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45.
「ねぇ!コンコンさんたちまだー?」
「んー。まだ見えないなぁ」
「セルクル、ちょっと落ち着けよ、お前」
「だってーーー!待ちきれないよー!」
双眼鏡のようなものを覗き込んでいるAGEに、セルクルが隣でぴょんぴょんと飛び跳ねながら訪ねる。
セルクルの反対側に座るタカムが彼女を窘めるも、あまり意味はなしていないようだった。
「まったく、ここ屋根の上だぞ?落ちても死なないとはいえ、気を付けろよ」
「それにコンコンさんたちが来るのは、お昼だろ?まだもう少しあるぞ」
兄2人の言葉に不満げではあるが、セルクルは頷いて腰を下ろした。
3人はミナミの方向を見つめながら、待ち人を待つ。
この2週間近く待ち続けていた彼らは、今日ようやくアキバに到着しようとしている。
外出規制もかかって、心配もたくさんしたセルクルが、待ちきれない理由もよく分かった。
「まだかなー?まだかなー?」
「さっきから1分も経ってないぞ」
「知ってるよ!」
そわそわとするセルクルの横で、〈アルブの遠見鏡〉を覗いていたAGEが、あっ!と声を上げる。
向こうの空を指さしながら発する、その声も心なしか弾んでいた。
「あれじゃないかな?ほら、あの5匹の〈鷲獅子〉!」
「5匹?〈鷲獅子〉は4匹のはずだろ?」
「そうなんだけど、5匹いるねぇ」
「見せて!・・・なんか、変な感じしない・・・?」
〈アルブの遠見鏡〉をAGEから受け取ったセルクルは、目を凝らす。
本来なら4匹で隊列を組んでいるはずの〈鷲獅子〉たちだが、1匹が他の4匹を残して猛スピードで迫ってくる。
その1匹に乗っているのは白髪なことから、セルクルは丹波と判断した。
「なんだろう?丹波さんだけが、急いでアキバに入ろうとしてる」
「とりあえず、こっちからも行こう。何かの救援信号かもしれない!」
「うん。雪くんたちおねがーい!」
何もない空間から、〈雪狼〉の真っ白な巨体が3体現れる。
それぞれに跨った3兄弟を乗せて、アキバの屋根の上を街の門のほうへと進む。
3人が街を囲む塀にたどり着くと、丹波が大きく手を振ってきた。
それに3人も手を振ってこたえる。
「丹波さーん!どうしたー?」
「アニアが倒れたんだ。どこか寝かせられる場所を・・・」
「え・・・?あ、宿!・・・い、行きましょう!」
やっと互いの顔を確認できる距離になったところで、丹波の慌てた声がする。
意味がよくわからないまま、1番早くに動いたセルクルが〈雪狼〉に跨り、宿へと誘導する。
〈雪狼〉と〈鷲獅子〉が通り過ぎて、少ししてから他の4匹の〈鷲獅子〉が塀に降り立つ。
その背中には、それぞれ不安そうな顔をした〈冒険者〉たちが乗っていた。
「丹波はんとアニアは?」
「とりあえず、俺らの宿に向かってます」
「ならええわ。僕らもクタクタや。このまま、宿まで案内してもろうてもいいですかねぇ?」
「一体、なにが・・・・」
「きゃっ!・・・お願いやから、言うことを・・・聞いて?」
AGEの質問を制止したコンコンの耳に、少女の声が届く。
コンコンが振り向くと、胡桃の乗るアニアの〈鷲獅子〉が暴れていた。
主が不在だからなのか、必死にしがみつく胡桃を乗せたまま、どこかに行ってしまいそうな勢いである。
「胡桃!」
「胡桃ちゃん、こっちに乗り移って!」
「は、はい!・・・んしょっ!・・・あ、アニアの〈鷲獅子〉が・・・」
機転を利かせた雷牙とクロノの〈鷲獅子〉に、胡桃が飛び移ると、アニアの〈鷲獅子〉はアキバの街を離れていく。
あのまま胡桃が乗っていたらと考えると、コンコンはぞっとするのだった。
コンコンは慌てて、雷牙とクロノに受け止められた胡桃に近づく
「あぁ・・・胡桃ちゃん、大事ありまへんか?」
「は、はい・・・大丈夫です・・・」
「よかった。とりあえず、僕の後ろに乗りはって」
取り乱しているコンコンたちをよそに、赤司は遠のいていく〈鷲獅子〉の様子を見守る。
それは、まっすぐと来た道の方に戻っていった。
またゲームの法則に合わない現象が起きていると、いう嫌な予感を感じつつ赤司はその姿を見送った。
(まさか、な・・・。そんな訳あらへんよな・・・?)
そう思いつつ、彼はその考えをそっと、胸にしまう。
だが、一度浮かんでしまった考えは、なかなか消し去ることはできない。
彼の眠れぬ日々は、アキバについてもなお続きそうなのであった。
「これは、熟考の余地がありそうやなぁ・・・」
時を同じくして、到着早々、目まぐるしくトラブルに見舞われているコンコンに、AGEは苦笑していた。
彼女の周りは、こういうことには事欠かないのだ。
そんな彼女の前を進みつつ、AGEは軽く不安を募らせるのだった。
(俺は、とんでもないトラブルメーカーをアキバに招き入れちゃったのかも・・・)
皆さま、師走ですね。
お忙しいなか、「脇役〈冒険者〉たちの話」を読んでいただき、
誠にありがとうございます。
hanabusaでございます。
さて、今年も残すところ僅かとなりました。
皆さまは、クリスマスや年末年始をいかがお過ごしの予定でしょうか?
私事ではありますが、本日より2週間ほど国に一時帰国いたします。
久しぶりに、家族と過ごす時間を楽みたいと思います。
つきましては、年内の更新は昨日の45話が最後となります。
2016年もまた、テンプル兄弟たちと、冒険を続けたいと思っております。
なにとぞ、作者ともども「脇役〈冒険者〉たちの話」を、よろしくお願いいたします。
それでは、年末年始楽しんでお過ごしください。
新しい年が皆様にとって、幸多い年になりますように。
hanabusa@関空




