57
私、hanabusaは、関西圏に住んでおります。
しかし、関西の言葉とは、大変難しゅうございますね。
なぜ、こんなにも関西弁の登場人物を、登場させてしまったのか、
後悔している次第でございます。
方言を含めまして、お見苦しいところが多々ありますが、ご容赦くださいませ。
57.
アキバに到着して以来、赤司は宿の自室で過ごすことが多くなった。
知人は多いが、友人の少ない彼に、互いの無事を確認しあうような相手は数多くいない。
この日も、本当ならそんな1日のはずで朝を迎えた。
「赤司。ちょっと邪魔するでー」
「邪魔するなら帰れ」
ノックもせず、当たり前のように部屋に入ってくる丹波に対して、赤司は手元から顔も上げずに言い放つ。
こちらに来てから、彼が1人で赤司を訪ねてくるのは初めてのことだった。
「その言い方は酷いわなぁ・・・。まぁ、ええけど。
そんなことよりも、アニアの件で赤司に頼み事があるんじゃが。いいか?」
「・・・話してみい」
丹波の普段あまり見せない真剣な表情に、赤司にも緊張が走る。
普段は物事の表に立とうとしない彼が、こんな話を持ってくることが驚きをだった。
事の全貌を知らない赤司には、ほんの少し不安の残る話でもあった。
「悪いな。まず、アニアがミナミに戻りたがってるのは、知っての通りやけん省くな?」
丹波は、赤司の返答も待たずに話を続ける。
そんな彼の様子に、赤司は苦笑しつつも、心の準備と思考を整えるのであった。
「その理由は、自分の半身の安全を確保するため・・・」
「半身・・・?」
聞きなれない言葉に、赤司は眉をひそめる。
どんなに親交がある人物でも、相手を半身と呼ぶのは、赤司の基準では普通でない。
その後も、丹波の口からは、彼の興味を引く単語が並ぶ。
「こう呼ぶんには理由がある。
〈大災害〉の時、アニアはログインしとった。そして、今はアニアとして俺らと旅をしてきた」
「そうやなぁ」と、赤司が相槌を打つと、丹波は妙なことを口走るのだった。
「ただ、問題がある。アニアは2つのアカウントでログインしていたじゃ。
そんで、今ミナミにおるのが、もう1つのアカウントのキャラクターらしい・・・」
「・・・」
あまりのことに、赤司は言葉を失った。
今まで、1人のプレイヤーに1つのキャラクターという常識が、崩れてしまったのだ。
「その・・・、そのミナミの半身っていうんは、中身は何が入ってるんや・・・?」
「・・・分からん。けど、おそらく、アニア自身やろうな・・・」
衝撃発言が並ぶ中、赤司は頭を抱える。
ショックが大きすぎて、目の前がくらくらしてきた・
「は、はははっ・・・。なんやそれ・・・。冗談きついわ・・・。この世界は、どれだけ俺らを驚かすねんろうな?
1人の人間が、2つのキャラクターとして存在しとるなんて・・・。」
赤司の取り乱し振りに、丹波も黙りこくってしまう。
彼には分らない、天才なりの苦悩を感じ取ったのかもしれない。
「なんで!・・・なんで、そんな重要なことを、コンコンは俺に教えへんのんや!」
そんな、おとなしく赤司の次の言葉を待っていた丹波に、赤司が急に怒りをぶちまけだす。
今までショックで停止していたかれは、怒りと疑問という原動力を得て、また活発に活動を始めた。
「うぉっ・・・!急に怒鳴るなや・・・」
丹波は、その剣幕に驚いて身を引く。
コンコンの代わりに、この恐ろしい関西人の怒りを被るのは避けたいことだった。
「それはやな、コンコンとしては、赤司に負担をかけたくないっていう思いがあるんや。
赤司にも、少し休んでもらいたいっていうあいつなりの気遣いで・・・」
「そんないらん気遣い必要ないねん」
自分とコンコンの保身のために、一応は言い訳してみるものの、赤司には通じなかったようだ。
必要ない!と、一刀両断されてしまった。
「すまんなぁ・・・。実は、俺もあいつが何考えとるかよう分からんねん。
ずっと部屋に籠りっぱなしやし、行動を起こしている気配が全くない・・・」
赤司の怒りが思いのほか根深いことに、丹波は首をすくめることしかできなかった。
怒れる赤司も、その言葉を聞いて少し冷静さを取り戻す。
「それでなんじゃが、正直、このことをコンコンだけに任せておくんは不安でしかない」
「俺も同じ意見や」
2人の意見が合致したところで、丹波は赤司を拝み倒す。
何事にも、自分に責任があると思いたがるコンコンは、なかなか他人の手助けを受け入れたがらない。
「だけん、赤司にも動いてほしいねん。
コンコンが何を考えとるか分からん今、お前に頼るしかなかろう」
「頼られても困るんやけどな・・・」
心底迷惑そうな顔の赤司を、同情しながらも丹波はなだめる。
ここで彼に投げ出されてしまったら、より悲惨な結果が待っているだろう。
「まぁ、そう言わんと。あいつに任してて、無理くりな作戦で行動したないねん。
あいつが立てる計画はよう知ってるやろ?力で押し切る型で、付いていく方が大変や・・・」
「うん。うん」と赤司が同意の相槌を打つ中、丹波の言葉は続く。
今までコンコンが始めた計画を、何とか形にしてきた2人とっては身に染みていることだ。
初日の出を拝むという名目で、〈霊峰フジ〉の頂上まで行った時の話は触れたくない過去だ。
「特に今回は、いろんな人間を巻き込んでのことになるやろう。
何よりも、この状況や。キャラクターを動かしてるだけじゃすまん。生身でいろいろせなあかん。
それだけ慎重になるべきやと思う。だからこその、お前なんや」
丹波の言っていることは十分に分かるが、赤司はできる限り関わり合いたくなかった。
しかし、それはあくまでも『できる限り』であって、不可避確定の今回は、逃げるのは自分の首を絞めることだろう。
「はぁぁ~。お前の言うてることがよう分かる。分かりすぎて辛いわぁ。
・・・まぁ、俺がこき使われる分、お前らもしっかりこき使ったるから、覚悟しときや」
赤司の不穏な返答に、肩のにが降りるのを感じると共に、丹波は背筋が凍る思いをするのだった。




