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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・上
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54.


4人が宿に戻ると、さっそくテンプル兄弟の部屋で〈クレセントバーガー〉の試食会がはじまる。

さすがに、宿の食堂は他の客の目が気になるからだ。

クロノが包みを〈ダザネックの魔法鞄〉から取り出すと、部屋にいい香りが広がった。

思わず、そこにいる全員の喉が鳴る。


「すごいね。本当に食べ物の匂いがする」

「味がするっていうんは、ウソやなかったみたいやな・・・」

タカムと赤司がそれぞれの食べ物を手に、顔をにやけさせる。


「でしょー?もうね、アキバ観光と言ってられなくて、買ってすぐ帰ってきちゃった!」

その様子に、セルクルも嬉しそうに返事をした。

一緒に買い物に行った胡桃と雷牙も、小躍りしそうなくらいに上機嫌だ。


「やばい・・・!食べ物の味だ!」

「うわあぁぁー!たまらん!」

「うぅっ・・・!うまいなぁ・・・!うまいなぁ!」

「はぁ・・・おいしい・・・」


バーガーを一口頬張れば、感嘆の声を上げる者、涙する者、ため息をつく者、それぞれである。

夢中で咀嚼しながら、自分たちが食べ物の味に飢えていたことを、改めて実感する。


「すごいなぁ・・・。味のする調理法を発見したんは、どんな人なんやろうなぁ・・・」

「その人に、感謝しなあかんなぁ!」

丹波の感心した声に合わせて、胡桃が嬉しそうな声音を上げる。


「噂やと、レベル90以上のレシピっていう説もあるで」

赤司の何気ない言葉に、その場がしんと静まる。

特に、年長者たちがその話に関してはいろいろと考えるところがあるようだ。


「やっぱり、新パッチが適用されたんだね・・・」

AGEが手元のバーガーに目を落としながら、ポツリとつぶやいた。

それに答えるようにタカムも租借を止める。


「と、いうことは、レベル100の〈冒険者〉が出てくるかもしれないってことだよな」

「そうやなぁ。俺らも、それに備えなあかんかもしらん」

味のする食事に盛り上がっていた場の雰囲気は、不穏な話題で静まりかえってしまう。


今までレベル100といえば、ゲーム内のNPCの古来種以外いなかった。

もし、そのレベルに〈冒険者〉が追いつくのなら、ゲーム内のバランスはどうなってしまうか分からない。


「ま、まぁ、この状況なら、当分の間は90越えするような人、いないんじゃないかな?」

部屋の雰囲気の変化に、責任を感じたのか、AGEが慌てて口を開く。


「う、うん。あ、私たち、セドとセーラに、バーガー届けてくるね!」

それに乗じて、セルクルが胡桃と雷牙と連れ立って部屋を後にした。


「なぁ、俺たちのできる備えってなんなの?」

その姿を見送ったあと、ずっと黙っていたタカムが急に口を開いた。

その問いかけに、誰もが返答に困る。


「そうやなぁ。・・・俺らもフィールドやダンジョンに出て、レベル上げをして対抗するってことやないかと思う」

「つまり・・・、ゲームと同じだよね?でも、今はゲームじゃない・・・」


赤司が静かに〈ダザネックの魔法鞄〉から、紙の束を取り出す。

そこには大量の数字や計算式が書きなぐられていた。


「もし、今レベル90の〈冒険者〉が、91に上げようとすると、ダンジョン内におる、レベル90近いモンスターをかなりの数狩らなあかん」

その紙の束を振りつつ、赤司は難しい表情を浮かべて再度口を開く。


「つまり、早く統制のとれて、ダンジョンに潜ったりしてる戦闘ギルドの中には、90越えを達成した奴がいるかもしれないってことか」

「アキバには〈黒剣騎士団〉がいるからな・・・」


アキバ最高峰といわれる戦闘系ギルド、〈黒剣騎士団〉は元から加入にレベルの条件がある。

加えて、戦闘経験に関しても、個々の才覚に関しても折り紙付きだ。

その上で、今後の自分たちの身の振りを考えなければならないだろう。


「そもそも、なんのために備えるの?

・・・仮にレベル100の〈冒険者〉が出てきたとして、俺らが心配すべきことは?」

タカムの口をついて出た疑問に、赤司や丹波、クロノといった、元ミナミの面々の顔が曇る。


「そうやな、ミナミの状況を見てきた俺としては、高レベルの〈冒険者〉による街の乗っ取りとりが危惧しとるところやな。

レベル100っていうんがステータスで見えてしまうと、やっぱり低レベル層は萎縮してしまうやろうな」

赤司は冷静に分析を行いながら、幅広いレベル層のことを考慮してため息をつく。

同じくミナミを知る、丹波とクロノも「うんうん」と、うなづいた。


もし、そうなったら、アキバの街もミナミと同じようになってしまうだろう。

それでは、苦労してアキバにやって来た意味がなくなる。

なによりも、もう次に行く場所もないに等しい状況なのだ。


「そうか・・・」

その一言をぽつんと呟くと、タカムはまた〈クレセントバーガー〉に口をつけた。


(俺たちは、いつまでも闘うことから逃げていられないのか・・・)

ほんわかなお話しの予定が・・・。

全体的に重い話が続きますが、ご容赦くださいませ。

ほんわかした話の掲載は、もう少し先になりそうでございます。


2/1 ご指摘を頂いた文章を修正いたしました。

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