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「・・・それぞれにも、お願いしたい役割があります。
まず、ハーフレイドの指揮は赤司はんに、AGEはんには、うちと壁役。
丹波はん、クロノはん、タカムはんには前衛での戦闘。
そして、セルクルちゃんには後衛からの支援を、その他の部分は今後埋めていく予定です・・・」
コンコンが、計画を一通り説明すると、部屋はしんっと静まり返ってしまった。
誰もが困惑し、どうコメントするかを決めかねている。
「だから、ここにアニアさんがいないのか・・・」
AGEの言葉には、さっきまでの余裕は全く感じられなかった。
計画を修正できるとばかり思っていた彼にとっては、大きな誤算だった。
「アニアちゃんは、もうヨコハマにいはります。
・・・おそらく、既に中華サーバーのプレイヤーたちと接触しとるかと・・・」
コンコンは、恐る恐る赤司の顔色を窺う。だが、その表情を見て、さっと視線を外すのであった。
「・・・想像以上に、無茶苦茶な計画やったなぁ・・・」
ぽつりと、赤司は呟いた。その声音は落ち着いているようにも聞こえた。
だが、その表情は怒りを通り越して、呆れと達観が見え隠れしている。
「これは、俺もどうしようもないで・・・。
俺らよりも、先にヨコハマの連中に知らせてしまうとは、軽く見られたもんやなぁ・・・」
「それは、最初にアニアちゃんに伝えて、彼女が今すぐにでも出発したいって言うから、つい・・・」
赤司の刺々しい言葉を受けて、コンコンの肩身は狭くなる。
言い訳をしてみるものの、それは逆効果で、場の空気は冷え切ってしまった。
「その前提がちょっと変だよね・・・。せめて、同じ時に聞かせてほしかったよね・・・」
クロノも気まずい表情を見せる。
丹波に至っては、自分が全く頼られなかったことにショックを受け、何も話せない。
そんな中、AGEが申し訳なさそうに、でもしっかりとした口調で断りを入れた。
「申し訳ないけど、俺たち兄弟の参加は、2人と相談してから決めさせてもらいます。
正直、参加したくないけどね・・・。自分はまだしも、弟、妹を巻き込むのは、気が進まないしね」
最初の明石の言葉で、ある程度予想がついていたとはいえ、AGEの返答はコンコンにとって、痛手だった。
パーティーの要である壁役は、信頼できるAGEをと思っていたが、そこが空白になってしまった。
「そうだねぇ。俺も、少し考えさせてほしいな。
面白そうだとは思うけど、なんかその対応はちょっと違うんじゃないかって思うよね」
困ったような表情のクロノもやんわりと、不参加を匂わせる回答をしてくる。
「俺も、その計画には参加できひんな。何よりもヨコハマの奴らが不憫すぎる」
「でも、ヨコハマの人らも、アキバに来れるんやし・・・」
言いかけたコンコンの言葉は、赤司の声にかき消される。
「ヨコハマの奴らやって、事前に何の相談もなく、そんな要求突きつけられて、いい気分せんと思うで?
アニアを助けたいっていう、お前の気持ちは分からんくもない。
けどや、それで他の大勢を追い詰めて、不快にして、それでほんまにいいんか?」
自分よりも、10近く若い少年に、ここまで言われるとは想像していなかった。
コンコンは、今まで何かと周囲の人間に開けて通されてきたことを、初めて実感する。
「そんなん・・・考えすぎで禿げてしまいますわ・・・」
「・・・普通はそこまで考えるもんやって」
「なんで、うちのやることは上手くいかんのやろう・・・?」
その様子を見て、コンコンは唇を震わせた。
「お前が全部自分で抱え込んで、勝手にいろいろ行動してしまうからに決まっとろう。
〈霊峰フジ〉に初日の出見に行ったときも、そうやったやないか」
赤司の手厳しい指摘をくらい、コンコンはまた身を縮めるのであった。
「はぁ・・・。お前の計画をもとに動こうが動かまいが、ヨコハマの奴らとの約束をどうにかしなあかん。
アニアの件は、かなり後回しになってしまいそうやなぁ・・・」
赤司の表情は、その声音と同じくらい暗かった。
彼だって、アニアとその「半身」のことを、全く顧みていないわけではない。
どちらかというと、かなり気にはしていた。
しかし、この勝手な計画で混乱した中、どうしても優先順位的に後回しにせざるを得なかった。
「ほんまに、恨むで・・・」
そう言って赤司が睨んだのは、コンコンではなく、丹波の方だった。
睨まれている方は、ぼんやりとしてその事実に気付いている素振りもない。
その様子に、再度大きなため息をついてから、赤司は思考を巡らせる。
彼と約束してしまったからには、赤司もなんとか場を丸く収める努力をしなければならないだろう。
「明日、ヨコハマに行って、謝罪会見するしかないやろうなぁ。
そこで、相手の反応を見てから、アニアのことをどうするか決める以外、手はないやろう・・・」
赤司は、矢継ぎ早にコンコンと丹波に指示を出した。
最後に、赤司がアニアに念話を入れる。
「アニアか?どうやそっちは?・・・おう。・・・おう。・・・そうか。
・・・実はな、ちょっとな問題があって俺とコンコン、丹波で明日そっちに向かうことになったんや。
俺らが着くまで、極力大人しくしとき。・・・理由?それは・・・、着いたら言うわ」
念話の向こうで不安そうな少女に、赤司は精一杯優しい声で伝えた。
同時に、自分のキャラではないと、鳥肌がたつのだった。
(はぁ・・・。これから、あのおバカ姉さんの尻拭いかいな。いつもながら、ちょっと俺のことをこき使いすぎちゃうか?)
赤司は心底嫌そうな顔をしながら、大いに頭を抱えるのだった。




