46
46
アキバの街は、ミナミに負けず劣らず閑散としていた。
大手ギルドは鳴りを潜めているようだったし、その他の〈冒険者〉たちも地面を見るのが忙しいらしく、頭上を行くコンコンたちに気が付いたのは少数だった。
中心から少し外れた、中世風の小奇麗な建物の前にコンコンたちは降り立つ。
「ここです。セルクルが案内してるはずなんですけど・・・」
「あ、AGEさん!セルクルさんが、すごく慌ててお部屋もどられましたよ?」
木製の扉を開けると、店番をしていたのであろうセドが、元気よく声を上げる。
彼の発する言葉に、AGEは少し安心した。
そのまま、後ろのコンコンらに、愛想を振りまく彼にAGEは細々したことを頼む。
「ありがとう、セド。この人たちに部屋を取りたいんだけどいいかな?」
「あ、はい。父さーん。お客さんだよ!」
「えらい、すいまへんねぇ。よろしお願いします」
「いえいえ。おや、遠方からおこしですか?聞き慣れない、言葉ですねぇ・・・」
宿の店主は、急に増えた宿泊客にも嫌な顔ひとつせずに、丁寧に対応してくれた。
彼との何気ない雑談は、ささくれ立っていたコンコンを少し落ち着かせてくれた気がした。
「なんで、こないな事になってしもうたんやろうねぇ・・・」
「おや、何かお悩みでしょうか?」
「なんや、疲れてしまいましたわ」
「宿屋には、難しいことはわかりません。特に〈冒険者〉が考えるようなことは。
でも、宿は疲れたときにしっかり休める場所ですよ」
ふくよかな体系の店主は、その体格に相応しい柔らかい口調でコンコンを労う。
その言葉に甘えて、コンコンは自室のベッドに転がり込んだ。
(ちょこっとくらい休憩しても、罰は当たらへんやろ・・・)
しばらくしてから、部屋の手配を全て済ませたらしいAGEがコンコンを訪ねる。
彼女はそれを迎え入れつつ、疲れた表情を見せていた。
アニアのことも気になるが、AGEは彼女の様子も気になっていた。
「こないバタバタになってしもうて、ごめんやで。AGEはん」
「はぁ・・・、一体、なにがあったんですか?」
AGEの問いかけで、コンコンの顔に苦悩の表情が追加される。
同じ部屋にいた丹波も難しい表情を浮かべる。
やはり、AGEはとんだトラブルメーカーをアキバの街に招き入れてしまったようだ。
今までの比較的、平安だった日常は当分お預けかもしれない。
「僕らは、もしかしたらミナミに遠征しに行かなあかんかもしらん・・・」
コンコンがやっと開いた重い口は、予想外なことを言い出す。
それだけ絞り出してしまえば、彼女の言葉は洪水のように流れ出す。
今まで頭の中で渦巻いていた考えが、音となって止めどなく漏れ出してくるのだった。
「え?」
「今回はきちんとパーティーを組んで、計画的に攻め入らなあかん。
それに、装備もいまのままやったら不安やし、情報も圧倒的に足らへん。それに・・・」
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!全然話が見えてこないんですけど!」
まくし立てるように話すコンコンを、AGEは慌てて止める。
告げられる言葉の真意が分からないため、聞いているほうは混乱するばかりだ。
(やっぱり、コンコンさんは人に何かを説明するの苦手だな。絶対に苦手!)
心の中で悪態をつきながら、AGEは何とか彼女から情報を得ようと工夫する。
しかし、どんな言葉をかけても、今の彼女には立石に水だった
結局、横で黙っていた丹波が助け舟を出してくれるまで、話は見えないままだった。
「まぁまぁ、コンコンちょっと落ち着き。さっきから全然説明になってないで」
「だって、落ち着けるような状況ちゃうし・・・」
「そんなに切羽詰まってるんですか?」
AGEの問いかけに、コンコンは言葉を失う。
彼女なりに、今の状況を説明したつもりが、全く伝わっていないことにショックを受けた。
「ちょっとミナミに、取りにかえるものができたんじゃ」
「取りにかえるもの?」
丹波はおどけてそう言ってのけたが、コンコンの顔は全く笑っていなかった。
AGEにはそれがどの程度難しいものなのか理解できなかったが、2人の様子からなんとなくそれを感じ取る。
「俺たちが逃げ出して来た場所に、アニアの大切な仲間が取り残されてるらしいんや」
「それも、ちょっと込み入ってて・・・。ね・・・」
コンコンは丹波に意味ありげに目配せをする。
それに頷いた丹波はため息をついた。
「こういうんは、赤司の得意分野なんやろうけどなぁ」
「赤司はんには、もう十分働いてもらいました。少し休んでもらわんと・・・」
「いや、お前が下手に動くほうが、赤司は嫌やと思うで?」
どさくさに紛れて、丹波が正論を述べるものの、誰の耳にも届かなかった。
AGEは元から好き勝手跳ねている天パを、よりグシャグシャにかき上げる。
「新しいクエスト発生ですね・・・」
終わりは始まりという言葉が脳裏をよぎる。
やっと落ち着くと思っていたが、また新しい冒険が始まるようだった。




