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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
ヨコハマにて
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42.


「あー起きてはった?よかったわぁ」


早朝、念話のけたたましい音にたたき起こされたAGEの耳に、コンコンの能天気な声が響く。

さすがに、このモーニングコールは辛かったのか、AGEはため息をつく。


『・・・起きてたわけないじゃないですか。この念話でたたき起こされました』

「あら、それは失礼しました。その割には元気そうやないですか?」

『全然元気じゃないですよ』

「あらあら・・・」

『いくらやることなくて昼寝ばっかりとはいえ、さすがにこの時間はキツイですよ』

「すみまへんねぇ」


AGEはボサボサの頭のまま、悪びれた様子のない電話の相手に呆れる。

コンコンはクツクツと笑った。


『今、ヨコハマにいるって聞きましたよ』

「言うたんクロノはんやろ?そうです。ヨコハマにおります」

『もうアキバすぐそこじゃないですか?今日こっちに来るんですよね?』

「お昼頃に到着予定ですわぁ」


急に計画を変更して、勝手に予定よりも早くに到着する客人を、AGEはまったく気にした様子でなかった。

むしろ、楽しそうに笑っている。

そんな彼の態度に安堵しつつ、コンコンは謝罪の言葉を述べる。


「当日連絡になってしまって、申し訳ないわぁ」

『いえいえ、お気になさらず。これで俺らも堂々と外出できるようになるんで』

「まぁ、その件でもえらい迷惑かけましたな」


この数日間、彼ら3兄弟が律儀に外出規制の約束を守ってくれていたことに、コンコンは心から感謝していた。

〈幻獣憑依〉ソウル・ポゼッションでアキバの様子を観察しているセルクルによると、アキバの大手ギルドはそれ以外の理由でばたばたしているということだが。


『大手ギルドたちは一体、何をしようとしてるんでしょうね?』

「さぁ、僕らの知ったことやありまへん」

『そうですけど・・・。心配じゃないんですか?』

「心配しても始まりまへん。それよりも僕は、無事アキバにたどり着けるかに意識を集中させてます」

『ま、普通に考えてそうですよね』


お互い言いたいことがなくなったのか、2人の間に沈黙が流れる。

それを合図に、コンコンは念話の終了を告げる。


「それやったら、また出発の時に連絡しますわ」

『はいはい。お待ちしてます』


そんな軽いあいさつで念話を終わらせたコンコンは、座ったままストレッチのような動きをする。

立ち上がり服と尻尾の汚れを払うと、隣の宿の屋根に飛び移った。

そのままの勢いで宿の窓から、廊下に飛び込む。

静かな廊下を通って、自分の部屋まで歩く途中に丹波が待ち受けていた。


「あら、おはようさん。今日は寝坊しはるんちゃうかったん?」

「そのつもりやってんけど、お前から預かっとったこの鏡が、ちょっと気になってな」

「〈忌み鏡〉がどうかしはったん?」


コンコンの表情が曇り始める。

彼女はこの〈忌み鏡〉に現れるものにすごく敏感になっていた。

取りつかれているつもりはないが、信ぴょう性があるので気になってしまう。

だからそ、この鏡を頻繁に確認していたし、誰かに預ける時もそのように伝えていた。


「いやな、この女らにちょっと見覚えがあってなぁ」

「なんや、別嬪見つけただけないな。そんなことで騒がんといてくだ・・・・」

「ちゃうわ、あほ。この2人見覚えあらへんか?」


丹波がぐいぐいと〈忌み鏡〉を目の前に押し付けてくるので、コンコンは嫌そうな顔をしながら、鏡覗き込んだ。

あきれ返った表情だった彼女が、その表情を一転して険しくする。

その表情はあきらかに、見覚えがあると語っていた。

丹波はやれやれと頭を振ると、大きく長い溜息をついた。


「まさか、元〈茶会〉様が出張ってくるとはなぁ」

「・・・恐ろしゅうて、なんも言うことあらへんわぁ」

「こら、えらいことになりそうやなぁ」


丹波はそこまで言うと、〈忌み鏡〉をコンコンに押し付け、あくびをした。


「こんな気分悪いもん持っとくんは、もうごめんやわ」

「いやいや・・・。僕かて嫌やわ」

「なんや、鏡のお守りもようせんのかい」

「僕は、お守り自体不得意ですけん」

「どっちかっていうと、俺にお守りされるがわやったもんな」


丹波が彼女の気持ちを軽くしようとして言う冗談に、コンコンは乾いた笑いで答えた。

しかしその口元が笑っているのに、丹波は確認する。

コンコンの手にしっかりと〈忌み鏡〉を渡し、わしわしっと頭を撫ぜてやる。


「何しますのん・・・」


迷惑そうに手を振り払った彼女の顔は、驚きの表情だった。

コンコンの仮面を被っていないその反応に、丹波はにんまりする。

恨めしそうに睨んでくる彼女をよそに、丹波はひらひらと手を振った。


「そいたら俺は二度寝してくるけん、またあとで」


一人廊下に残されたコンコンは不機嫌そうに、手の中の鏡を見てから部屋にむけて歩き始める。

その後ろ姿はイライラとした様子が、よく伝わってくる歩き方だった。


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