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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・上
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2/3 掲載順序を間違えていたため修正

56.


宿の部屋から食堂に降りると、そこには中国サーバーから、共に旅をして来た仲間が集まっていた。

ダーシーはその中で、犬のような耳を頻繁に触る〈狼牙族〉の少年の頭に手をのせる。

驚いたように振り返った少年は、その手にしがみつきほほ笑む。


「ダーシー兄さん!」

「やぁ、瑞清(ズイセイ)


少年はダーシーの後ろにいたメイズの姿を確認すると、彼女にもにこりとほほ笑みかけた。

その表情に、メイズは安堵したような表情を浮かべる。


「姉ちゃん、美麗(ビレイ)たちと遊び行ってきてもいい?」

「いいけど、あんまり人目につくようなことしないでよ。ズイセイ」

「うん。気を付けるよ」

「いってらっしゃい。気を付けてね」


嬉しそうに駆け出して行った彼は、何人かのほかの〈冒険者〉と合流して外に出ていく。


「ズイセン、かなり落ち着いたみたいじゃないか。メイズ」

「そうね。このまま落ち着いてくれたらいいんだけど・・・」

見送ったメイズは、大きくため息をついた。微笑ましい光景である。


「ま、おれがついてるし大丈夫っしょ!」

「ははは!シェンシュンめ、生意気を言うようになりよって!」

「ちょっ!タオロー!痛い!」


小柄なシェンシュンは、タオローに赤色の髪をわしゃわしゃと撫でられて憤慨する。

見慣れた凸凹コンビの2人が戯れているのをみて、ダーシーは心の緊張を解く。

今は、毎日、心労がたまる一方だった。


(前はこれが日常だったのになぁ・・・)


「ダーシー、大丈夫?疲れてるんじゃない?」

そう心でつぶやくと、メイズが顔を覗き込んでくる。


「大丈夫だよ、メイズ。ありがとう」

ダーシーは慌てて、にこりと微笑みを取り繕う。

彼女の銀髪を、自分の手でさらりと透かしてやると、メイズは微笑んだ。

彼女は弟のことで十分に心を割いている。その彼女に、自分のことにまで心を割いてほしくないのだ。


「カップルでラブラブするなら、他所でやってほしいもんだぜ・・・いって!」

「別にラブラブはしてないでしょー?」

やれやれと頭を振るシェンシュンに、メイズがデコピンを食らわせる。


「いや、僕はラブラブしてたつもりだよ?」

「ははは!まぁ、最近は忙しかったし、2人で息抜きでもしてきたらいいじゃないか!」

それを受けて、タオローは大男らしく豪快に笑った。

2人の関係は、この世界では、そこまで珍しい関係でもないものだろう。


「それはいいね。タオロー、ナイス!じゃ、失礼して」

ダーシーはメイズの手を取って、宿の食堂を後にする。


「俺も妻がここにいたらなぁ・・・。リンフェイ、元気だろうか・・・」

タオローはその様子を見て、ほほ笑みつつも寂しそうにあご髭を撫でた。


「元気出して、タオロー。きっと帰れるよ」

「そうだな・・・」

シェンシュン少年に励まされて、妻持ちのタオローは眉尻を下げて微笑む。

元の世界に残してきた家族に、思いをはせる〈冒険者〉は少なくない。

タオローもそんな〈冒険者〉の一人だった。


「ねぇ、どこ行くの?」

「いいところだよ」


メイズの手を引くダーシーがやっと足を止めたのは、海の見える廃墟の屋上だった。

キラキラと光を反射して輝く、水面に向かって腰を下ろす。


「ねぇ、本当に大丈夫?ちょっとらしくないよ?」

「そうだね。でも折角こんな世界にいるんだし、いつもは出来にないことがしたくならない?」

「そんなものかなぁ?」


楽しそうに笑うダーシーを横目に、メイズはあきれたような顔をする。

エルフでは珍しい浅黒い肌の彼女は、切りそろえた銀髪を潮風になびかせる。


「メイズは、戦闘にでることをどう思う?」

「え?・・・急にどうしたの?」


メイズは驚いたように、彼のほうを見やる。

ダーシーは目の前の海を、ぼんやりと見つめたままだった。


「うん・・・、ちょっと・・・」

「・・・私は・・・正直怖い」

「そうか、僕も怖い・・・」


「僕は後方支援職だからいいんだ。でも、君は〈侠客〉で実際にモンスターと対峙するだろう?

だから・・・君が戦闘に出るのが怖いんだよ・・・。君だけが中国で蘇ったらどうしようって、夢にもみちゃって。だめだよn」

「ねぇ、それって本気で言ってる?」


メイズはダーシーの言葉を、強い語気で遮る。

はっとして彼女に視線を向けると、じとっとした不機嫌そうな視線が返ってきた。


「私の実力はあなたがよく知ってるでしょ?そんなに軟じゃない!」

「で、でも、実際に戦うってなったらやっぱり・・・」

「そん時は、あなたが守りなさいよ!私が死んだら中国まで追っかけてきなさい!

今あなたが悩むべきことはもっと他にあるでしょ!しっかりして!」

「は、はい・・・」

「そんなことで疲れた顔してたとか、ありえない」


今度はメイズがそっぽを向いてしまう。

ダーシーは彼女の勢いに負けて、タジタジなのであった。


「そんなことって、僕にはすごい重要なことなんだけどな・・・」


そんな彼の弱腰なつぶやきは、波の音にかき消されてしまいそうだった。


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