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62.
「どうしたんだ?急に会議をしたいなんて、何かあったのか?」
タオローが慌てて部屋を訪れる。
その表情はまた厄介ごとかといっていた。
「ちょっと気になることがあるの。来てくれてありがとう。タオロー」
それをメイズとティエンシャンは、困ったような表情で迎えた。
「はぁ、それはどんなことなんだ?また揉めるのか?」
「それは・・・どうか分からない」
「分からない?なぜ?」
2人は困惑するタオローに、十分な説明をできないことが歯がゆかった。
それでも飛んできてくれた彼の優しさに感謝する。
シェンシュンはタオローほど緊迫した様子はなかったが、渦中のダーシーの登場で2人に緊張が走る。
メイズに目配せしてから、ティエンシャンが口を開いた。
「急だったのに集まってくれてありがとう。
単刀直入に言うわ。ダーシー、私たちに何か言わなくちゃいけないことがあるんじゃない?」
「え・・・?急に何を言い出すんだい・・・?」
ティエンシャンの鋭い指摘に、ダーシーは慌てて表情を取り繕う。
うまく隠していたつもりだったが、彼女たちには見破られてしまっていた。
「昨日、すごく様子が変だった。急に戦闘が怖いなんて言い出すから、心配なの。
ねぇ、あなただけですべてを背負い込むことないでしょ?今までのように、みんなで乗り越えましょう?」
ダーシーの様子を見て、メイズが畳みかける。
「ほんとうに、メイズには敵わない・・・。
確かに僕はみんなに隠し事をしてる。と、いうか1人で悩んでることがあるって言うのが正しいかな。
・・・僕は今、あるヤマトの〈冒険者〉に、交渉を持ち掛けられている・・・」
ある日本人からの相談が、彼を悩ませていた。
「なんでそんな大事な話を俺たちに黙ってたんだ!ダーシー!」
タオローが、珍しく声を荒げる。
その横のシェンシュンも、眉間を寄せて険しい表情を浮かべている。
正直、メイズとティエンシャンすら、その言葉驚愕していた。
「先週、あのコンコンっていうアキバに向かっていた〈冒険者〉から、アキバ到着の連絡があったんだ。
そしたら今度は、昨日コンコンの遣いだっていう〈冒険者〉が来た。
正直びっくりした。あの『ヒールエンジェル☆アニア』が訪ねてきたから・・・」
仲間に対して、すまなさそうに頭を下げるダージーの表情はどこか苦しそうであった。
だが、そんなダーシーに勢いよく詰め寄る存在がいた。
「え!?ダーシー!アニアたんに会ったの!?ずるい!」
話が大きくそれるが、シェンシュンはアニアの大ファンで、ファンサイトに登録しているほどだ。
「う、うん・・・?ごめん・・・?」
「アニアたんが、この街にいるんだ・・・」
夢を見るような呆けた表情をしているシェンシュンから、ダーシーはそっと身を離した。
メイズとしては、ダーシーが内緒で女性と会っていたこと問い詰めたかったが、今回は胸にしまうことにして話を促す。
「それで?・・・そのアニアさんはなんて?」
「・・・アキバの街に、僕たちが移動する計画案の提示と、そのサポートを申し出てきた」
「え?・・・どういうこと?つまり彼らは、何のゆかりもない私たちの面倒をみようってこと?」
先ほどまで比較的冷静だったティエンシャンが、疑い深い声でつぶやく。
しかし、その気持ちはそこにいた全員が共有するものだった。
現在の〈エルダー・テイル〉で、赤の他人にそこまでするのは何故なのか?
何か裏があるように感じられるのは、仕方のないことだ。
「ただ、面倒を見てくれるわけじゃない。・・・彼女は、それに見返りを要求している。」
ついにダーシーは、言ってしまった。
これが、昨日の時点で、彼がこの話を他の人間に伝えることができなかった理由だった。
「見返り・・・?コンコンさんは、無償で情報提供を申し込んでくれたんじゃないの?
私たちが頼んでもないサポートに、対価を求めるなんて、少し可笑しくない?」
「だから、迷ってたんだ。簡単あの人を信じた僕の間違いだったんじゃないか、って・・・」
部屋に長い沈黙が訪れる
「それで、その見返りって何?どうして、そんなに悩むわけ?」
シェンシュンが、それを破るようにダーシーに尋ねた。
その声には不安と少しの好奇心が見え隠れしていた。
ダーシーは口を開きかけて、一度躊躇する。
彼はちらりと、確かめるようにメイズに視線を投げた。
目が合った彼女は、金色の美しい瞳にダーシーをうつし、大きくうなづいた。
「彼女たちの仲間が、ミナミというプレイヤータウンに取り残されているらしい。
その仲間を救助しに行きたいそうだ」
「どういうことだ?それはそんなに難しいことなのか?」
「聞いたところだと、今ミナミには一部の高レベルプレイヤーたちに牛耳られているそうだ。
外部からの侵入・内部からの脱出を規制して、試みる者は容赦なく殺される・・・」
ミナミの惨状に、誰もが言葉を失った。
自由なはずの〈冒険者〉が、街に、力によって拘束されようとしているのだ。
まるで、自分たちのいた中国サーバーと変わらない。
「その救助に我々から、数人を参加させろと、要求された。
もちろん、その旅に出る前にアキバで〈大神殿〉の情報は書き換えられる。
でも・・・、いくら蘇るとはいえ、死ぬようなことにみんなを巻き込めない・・・」
部屋は水を打ったかのように沈黙が流れる。
今日の会議は、まだしばらく終わりそうになかった。




