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「脇役〈冒険者〉たちの話」にアクセスいただき、ありがとうございます。
うちの〈冒険者〉たちも、やっと味のある食事にありつけることができました。
これも、皆さまのおかげでございます。
ありがとうございます。
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53.
その日の早朝、雷牙と胡桃は心躍らせていた。
アキバの街に足を踏み入れてから、初めて宿の敷地内に出かけるのだ。
決して、宿での生活に不満があるわけではない。
それでも、2人は今日の外出を心待ちにしていた。
「はいはーい。じゃぁ、行くよー!」
セルクルが年長者ぶって、2人に声をかける。
気分は引率の先生なのだろう。小さな旗を手に持っている。
もちろん、彼らはただ観光に行くだけではない。
重要なミッションを帯びているのだ。
「おつかい組、頼んだで!」
「とりあえず、俺ら4人分と、宿の家族分なー」
ここ数日でアキバに広がりつつある、噂の〈クレセントバーガー〉の買い出しである。
赤司の提案で、年少組の気晴らしを兼ねて、買い出しに行ってもらうことにしたのだ。
「はい。じゃぁこれ、俺らの分は足りるはずだし、余ったらみんなの支払いに使って」
留守番する面々を代表して、AGEが各々から集めた金貨をセルクルに渡す。
「楽しみやねぇ。アキバはどんな街なんやろう?」
「おれも来た事ないからなぁ。ほんまに楽しみやな!」
どんどん期待が高まっている2人に、セルクルは苦笑する。
「まぁ、そんなに活気があるわけじゃないけどね・・・」
正直、今のアキバは彼女が慣れ親しんだ、活気ある街ではなくなっていた。
そんな心配をよそに、雷牙と胡桃のテンションは高まっていく。
「まぁ、2人の1番のお目当ては、街じゃなくて味のする食べ物だから」
「まぁ、そうなやけどさー!」
「とか言うクロのんも、そうでしょー」
「セルクルちゃん、その呼び方は勘弁してもらえないかな・・・」
親しい仲間の妹に、思いがけないあだ名を付けられたのは、2年ほど前だった。
それ以来、ずっとその呼び名で呼び続けられている。
やんわり注意をしてみるものの、今のところ彼女には全く通じない。
かく言うクロノも、味のする食事を目当てにセルクル、雷牙、胡桃の保護者役を買って出たのだ。
ふやけた段ボールの食事しかない世界で、その店はどうやて味を生み出したのか、とても興味深い。
「うわぁ・・・」
「えらい人が並んではるね・・・」
「まぁ、仕方ないよね・・・。ここでしか買えない味なんだから・・・」
〈クレセントバーガー〉へと続く列に、4人の表情はげんなりとする。
このために早朝に出てきたにも関わらず、上には上がいたらしい。
すでに〈冒険者〉たちが、開店前の屋台に押し寄せていた。
「順番にお待ちくださーい!」
小柄な少女が、客にメニューらしきものを配りながら誘導している。
それに従って大人しく並ぶ当たりが、日本人ならではだ。
列に並ぶ者それぞれが、メニューに目を通しつつ高揚した表情を浮かべている。
「はい、こちらメニューになります!」
列を整備していた少女と同じ制服を着た女性が、4人にもメニューを手渡す。
そこには〈筆記師〉によって書かれたであろう、几帳面な文字が並んでいる。
店から漂う、魅惑の香りと相まって期待値はあがる。
「うーん。迷うなぁ・・・。スーパークレセントバーガーって何が違うんやろう?」
「いろんな種類があるんやねぇ・・・。どれもおいしそうやわぁ」
「へー。値段設定、結構高めなのね。あ、AGE兄ぃとタカム兄ぃには、チキン買わなきゃな・・・」
クロノの目には、思い思いの感想を述べながらメニューをのぞき込む3人が微笑ましく映った。
メニュー事態は、元の世界のファーストフード店の代わり映えがしない。
それでも、長らく食べていない味に、期待は膨らむのだった。
「ご注文先に承りますねー。お支払いは商品と交換になりますー」
徐々に店が近づいてくると、売り子の1人が声をかけに来た。
「えーっと、クレセントバーガーを6個、スーパークレセントバーガーを5個、かりかりチキン3本を3個、フィッシュ&チップス(大)を2個、ブラックローズティー(水筒)を3本!」
「はい。・・・では、合計で金貨8015枚になります!」
セルクルが個数を数えつつ、注文を述べていく。
売り子も慣れた手つきで、それをメモに起こし、金額まではじき出してくれた。
その値段にも驚きだが、彼女の計算力にも脱帽である。
「結構買ったね。予算オーバーしちゃってる」
「おれ、そんな大きな買い物したの、初めてかもしれへん・・・」
「楽しみやねー!急いで持って帰らな!」
「そうだね。宿で、みんながどんな反応するか楽しみだ」
支払いを済ませると、食欲をそそる香りを放つ包みを、クロノが〈ダザネックの魔法鞄〉にしまう。
特に空腹なわけではないが、その香りは口の中を唾液で満たした。
アキバの街を見て回ると言っていたのを忘れて、4人は速足で宿へと向かうのだった。
書き溜めていたストックが徐々になくなりつつあることに、危機感を感じ始めました。
少しずつ、貯蓄を増やしながらの更新に戻していきます。
また亀更新になりますが、どうぞよしなに・・・。
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