51
新しい文章を書き終わると、すぐに公開したくなってしまうのが、私の悪い癖ですねぇ。
こうやって、後々の自分の首を絞めて行ってしまうのです・・・・。
どうぞ、お付き合いくださいませ。
51.
コンコンは、ひどく困惑した表情で椅子に腰かけていた。
彼の目の前には、机を挟んで小柄な少女が一人立っている。
正直、彼が今1番対峙したくない人物といっても過言ではない少女は、その桃色の瞳を爛々と輝かせている。
(あぁ・・・この子のこの目・・・苦手やわ・・・・)
ある時コンコンは、この少女を自分が主催するオフ会に匿名で呼んだことがある。
それは本当に身内だけの小規模なもので、身バレしても問題ないだろうという判断だった。
初めて、『彼女』に会ったときその姿に、コンコンはハッとしたものだ。
「あらまぁ、すごい別嬪さんやってんねぇ。女優さんかモデルさんかと思ったわぁ・・・」
「そうですか・・・?あの私、変じゃないですよね?」
「変?とんでもないわぁ!すごくお綺麗ですえ!」
この時、アニアとは全く印象の違う、すらりとした少女は不思議な雰囲気をまとっていた。
アニアの名前を伏せ、コンコンの知り合いということで参加した彼女は、誰にでも好かれた。
しかし彼女自身は、恐る恐るという感じでそこに座っているようにも見える。
最初は心配して彼女のそばにいたコンコンだが、すぐに考えを改める。
「〈エルダー・テイル〉では、メイン職業何でやってんの?」
「〈施療神官〉です」
「おっ!いいね!今度俺たちと一緒にダンジョンに潜らない?」
「え、あ、でも・・・」
アニアということを隠しつつの会話に、彼女は困惑しているようだった。
長い体を縮こまらせて、恐縮したように目を右往左往する。
「俺、兄弟とやってて、3人でよくダンジョンとか行くんだけど、回復職がいなくて」
「ご兄弟で・・・?」
「うん。弟と妹がいるんだよね」
「私も、兄たちと〈エルダー・テイル〉で遊んでます。
うちの兄たちもみんな攻撃職ばっがりで、私がバランスとってる感じなんです」
「あ、そうなんだ。貴重な後衛をお借りしたら、お兄さんたちに怒られちゃうかな?」
〈エルダー・テイル〉の話になると、彼女は人見知りが克服できるらしい。
徐々に、周りの人間に対して饒舌になっていった。
その時見せていた、爛々と輝く瞳こそ、今目の前の少女がコンコンに向けているものだ。
「私に、行かせてもらえませんか?」
「行くって、別に僕らはギルドやあらへんし・・・」
「でも、私はここまで連れてきてもらいました。
それを無駄にするんですから、コンコンさんには言っておかないといけないと思うんです」
元の世界で出会った、あの少女は姿が変わっても、変わらない雰囲気をまとっている。
それまで、アニアとして身を潜めていた『彼女』が、再び蘇ったようだった。
「そうやけど、僕らは今すぐに、アニアを助けることはできへんよ?」
「いいんです。私だけでもなんとかします」
「そんな・・・、そんなことできるん?」
「できないかもしれません。でも、あの子は、私の半身だから・・・行かなきゃ」
「その、アニアの半身ってどういう意味なん?」
コンコンの問いに、アニアは少し躊躇する。
言葉を濁すこともできるが、逃げれば逃げるほど、彼女の旅は難しくなるだろう。
それに、これは自分ひとりで抱えるには、不安が大きすぎるものだった。
「今、ミナミにいるのは、私のサブキャラクターです」
「えっ・・・?」
「あの日、私はアニアと同時にサブでもログインしていました。
その子にアニアとパーティーを組ませて、レベリングをしてたんです」
「・・・」
あまりのことに、コンコンも言葉を失う。
1人のプレイヤーに2人のキャラクター。決して珍しいことではない。
だが、今目の前にいるアニアの中に『彼女』がいるなら、そのサブキャラクターには何が入っているのか。
それは誰にも分からない、未知の領域かもしれない。
「そ、それじゃぁ、・・・今いるその子は、誰なんです・・・?」
「わかりません・・・。でも、恐らく、私かと・・・」
「そんな・・・幸子ちゃん・・・」
「そうです。私、アニアじゃないんです・・・」
思わず呼んでしまった彼女の本名。
少女も困ったように、目を伏せる。
同じように、理想姿を追い求めていたロールプレイヤー同士。
しかし、あの〈大災害〉が2人の道を大きく分けようとしていた。
「私、いつまで頑張っても、アニアにはなれないって気づいたんです。
今の私は体がアニアでも、アニアじゃない。100%私なのかも、怪しい・・・。
だから、〈エルダー・テイル〉で自分が誰なのか、見つけなきゃいけないと、思うんです」
アニアの言葉は、コンコンにも突き刺さる。
自分のロールを捨てて、自分を突き通す。
今のコンコンが、できないでいることだった。
「いつまでも、アニアの陰に隠れてちゃいけないと思うんです。私自身が戦わなくちゃ・・・」
その強い意志を帯びた言葉は、コンコンを苦しめるのであった。




