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「えっと・・・、とりあえず、みんな落ち着いたかな?」
「そうやな。とりあえず、やけども」
AGEの言葉に、丹波が条件付きで同意したのは、怒涛の到着から丸1日経った頃だっ。
決して落ち着いた夜ではなかったが、それぞれが一晩ぐっすりと眠ることができたようだった。
食堂を見渡せば、ミナミから来た面々が各々昼の食事をしている。
「なんか、すごくバタバタでしたね」
「振り回して、悪かったな」
「いえいえ、そのうち耳をそろえて返してもらうから」
「げっ・・・相変わらずやな・・・」
AGEの恐ろしい言葉に、丹波は若干身を引く。
この若者は、気はよいのだが、抜け目がないのでちょっと怖い。
お互いに改めて言葉を交わし、互いの視線が合う。
なんとも妙な沈黙を破ったのは、AGEの素直な感想だった。
「・・・なんか、変な感じだ」
AGEとして、丹波と会話していることに違和感を抱く。
目の前の丹波の顔には、オフ会で会った元の世界での彼の面影を感じさせた。
今まで念話を通して話していたのとは違って、実際に顔を合わせて話すのは実に奇妙だ。
「なんかAGE、元の世界の顔に引っ張られてんな」
「そういう丹波さんも面影あるよ」
「やっぱり?俺も思っててん」
2人は互いに笑いながら、つかの間の談笑をする。
本来であったら、ここでアキバ到着の祝宴会でも開きたいのだが、誰もそんな気にはなれないのだ。
「それで、ミナミに遠征する話だけど・・・」
「あ、その話し今するんか・・・?」
「先延ばしにしていても、いつかは話さないとダメでしょ?」
「それはそうやねんけどなぁ」
どうも、丹波としては気が進まないらしく、ぶつぶつと何かを呟いている。
そんなこともお構いなしで、AGEは一晩考えたことを話し始める。
「今回のミナミ脱出にが成功したことから考えて、ミナミへの移動は、しっかり準備していけば問題ないってことでしょ?」
「移動だけやったらな」
「移動だけっていうのを強調する理由は?」
「今回の問題は、ミナミっていう〈プレイヤータウン〉が、〈冒険者〉の出入りを規制しとるところやろ」
AGEの疑問に丹波は難しい表情で答える。
〈セルデシア〉が、現実化したことで大きくその姿が変わっている事実に頭を抱えたくなった。
「出入りの規制って言われても、あんまりぴんと来ないんだけど・・・」
「簡単にいったら、街に近づくよそ者は殺す。街を出ようとする街の者も殺すってことやな」
「・・・ミナミって、本当にやばい所だったんですね」
「・・・逃げてきて正解やったわ」
2人はお互いにわざとらしい身震いしながら、言葉を交える。
より核心に触れるギルド名が、丹波の口をつく。
「〈Plant hwyaden〉。このギルドが、今の現状をつくりだしとる」
「聞いたことないギルド名だよね」
「〈大災害〉以降にできた、新しいギルドや。でも、元大手のギルドが飲み込まれとる」
「大手がギルドごと加入するっていうことは、かなりの力があるってことか・・・」
AGEは予想以上に大きな敵が、目の前に現れたことに顔をしかめる。
まだ、〈Plant hwyaden〉の支配がミナミ全体に及んでいないとはいえ、出入りが阻害された今となっては時間の問題だ。
「過去最難関のクエストだったりして・・・」
「モンスターやなくて、〈冒険者〉がポップアップいたしまーす」
「最終ステージは、どんなことが起こるか予想不可能だし」
丹波とAGE両人の口から、ため息が漏れる。
ちらりと、AGEは階段へと視線を投げる。
昨日の到着以来、コンコンの姿を見かけていない。
「コンコンさん大丈夫かな?それに、本当に赤司に相談しなくてもいいわけ?」
「俺もちょっと危ういなぁって思ってんねん。
でもあいつな、頑固やから、自分で落とし前つけな気がすまんと思うねんな・・・」
「はぁ・・・」
今回の問題をワンマンプレーで片付けようとするコンコンに、AGEは一抹の不安を抱えていた。
ミナミ脱出とはスケールの違う事態を、彼女はどうするつもりなのだろうか?
「まぁ、こればっかりはな、時間をかけなあかんかもしらんなぁ」
「かける時間があればいいんだけど、そう悠長にしてられないんじゃないかと思うよ?」
AGEの不安そうな表情を読み取ってか、丹波がその肩に手を置く。
「まぁ、なるようにしかならん。
俺もいろいろと努力はしてみし、できることをコツコツやっていくしかないやろうな」
そう言い放つと、丹波はAGEに背を向け、1人階段へと姿を消してしまった。
その後ろ姿を見送ったAGEは、ぽつりと小声で漏らすのであった。
「できることが何か分からないから、困ってるんじゃんか・・・」
2/3 今後の展開に合わせるために、本文の一部を編集




