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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
ヨコハマにて
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40.


「で?何ですのん?本題って?」


その問いに、ダーシーは少し安堵の表情を浮かべる。

彼はこの言葉がかけられるのを、ほんの少し期待していた。

そこに彼自身の甘えが垣間見れるのは、重々承知だ。

それでも、この日本人プレイヤーたちが、手を差し伸べてくれるのではと、期待せざるおえなかった。

ダーシーは立ち上がって、3人の顔を見ながら強い調子で口を開く。


「我々の2つのことを計画しています。

まずは、〈大神殿〉の情報を書き換え。

ここにいるのは低レベルプレイヤーも含めた、70人程度です。

まだヤマトでは、プレイヤータウンに立ち寄っていません。

〈大神殿〉の情報が中国サーバーのままなので、いつ中国サーバーに戻ってしまうか分からない・・・」


そこで、ダーシーは言葉を切って相手の様子を伺う。

日本人プレーヤーたちは、なんとも深刻そうな表情で彼の言葉に耳を傾けている。


(正直、彼らにとっては迷惑な話かもしれない。

それでなくとも混乱している自分たちの住処に、よそ者が来るのだ。

より一層、混乱を広げることになるかもしれない)


それを覚悟で、ダーシーは言葉を続ける。

正直、こちらはもっと拒絶されるかもしれないという不安で、彼の声も少し震える。


「次に、ヤマトサーバー内で我々も拠点を持ち、活動していきたいと思ってます。

日本人プレイヤーに迷惑をかけるつもりもないですし、依存するつもりもありません。

ただ、モンスターと中国サーバーの現状の脅威から逃れる場所が欲しい。それだけです」


ダーシーは必死に目の前の〈冒険者〉たちに訴えた。

本当は、目的がこの2つだけかと言われたら嘘になる。

だが、当分目的はこの2つだし、それに最後の1つは言ってしまったら受け入れられないだろう。

後ろめたさに心を痛めつつ、相手を見つめることしかできなかった。


「それは・・・」


コンコンは次に発する言葉を探しつつ、口を開く。

ダーシーの言葉はとても重みがあり、コンコンの心を震わせる。

身の安全のために、どこに飛ぶかわからない〈妖精の輪〉に飛び込み続けた亡命者たち、助けたいのは山々だ。

ただ、彼女は本当のことを、そして自分にできる精一杯のことを答えるしかなかった。


「お気持ち察しますえ。

だけどねぇ、まず僕らにはあんたらに何かを許可するような権限はないんです。

どこを拠点にしよういうんか知りまへんけど、ヤマトの土地は僕らのもんやありまへん」


その返答は冷たいように聞こえるが、もっともな話だった。

この土地を管理しているのは今の場合、きっと〈大地人〉たちだろう。

そこを国の代表でもないコンコンたちが許可するのは、お門違いだった。

相手もそれがわかっていたのだろう、反論してくる様子はない。

それに乗じてコンコンは言葉をつづけた。


「それに、ヤマトの〈冒険者〉も、まだまだ混乱しよう。PKやら初心者狩りやらがありよう。

正直、海外の者を受け入れる余裕は、今はないやろう」

「そう・・・ですか・・・」


ダーシーは大きく落胆し、肩を落として席に着いた。

ほかの面々、特に銀髪の〈エルフ〉の少女の表情は悲痛なものだった。

その沈黙の中、コンコンは言葉をつづける。


「僕らは今、アキバを目指してるんです。

正直、ミナミに行くんはお勧めしまへん。あんたらが行くなら、アキバがええやろう思います」

「アキバ・・・東にある大きなプレイヤータウンだな」


聞き覚えがあるのか、大男がコンコンの言葉を反復し、補足する。

他の面々がそれぞれうなずく中、シェンシュンが首を傾げた。


「なぜ、ミナミに行くことを止めるのですか?」

「それは・・・、確証がある訳ではあらへんけど、ミナミはの雰囲気は良くないんよ」

「俺らも、そのミナミのから逃げてきたようなもんや」


同じように、拠点にしていたホームタウンを後にしたことに、中国側〈冒険者〉たちが目を見張る。

目指していたサーバーも、逃げてきた元のサーバーと変わらない状況だったのだ。

そのショックは大きいものだろう。

その気持ちを察しつつ、コンコンは再度口を開く。


「もしあんたらが、アキバに来てるっていうなら、

アキバが落ち着いて、あんたらを受け入れられそうになったらお知らせいたしましょう」

「おい!コンコン!そんな確証のない約束をするんやない!」


赤司が勢いよく立ち上がり、コンコンを強い口調でたしなめる。

対照的に、コンコンは飄々とした表情で、赤司を気にかけた様子もなくダーシーの方に向き直る。


「もちろん、アキバにそんな平安が来るなんて、僕らは保証できへんけどね。

それで良いですやんね?ダーシーさん?」

「はい・・・。なんとお礼を言ったらいいか・・・」


深々と頭を下げたダーシーに、コンコンはにっこりとほほ笑む。

赤司はいまだに不機嫌な顔をしているが、ここで一度会談はお開きになった。 


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