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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
それぞれの戦い・上
51/82

51

新しい文章を書き終わると、すぐに公開したくなってしまうのが、私の悪い癖ですねぇ。

こうやって、後々の自分の首を絞めて行ってしまうのです・・・・。

どうぞ、お付き合いくださいませ。

51.


コンコンは、ひどく困惑した表情で椅子に腰かけていた。

彼の目の前には、机を挟んで小柄な少女が一人立っている。

正直、彼が今1番対峙したくない人物といっても過言ではない少女は、その桃色の瞳を爛々と輝かせている。


(あぁ・・・この子のこの目・・・苦手やわ・・・・)


ある時コンコンは、この少女を自分が主催するオフ会に匿名で呼んだことがある。

それは本当に身内だけの小規模なもので、身バレしても問題ないだろうという判断だった。

初めて、『彼女』に会ったときその姿に、コンコンはハッとしたものだ。


「あらまぁ、すごい別嬪さんやってんねぇ。女優さんかモデルさんかと思ったわぁ・・・」

「そうですか・・・?あの私、変じゃないですよね?」

「変?とんでもないわぁ!すごくお綺麗ですえ!」


この時、アニアとは全く印象の違う、すらりとした少女は不思議な雰囲気をまとっていた。

アニアの名前を伏せ、コンコンの知り合いということで参加した彼女は、誰にでも好かれた。

しかし彼女自身は、恐る恐るという感じでそこに座っているようにも見える。

最初は心配して彼女のそばにいたコンコンだが、すぐに考えを改める。


「〈エルダー・テイル〉では、メイン職業何でやってんの?」

「〈施療神官〉です」

「おっ!いいね!今度俺たちと一緒にダンジョンに潜らない?」

「え、あ、でも・・・」


アニアということを隠しつつの会話に、彼女は困惑しているようだった。

長い体を縮こまらせて、恐縮したように目を右往左往する。


「俺、兄弟とやってて、3人でよくダンジョンとか行くんだけど、回復職がいなくて」

「ご兄弟で・・・?」

「うん。弟と妹がいるんだよね」

「私も、兄たちと〈エルダー・テイル〉で遊んでます。

うちの兄たちもみんな攻撃職ばっがりで、私がバランスとってる感じなんです」

「あ、そうなんだ。貴重な後衛をお借りしたら、お兄さんたちに怒られちゃうかな?」


〈エルダー・テイル〉の話になると、彼女は人見知りが克服できるらしい。

徐々に、周りの人間に対して饒舌になっていった。

その時見せていた、爛々と輝く瞳こそ、今目の前の少女がコンコンに向けているものだ。


「私に、行かせてもらえませんか?」

「行くって、別に僕らはギルドやあらへんし・・・」

「でも、私はここまで連れてきてもらいました。

それを無駄にするんですから、コンコンさんには言っておかないといけないと思うんです」


元の世界で出会った、あの少女は姿が変わっても、変わらない雰囲気をまとっている。

それまで、アニアとして身を潜めていた『彼女』が、再び蘇ったようだった。


「そうやけど、僕らは今すぐに、アニアを助けることはできへんよ?」

「いいんです。私だけでもなんとかします」

「そんな・・・、そんなことできるん?」

「できないかもしれません。でも、あの子は、私の半身だから・・・行かなきゃ」

「その、アニアの半身ってどういう意味なん?」


コンコンの問いに、アニアは少し躊躇する。

言葉を濁すこともできるが、逃げれば逃げるほど、彼女の旅は難しくなるだろう。

それに、これは自分ひとりで抱えるには、不安が大きすぎるものだった。


「今、ミナミにいるのは、私のサブキャラクターです」

「えっ・・・?」

「あの日、私はアニアと同時にサブでもログインしていました。

その子にアニアとパーティーを組ませて、レベリングをしてたんです」

「・・・」


あまりのことに、コンコンも言葉を失う。

1人のプレイヤーに2人のキャラクター。決して珍しいことではない。

だが、今目の前にいるアニアの中に『彼女』がいるなら、そのサブキャラクターには何が入っているのか。

それは誰にも分からない、未知の領域かもしれない。


「そ、それじゃぁ、・・・今いるその子は、誰なんです・・・?」

「わかりません・・・。でも、恐らく、私かと・・・」

「そんな・・・幸子ちゃん・・・」

「そうです。私、アニアじゃないんです・・・」


思わず呼んでしまった彼女の本名。

少女も困ったように、目を伏せる。

同じように、理想姿を追い求めていたロールプレイヤー同士。

しかし、あの〈大災害〉が2人の道を大きく分けようとしていた。


「私、いつまで頑張っても、アニアにはなれないって気づいたんです。

今の私は体がアニアでも、アニアじゃない。100%私なのかも、怪しい・・・。

だから、〈エルダー・テイル〉で自分が誰なのか、見つけなきゃいけないと、思うんです」


アニアの言葉は、コンコンにも突き刺さる。

自分のロールを捨てて、自分を突き通す。

今のコンコンが、できないでいることだった。


「いつまでも、アニアの陰に隠れてちゃいけないと思うんです。私自身が戦わなくちゃ・・・」


その強い意志を帯びた言葉は、コンコンを苦しめるのであった。


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