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唐突に、コンコンから呼び出された丹波は、部屋に一歩立ち入った瞬間に絶句する。
ずっと部屋に籠りっきりだった彼女は、少し疲れたようにも見えたが、晴々とした表情だった。
「どうしたんや・・・?それ・・・」
しかし、丹波が驚いたのは、彼女の姿だった。
そう、『彼女』の姿に、驚いたのだ。
「元のうちの体系に、近づけてみたんよ。どうやろうか?」
丹波が驚いているのが嬉しいのか、コンコンはその場でクルリと回って見せる。
その容姿は、今までのコンコンをそのまま女性にしたという感じだった。
見事な金髪や、涼やかな蒼い瞳、白い滑らかな肌、〈狐尾族〉の特徴である耳と尻尾はいまだ健在だ。
しかしその体系は華奢になったし、控えめながら女性らしい膨らみや湾曲もある。
「いや、・・・うん。いいと思うけど・・・、あんなに男の姿にこだわってたんに、なんで・・・?」
丹波は、彼女の姿に目を奪われながらも、その急な変化に不安を感じる。
それまで、〈外見再決定ポーション〉を頑なに拒んでいた彼女が、一夜にしてその考えを変える。
頑固な彼女の、今までではあり得ない行動に、驚かされるばかりである。
「幸子ちゃんにね、いつまでもロールプレイの鎧を着て、隠れてたらあかんって言われたんよ」
「・・・幸子ちゃん?誰やそれ?」
心当たりのない名前に、丹波が首をかしげると、「あら!」と、驚いたコンコンは目を丸くする。
「覚えてはらへんの?アニアちゃんのことですえ?・・・オフ会でおうたんに」
「・・・まぁ、ええわ。つまり、アニアに感化されたってことやな?」
そう丹波がまとめると、コンコンはいまいち納得した様子ではないが、うなづいた。
「・・・あの日以来、うちはコンコンを演じることで、混乱しとって自分を守っとった。
でも、うちも自分で戦わなあかんかなって思ったんよね・・・」
そう呟いて、コンコンはにっこりとほほ笑む。その晴々とした表情に、丹波も少し安堵するのであった。
「・・・もうそろそろ、俺らの存在にも触れてもらってええかなぁ?」
丹波の耳に、不服そうな赤司の声が届く。
入口を振り返れば、一緒にやって来たはずの赤司とAGE、クロノが立っている。
コンコンに呼ばれたのは、なにも丹波だけではなかったのだった。
あまりの驚きに、すっかりその存在を忘れていた。
「まぁまぁ、赤司。丹波にとっては、一大事だったんだし、許してあげなよ」
「そうだよ。それに、この話のために呼ばれたわけじゃないだろうしね?」
クロノが苦笑しながら、なだめるように赤司の肩に手を置く。
同調して、AGEがちらりとコンコンに目線を向けた。
「あたり前やわぁ。うちが話したかったんは、アニアちゃんの件です。」
コンコンは、さっさと話題を切りかえる。
これ以上、短気な赤司を待たせて、機嫌を損なうのはなんのメリットもないからだ。
「それは、俺らに相談をしたいってことか?それとも、お前の中にある計画を伝えたいってことか?」
しかし、彼女の目論見ははずれてしまう。
話題を挙げた途端に、赤司の表情はより険しいものになってしまったのだった。
「え、ええ、まぁある程度は決まってるから、それの報告を・・・。何がそんなに気にいらへんの?」
赤司の様子に耐えかねたコンコンは、そう不満を漏らす。
彼女が苦心して立てた計画を、聞く前から拒絶されているようで良い気分がしない。
「なら、遠慮なく。まず、第一に、なんでそんな大きな計画を立てるんに、誰にも相談せんかったんや?」
話を振られた彼の言葉の端々には、コンコンに対する非難が織り交ぜられていた。
それを感じ取ってか、質問を投げられているコンコンは表情を強張らせる。
「なんでって・・・。それは、アキバに着いたばっかりやし、みなはんには迷惑かけたなかったからです。
せっかく無事に着いたんやし、また心配事を抱えてたくないやない?」
「はぁぁぁ・・・」
コンコンの返答に、大きなため息をついたのは、やっぱり赤司だった。
その表情は苦痛さえ感じさせる。
部屋を訪ねてきた、他の面々も表情は決して明るくはない。
「お前、その考え少し変えなあかんで。正直、逆に迷惑や。
今回、お前が考えた計画には、俺らの協力は含まれてるんやないんか?」
「そうです。それぞれに、お願いしたい分野の分担も考えてありますえ?
赤司はんには戦闘の指揮、AGEはんにはパーティーの要の壁役、あと・・・」
きょとんとした表情で、それぞれの役割を口にしたコンコンを赤司が手で制す。
発言を制されたことに驚く彼女をよそに、赤司は呆れ声だった。
「そいで、俺らが協力しないって言いだしたらどうするつもりや?」
「え・・・?」
言葉を失うコンコンに代わって、赤司は再度口を開く。
元々、饒舌な彼は、今は特に言いたいことがあるらしく、いつも以上に舌が回る。
「俺は、戦闘なんかごめんや。AGEやタカム、セルクルやって〈大災害〉以降、本格的な戦闘を経験しとらん。
協力したいかなんて、お前には判断できんはずや。それを、勝手に決めてまうんはあかんやろう」
思ってもみなかった指摘に、コンコンは目を白黒させる。
そんな彼女を気遣ってか、AGEが2人の間を取り持つように割って入った。
「まぁ、まぁ、赤司の言うことも妥当だけど、とりあえず、コンコンさんの話を聞いてみような?
それから、いろいろ修正することもできるし。な?」
ショックを受けつつも、コンコンは話を促されて、なんとか気を取り直す。
ただ、その表情は、気まずそうに歪んでいた。
「・・・うちは、――――――――――」




