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「で?何ですのん?本題って?」
その問いに、ダーシーは少し安堵の表情を浮かべる。
彼はこの言葉がかけられるのを、ほんの少し期待していた。
そこに彼自身の甘えが垣間見れるのは、重々承知だ。
それでも、この日本人プレイヤーたちが、手を差し伸べてくれるのではと、期待せざるおえなかった。
ダーシーは立ち上がって、3人の顔を見ながら強い調子で口を開く。
「我々の2つのことを計画しています。
まずは、〈大神殿〉の情報を書き換え。
ここにいるのは低レベルプレイヤーも含めた、70人程度です。
まだヤマトでは、プレイヤータウンに立ち寄っていません。
〈大神殿〉の情報が中国サーバーのままなので、いつ中国サーバーに戻ってしまうか分からない・・・」
そこで、ダーシーは言葉を切って相手の様子を伺う。
日本人プレーヤーたちは、なんとも深刻そうな表情で彼の言葉に耳を傾けている。
(正直、彼らにとっては迷惑な話かもしれない。
それでなくとも混乱している自分たちの住処に、よそ者が来るのだ。
より一層、混乱を広げることになるかもしれない)
それを覚悟で、ダーシーは言葉を続ける。
正直、こちらはもっと拒絶されるかもしれないという不安で、彼の声も少し震える。
「次に、ヤマトサーバー内で我々も拠点を持ち、活動していきたいと思ってます。
日本人プレイヤーに迷惑をかけるつもりもないですし、依存するつもりもありません。
ただ、モンスターと中国サーバーの現状の脅威から逃れる場所が欲しい。それだけです」
ダーシーは必死に目の前の〈冒険者〉たちに訴えた。
本当は、目的がこの2つだけかと言われたら嘘になる。
だが、当分目的はこの2つだし、それに最後の1つは言ってしまったら受け入れられないだろう。
後ろめたさに心を痛めつつ、相手を見つめることしかできなかった。
「それは・・・」
コンコンは次に発する言葉を探しつつ、口を開く。
ダーシーの言葉はとても重みがあり、コンコンの心を震わせる。
身の安全のために、どこに飛ぶかわからない〈妖精の輪〉に飛び込み続けた亡命者たち、助けたいのは山々だ。
ただ、彼女は本当のことを、そして自分にできる精一杯のことを答えるしかなかった。
「お気持ち察しますえ。
だけどねぇ、まず僕らにはあんたらに何かを許可するような権限はないんです。
どこを拠点にしよういうんか知りまへんけど、ヤマトの土地は僕らのもんやありまへん」
その返答は冷たいように聞こえるが、もっともな話だった。
この土地を管理しているのは今の場合、きっと〈大地人〉たちだろう。
そこを国の代表でもないコンコンたちが許可するのは、お門違いだった。
相手もそれがわかっていたのだろう、反論してくる様子はない。
それに乗じてコンコンは言葉をつづけた。
「それに、ヤマトの〈冒険者〉も、まだまだ混乱しよう。PKやら初心者狩りやらがありよう。
正直、海外の者を受け入れる余裕は、今はないやろう」
「そう・・・ですか・・・」
ダーシーは大きく落胆し、肩を落として席に着いた。
ほかの面々、特に銀髪の〈エルフ〉の少女の表情は悲痛なものだった。
その沈黙の中、コンコンは言葉をつづける。
「僕らは今、アキバを目指してるんです。
正直、ミナミに行くんはお勧めしまへん。あんたらが行くなら、アキバがええやろう思います」
「アキバ・・・東にある大きなプレイヤータウンだな」
聞き覚えがあるのか、大男がコンコンの言葉を反復し、補足する。
他の面々がそれぞれうなずく中、シェンシュンが首を傾げた。
「なぜ、ミナミに行くことを止めるのですか?」
「それは・・・、確証がある訳ではあらへんけど、ミナミはの雰囲気は良くないんよ」
「俺らも、そのミナミのから逃げてきたようなもんや」
同じように、拠点にしていたホームタウンを後にしたことに、中国側〈冒険者〉たちが目を見張る。
目指していたサーバーも、逃げてきた元のサーバーと変わらない状況だったのだ。
そのショックは大きいものだろう。
その気持ちを察しつつ、コンコンは再度口を開く。
「もしあんたらが、アキバに来てるっていうなら、
アキバが落ち着いて、あんたらを受け入れられそうになったらお知らせいたしましょう」
「おい!コンコン!そんな確証のない約束をするんやない!」
赤司が勢いよく立ち上がり、コンコンを強い口調でたしなめる。
対照的に、コンコンは飄々とした表情で、赤司を気にかけた様子もなくダーシーの方に向き直る。
「もちろん、アキバにそんな平安が来るなんて、僕らは保証できへんけどね。
それで良いですやんね?ダーシーさん?」
「はい・・・。なんとお礼を言ったらいいか・・・」
深々と頭を下げたダーシーに、コンコンはにっこりとほほ笑む。
赤司はいまだに不機嫌な顔をしているが、ここで一度会談はお開きになった。




