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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
ヨコハマにて
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44.


ヨコハマ、街の中心部から少し外れた場所にある宿の一室に、7人の〈冒険者〉たちが集まる部屋があった。

彼らは円卓を囲み一様に難しい表情で、互いに目線を送ったり、うつむいたりしている。

その円卓のあるところから、声が上がった。


「私があったヤマトの〈冒険者〉の報告は以上です。

彼らはアキバに我らが移住できる時を、見計らってくれると言っていた。

私は、彼らが信用に値すると考える」


青色の胴着に身を包んだ青年、ダーシーはグレーの瞳で鋭く周囲を見回す。

その隣に座った銀髪の少女、メイズが大きく頷いて同意する。

しかし、円卓を囲む者の中には、納得のいかない表情の者もいるようだ。


「それは、何をもってそう判断したんだ?

第一、なぜ君たち(中国人)だけで、彼らに接触したんだ?」

「そうよ!私たちモンゴル人や他の人間も連れて行くべきだったわ!」


冷静そうなメガネの〈猫人族〉の男と、憤りで勢いよく立ち上がった〈法義族〉の若い女の反論に、ダーシーは下唇をかむ。

表情は穏やかに保ちながらも、その内側はいらだっていた。


(声をかけても来なかったのは、お前たちだろうに・・・)


ダーシーは口をつぐむ。そこでシェンシュンが口を開いた。

その少年らしい顔にのっている茶色い瞳は、少し吊り上がっていた。


「みなさんにも、声はかけたはずですよ!

それにあのヤマトの〈冒険者〉たちは、悪い人間には見えませんでした!」

「お前を襲った〈冒険者〉は、悪い人間に見えたか?シェンシュン?」

「・・・・・・」


〈猫人族〉の男がメガネの奥から、黒い瞳でにらみを利かせる。

睨まれたシェンシュンは、黙るしかなかった。

それでもダーシーは穏やかに笑みを浮かべ、男に向き合う。


「それでは、我々中国人のみでこの関係は運営させていただきます。

そうしましたら、みなさまにはご迷惑はかかりますまい」

「っ・・・!またそうやって、数の力で自分たちの良いように話を進めようとする!

私たちだけで、ここに放置されて何ができると思う!」

「では、どういたしましょう?何か意見を頂けないだろうか?

より優れた案があるなら、我々も従うつもりでづよ。モングンツェツェグさん」


〈法義族〉の女が吠えると、ダーシーは困ったような顔を作って切り返す。

モングンツェツェグと呼ばれた女は、長い黒髪の毛先を口に持っていき噛み始める。

彼女が苛立っているときの癖であった。

ダーシーはすかさず〈猫人族〉の男に向き直る。

煌びやかな衣装を纏った男は、面白くないという表情で睨み返してくる。


「いかがでしょう?ネイグルさんも、何かあれば仰ってください」

「・・・いや。・・・ただ、我々は様子を見させていただく」

「はい。お好きになさってください」


なんとか話がまとまり、会合は終わりに近づく。

ドアの近くに座っていた大男が、礼儀正しく内容をまとめる。


「では、ヤマトの〈冒険者〉の件は、全員合意ということでよろしいですかな?」

「あぁ、私はそれで構わない。ありがとう、タオロー」

「我々はあくまでも様子をみる姿勢ではあるが、賛同しよう」


大男ことタオローが、きちんと綴られた紙の束に何か書きつけている。

その様子を見つめる〈冒険者〉たちは、沈黙を守る。

やっと顔を上げたタオローが、綴りに書かれた内容を読み上げる。


「一つ、ヤマトの〈冒険者〉との交渉は、ダーシーを主として進める。

一つ、ダーシーはヤマトの〈冒険者〉との交渉内容を、共有する義務を負う。

一つ、ネイグルとそれに賛同する者たちは、この決定に必ず従う必要がないとする。

以上は、厳正な会合のもとに合意された契約とする。ではサインを」


ダーシー、ネイグルがサインを記入したところで、タオローはその綴りを懐にしまう。

それをもって会合はおひらきになった。


「くれぐれもコンコンという狐に、化かされないことだな」


嫌味を置き土産に、ネイグルがモングンツェツェグを連れ立って退室する。

ダーシーを初めとしたその他の〈冒険者〉たちは、一気に緊張の糸を解くのだった。


「うわー。今日もネイグルさんきつかったねー」

「モングンツェツェグさんも怖かったー」

「僕らには荷が重すぎるよー」


ダーシーも顔を両手で覆いながら、疲労を隠せないでいる。

顎で切りそろえられた銀髪を、払いながらメイズがダーシーに視線をやる。


「ねぇ、ダーシー本当にあの日本人を信じて大丈夫なの?」

「メイズ、君までそんなこと言うのかい?」

「こう思っているのは、きっと私だけではないはずよ」


その言葉を聞き、ダーシーは目を伏せる。

彼の中にも大きな迷いが存在していた。

ただ、今彼らが前に進むためには、負わなければいけないリスクがある。


「僕にも分からないよ。ただ、今は彼らを信じるしかないんだ・・・」


弱弱しくも温かい笑顔で、ダーシーはそう呟くのがやっとだった。


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