表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・上
52/82

52

52.


アキバの街に腰を据えてから3日たった。

その晩、やっと筆を持つ気になった赤司は、今までの旅の過程を書きつける。

〈筆者師〉のスキルを使って作成した冊子は、びっしりと文字や計算式が記入されていた。

旅の詳細や、困難、懸念事項をメモしながら、彼はふと、頭を休める。


(着いたなぁ、アキバ)


今までの最終目的地、アキバの土地を踏みしめた彼は、自分の得た結果に満足する。

途中、トラブルはあったものの、それも何とか乗り越えた。

計画に遅れることも、欠員を出すこともなく、目的地に到着できたのだ。

ただ、同時に次の目的地を、自然と探し求めている自分に気づくのだった。


旅の間はアキバに着いたら、当分何もしたくないと思っていた。

しかし、アキバの街でこうして宿に腰を落ち着け、ゆっくりと書き物をしていると、どうもいろいろとやりたいことが出てくる。


(・・・俺らは、これからどうなるんやろうか?)


冒険の間、感じていた高揚感や有意義さは、どこかに吹き飛んでしまっていた。

赤司はそれらの感覚を、酷く懐かしく思いつつ目の前に状況を思う。

アキバに着いたからといって、万事安泰というわけではなかった。

ただ、その先にあるものは、取るに足らないものに感じられていたのだった。


(俺らは、別にギルドっていうわけでもない、ただの寄せ集め集団や。

これからどうするにしても、それぞれの勝手やろうな・・・・)


もし、コンコンがあの中国人プレイヤーに言ったように、アキバの街が安定したとしたら。

それこそ選択肢は多いだろう。

噂に聞く味のする食事、〈クレセントバーガー〉の出現によってアキバは活気を取り戻しつつある。

どこかのギルドに加入するもよし、腕に覚えがあるのならソロで活動するのもありだろう。

コンコンあたりはアキバを後にして、どこか住み良い場所を探しに旅立つかもしれない。


知り合いが少ない彼だが、すでにアキバの友人に連絡を取り、街の状況を把握しつつある。

早耳な友人曰く、アキバの主要ギルドを中心に複数のギルドが、暗躍しているらしい。

なんでも、今まで狩場の確保に忙しかった大手が、顔を出さないことも多くなったとか。

そして、〈クレセントバーガー〉の話も気になるところだ。


(やっぱり、アキバもミナミと同じやったんやろうか?もう、次行く場所なんてないで。

ススキノは、とても人間らしい生活ができんくなっとるらしいしなぁ・・・)


プレイヤータウンを、その手中に納めんとする独裁者は、アキバにもいるのかもしれない。

味のする食事の秘密を武器に、アキバを牛耳るのは容易に思いつく計画だ。

ススキノの方も、風のうわさで聞いたところ、〈冒険者〉主導の力による独裁政権ができているらしい。

シブヤの街は、アキバに近すぎるため安全ではないし、利便性も悪い。


自分たちのこれからに不安をつのらせつつ、心のどこかでは悠遊自適な生活を願っていた。

適当にギルドに所属し、適当に戦闘に参加、ぼーっと1日過ごすのもありだろう。

好きな研究をするのも視野に入れておきたい。


そこまで考えて、赤司はそれが当分無理なことを思い出す。

コンコンには、あの中国人プレイヤーたちとの約束があるのだった。

同時に、アニアのいうミナミへの遠征の件も、彼らの肩にのしかかっている。

問題は意外と、山積みであった。


(はぁ、一難去ってまた一難ってか・・・)


赤司はコンコンから、それらの件に関して全く話がないことに不安を覚えていた。

どうせ、全部彼の肩に掛かってくるだろうと思っていたが、そんな様子もない。

〈冒険者〉を寄せ付けず、逃がさない、ミナミの街からの救出作戦。

得体の知れない、中国サーバーからの亡命者の手助け。

赤司はまた当分、馬車馬のようにあくせく働くことになると予想していた。

だが、それどころか、赤司には情報が全く入ってこないでいる。


正直、コンコンが全てを抱え込むことに、赤司は不安を感じている。

彼女が主導ということは、超自然的に赤司もその計画に組み込まれているのだ。

それなら、最初から赤司に任せて、計画を立てさせてほしい。


(あいつ、物事を混乱させるんだけは得意やからなぁ。

散々かき混ぜられた後の尻拭いより、最初から自分でやっとく方がマシやわ・・・)


赤司は、その若さに似合わない、重々しい溜息をつく。

一度羽ペンを置いて、目頭を揉みマッサージをする。

その仕草が爺臭ろうが、なんだろうが知ったことではない。

再び、ペンを握りなおした彼は、ふと疑問に思う。


(コンコンは、これからどうするつもりなんやろう・・?)


その考えが浮かんだとき、彼の胸はざわついた。

彼はそれが何か分からぬまま、手を動かし続けたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ