなくて、俺と?」

「あいつらじゃ役立たへん。この街に詳しい奴やないと・・・」


赤司はそこまで言ってから、難しい表情を浮かべる。

AGEは今後、彼をどこまで助けられる分からない。

助けるられるのは、今のうちだろう。


「なんだー?また面倒くさいやつか?」

「そうやで。あのバカ狐の尻拭いを、俺1人にやらさんでくれ」

「えー。俺を巻き込まないでよ」


へらへらと笑いながら、彼らはお互いの真意を知っている。

コンコンの尻拭いは、2人とも慣れたものだった。

今回のように、相手が生身の人間というのは初めてのことだったが。


「で?何が必要なの?」

「70人が収容できる施設」

「ふぁーーーっ!無理!それはさすがに無理!無理!無理!」

「やっぱそうやんな。はぁぁ」

「え?てか、まずそれをどうすんの?は?」


面白がっているようにも取れるASEに、赤司自身も半笑いになってしまう。


「中国人たちや。あいつら70人くらいおんねん。

来てもろうて、とんぼ返りでヨコハマにってわけにはいかんやろ?」

「それは超ハードスケジュールだわ」

「やから、最低でも2、3日、収容できる場所が必要やねん。・・・なんや?」


AGEが顔をまじまじと見てくるのに、赤司は変な顔をする。


「いやぁ、赤司がちょっとコンコンさんに似てきたなって思って」

「勘弁してや。気色悪い」

「でも、大胆なことするようになったよね。前の詳細ねちねち赤司が嘘みたい」

「だれがねちねちやって?」

「だっていっつも。確率がーとか、なんとかのパーセンテージがーとか言って・・・」


赤司の顔に青筋が立ち始めたので、AGEはやんわりと微笑んで逃げることにする。

頭の中で、70人を収容できる場所を探しながら、部屋に引き返した。


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