表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
ヨコハマにて
45/82

45

45.

「ねぇ!コンコンさんたちまだー?」

「んー。まだ見えないなぁ」

「セルクル、ちょっと落ち着けよ、お前」

「だってーーー!待ちきれないよー!」


双眼鏡のようなものを覗き込んでいるAGEに、セルクルが隣でぴょんぴょんと飛び跳ねながら訪ねる。

セルクルの反対側に座るタカムが彼女を窘めるも、あまり意味はなしていないようだった。


「まったく、ここ屋根の上だぞ?落ちても死なないとはいえ、気を付けろよ」

「それにコンコンさんたちが来るのは、お昼だろ?まだもう少しあるぞ」


兄2人の言葉に不満げではあるが、セルクルは頷いて腰を下ろした。

3人はミナミの方向を見つめながら、待ち人を待つ。

この2週間近く待ち続けていた彼らは、今日ようやくアキバに到着しようとしている。

外出規制もかかって、心配もたくさんしたセルクルが、待ちきれない理由もよく分かった。


「まだかなー?まだかなー?」

「さっきから1分も経ってないぞ」

「知ってるよ!」


そわそわとするセルクルの横で、〈アルブの遠見鏡〉を覗いていたAGEが、あっ!と声を上げる。

向こうの空を指さしながら発する、その声も心なしか弾んでいた。


「あれじゃないかな?ほら、あの5匹の〈鷲獅子〉!」

「5匹?〈鷲獅子〉は4匹のはずだろ?」

「そうなんだけど、5匹いるねぇ」

「見せて!・・・なんか、変な感じしない・・・?」


〈アルブの遠見鏡〉をAGEから受け取ったセルクルは、目を凝らす。

本来なら4匹で隊列を組んでいるはずの〈鷲獅子〉たちだが、1匹が他の4匹を残して猛スピードで迫ってくる。

その1匹に乗っているのは白髪なことから、セルクルは丹波と判断した。


「なんだろう?丹波さんだけが、急いでアキバに入ろうとしてる」

「とりあえず、こっちからも行こう。何かの救援信号かもしれない!」

「うん。雪くんたちおねがーい!」


何もない空間から、〈雪狼〉の真っ白な巨体が3体現れる。

それぞれに跨った3兄弟を乗せて、アキバの屋根の上を街の門のほうへと進む。

3人が街を囲む塀にたどり着くと、丹波が大きく手を振ってきた。

それに3人も手を振ってこたえる。


「丹波さーん!どうしたー?」

「アニアが倒れたんだ。どこか寝かせられる場所を・・・」

「え・・・?あ、宿!・・・い、行きましょう!」


やっと互いの顔を確認できる距離になったところで、丹波の慌てた声がする。

意味がよくわからないまま、1番早くに動いたセルクルが〈雪狼〉に跨り、宿へと誘導する。

〈雪狼〉と〈鷲獅子〉が通り過ぎて、少ししてから他の4匹の〈鷲獅子〉が塀に降り立つ。

その背中には、それぞれ不安そうな顔をした〈冒険者〉たちが乗っていた。


「丹波はんとアニアは?」

「とりあえず、俺らの宿に向かってます」

「ならええわ。僕らもクタクタや。このまま、宿まで案内してもろうてもいいですかねぇ?」

「一体、なにが・・・・」

「きゃっ!・・・お願いやから、言うことを・・・聞いて?」


AGEの質問を制止したコンコンの耳に、少女の声が届く。

コンコンが振り向くと、胡桃の乗るアニアの〈鷲獅子〉が暴れていた。

主が不在だからなのか、必死にしがみつく胡桃を乗せたまま、どこかに行ってしまいそうな勢いである。


「胡桃!」

「胡桃ちゃん、こっちに乗り移って!」

「は、はい!・・・んしょっ!・・・あ、アニアの〈鷲獅子〉が・・・」


機転を利かせた雷牙とクロノの〈鷲獅子〉に、胡桃が飛び移ると、アニアの〈鷲獅子〉はアキバの街を離れていく。

あのまま胡桃が乗っていたらと考えると、コンコンはぞっとするのだった。

コンコンは慌てて、雷牙とクロノに受け止められた胡桃に近づく


「あぁ・・・胡桃ちゃん、大事ありまへんか?」

「は、はい・・・大丈夫です・・・」

「よかった。とりあえず、僕の後ろに乗りはって」


取り乱しているコンコンたちをよそに、赤司は遠のいていく〈鷲獅子〉の様子を見守る。

それは、まっすぐと来た道の方に戻っていった。

またゲームの法則に合わない現象が起きていると、いう嫌な予感を感じつつ赤司はその姿を見送った。


(まさか、な・・・。そんな訳あらへんよな・・・?)


そう思いつつ、彼はその考えをそっと、胸にしまう。

だが、一度浮かんでしまった考えは、なかなか消し去ることはできない。

彼の眠れぬ日々は、アキバについてもなお続きそうなのであった。


「これは、熟考の余地がありそうやなぁ・・・」


時を同じくして、到着早々、目まぐるしくトラブルに見舞われているコンコンに、AGEは苦笑していた。

彼女の周りは、こういうことには事欠かないのだ。

そんな彼女の前を進みつつ、AGEは軽く不安を募らせるのだった。


(俺は、とんでもないトラブルメーカーをアキバに招き入れちゃったのかも・・・)



皆さま、師走ですね。

お忙しいなか、「脇役〈冒険者〉たちの話」を読んでいただき、

誠にありがとうございます。

hanabusaでございます。


さて、今年も残すところ僅かとなりました。

皆さまは、クリスマスや年末年始をいかがお過ごしの予定でしょうか?


私事ではありますが、本日より2週間ほど国に一時帰国いたします。

久しぶりに、家族と過ごす時間を楽みたいと思います。

つきましては、年内の更新は昨日の45話が最後となります。


2016年もまた、テンプル兄弟たちと、冒険を続けたいと思っております。

なにとぞ、作者ともども「脇役〈冒険者〉たちの話」を、よろしくお願いいたします。


それでは、年末年始楽しんでお過ごしください。

新しい年が皆様にとって、幸多い年になりますように。


hanabusa@関空

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ