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48.
丹波に取り残されたAGEは、仕方なく周りを見回す。
食堂の真ん中では、クロノ、赤司とタカムが輪になって何やら話し込んでいた。
弟が、赤司の話に熱心に耳を傾けているのが気になったのだ。
「つまり、この世界はゲームと同じルールだけで成り立ってないってこと?」
「俺は、そうやと思う。〈鷲獅子〉の移動スピードは、ゲームん時は一定やった。
でも今は指令の仕方次第で、急ぐこともゆっくり進むことも可能や思う」
「それって、やばくない?個体差とかまで出てきたりすんの?」
タカムが身を乗り出して、赤司に詰め寄る。
赤司は身を引いて、タカムの顔を自分から遠ざけた。
クロノは先ほどから黙ったままだが、2人の様子を観察することを楽しんでいるようだった。
「そこまでは分からん。でももしかするかもしらんな」
「それって・・・、まるでポケ○ンじゃん」
子供のころに熱中したゲームの名前を挙げながら、タカムは考え込む。
これだけ、この世界は自分たちの知っている〈エルダー・テイル〉からかけ離れているのだから。
下手にゲーム感覚でいたら、ひどい目にあいかねない。
考えても答えがでない上に、考えるだけでも気が滅入る。
「〈エルダー・テイル〉にポケ○ン要素が入ってきたら、やり込み半端ないことになるな」
「確かにそうだけど・・・」
「そういう問題ちゃうやろう・・・。結構、深刻な問題やと思うんやけどなぁ」
「ちょっと言ってみただけじゃん」
クロノが笑いながら言うと、タカムが一応納得する。
そういう問題ではないだろうと、赤司の突っ込みにクロノはほんの少し笑った。
彼もまた、そのことをある程度は理解しているのだろう。
立ち聞きするのもなんなので、AGEは3人の間に割って入る。
確かにその話も気になるが、彼にはもっとしっかりと聞いておきたいことがあった。
「それよりさ、ミナミに迎えに行く必要があるのって誰なの?なんでなの?」
「あれ?コンコンさんから説明されてないの?」
「うん。遠征するとしか聞いてない」
「なんやあいつ、重要なことを秘密にしよって・・・。協力してもろうたんや、きちんと説明しろよなぁ」
赤司は頭をふりふり、クロノは驚いた様子でAGEに答えた。
そして互いに目配せして、話し始める。
「正直なところ、俺らも詳しいことは分からんねん」
「ほとんど、コンコンさんと丹波さんが対応しちゃったもんね。一瞬のことだったし」
「だから、俺らも簡単にしか話せへん。俺らにも説明がないんや、困ったもんやで」
それだけ前置きをすると、2人は交互の話し出す。
「ヨコハマを出発して、もうすぐアキバって時になって、急にアニアがミナミに戻るって言いだしてん」
「びっくりしたよ。だって今までの旅が、全部無駄になっちゃうからね」
「もちろん、コンコンが大反対や。アニアの〈鷲獅子〉には胡桃がおったし、第一、あいつひとりで戻るんは、正直無謀やからな
それでも引き返そうとするから、丹波が〈スリープポーズ〉使ってアニアを昏睡させてん」
そこまで話すと、赤司は口を閉じる。
丹波がアニアに対して、スキルを発動させたことに、AGEもタカムも驚いていた。
それを察してか、クロノが口を開く。
「そうでもしないと、アニアは話聞いてくれそうな感じじゃなかったからね・・・」
「そんなに・・・」
「かなり取り乱しとった。正直、正常な判断はできひん状態やったろうな」
「一緒にいた胡桃ちゃんは、びっくりしただろうね」
「胡桃も、アキバに着いた時はかなりパニックやったな・・・。かわいそうやったで」
その場に居合わせなかった2人にも、その時の様子が徐々にイメージできるようになってきた。
上空での出来事ということが、より混乱に拍車をかけただろう。
クロノも重々しい口調で、その続きを紡ぐ。
「どうやらミナミに、アニアさんの友達?が取り残されたらしくて、それを迎えに行きたいらしいよ」
「その友達って、何者なの?」
「さぁ、何せ空の上だったし、アニアが叫んでたけど聞こえなかった」
「そっか・・・」
大きくため息をついた赤司と、難しい表情をしたクロノを見比べて、AGEは顎を撫でる。
AGEが考えてるのを見て、タカムが重ねて質問をする。
「でも、なんでアニアさんは今までその人と連絡をとらなかったんだろう?
わざわざ迎えに行くような間柄なら、〈大災害〉が起こったあとすぐに連絡とるんじゃないかな?」
「それも分からん。何らかの事情で連絡がとれなかったのか、急に援護が必要な状況になったのか・・・」
「不思議だ・・・。今の僕たちの状況もかなり不思議だけど」
タカムの言葉を最後に、4人は互いを見合い難しい顔をする。
どうやら思っているよりも、ことは大変な方向に向かっているようだった。




