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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
日常と冒険のはじまり
4/82

4

4.


「AGE兄ぃ、コンコンさんなんて?」


念話を終えたAGEにセルクルが不思議顔で尋ねる。

〈大災害〉以来、彼女からの連絡はたったの一度きりだった。その一度もふざけたテンションのふざけた内容だったため、今回の念話とのギャップに頭がついていかない。

AGEはコンコンの言った内容に混乱した頭を、なんとか働かせる。

そして兄弟に1番最初に伝えることにしたのは、やはりコンコンのとんでもない計画だった。


「コンコンさんたちが、ミナミからアキバに来るらしい」

「は?!どうやって?」


タカムは驚きの声をあげる。

AGEもかなり困ったような表情のまま、言葉をつづける。

コンコンの思惑なんて、AGEが知る由もないのだ。


「詳しくは聞いてないけど、移動してだろうね」

「いやいやいや。アキバとミナミ、ハーフガイヤでも結構距離あるけど?」

「そうだよー!しかもモンスターも出るし」

「だよな。でもなにか考えがあるみたいだったけど…」


セルクルとタカムは口をそろえて反対する。AGEが予想していた反応だった。

というか、常識的な反応といったほうが正しいだろう。

この世界の情報が少ない今、大移動を決行することが賢い判断かと言われたら否だろう。


「第一なんで、アキバに来るの?ミナミじゃダメなの?」


セルクルにはこの大移動の意味が全く見いだせなかった。

彼女自身、戦闘にはまだ出ていない。その勇気がなかった。

元の世界での生活からかけ離れた、セルデルシアの生活に慣れるだけでも苦労している。

そんな自分が、現実化した戦闘に適応できるとは到底思えなかったのだ。


「ミナミで悪いことが起きる兆しがあるらしい。ミナミ、アキバ間の移動をしてでも、避けたいような悪いことが起きるって」

「プレイヤータウンで?」

「話を聞いた感じだとそうみたいだけど、なんか詳しくはなしてくれなかった。

でも、すごく思いつめてるっていうか、追い詰められてるっていうか…。

すごくコンコンさんらしくない感じだった」

「あのコンコンさんが…?」


コンコンと言えば、破天荒な性格の変わり者な女性だ(キャラは男性だが)。

とても追い詰められて、思いつめる姿が想像できなかった。

〈大災害〉前、一緒にパーティーを組んだ時も、彼女の無茶な提案によって幾度となく神殿送りにされた。

ワイヴァーンの群れに彼女と囲まれた際、彼女が能天気に笑っていた記憶はまだ鮮明だ。

〈大災害〉以降、性別と肉体が一致していないプレイヤーたちがパニックになっていた時期でさえ、動揺しつつもその状況を楽しんでいるようにも見えた。


(そんなコンコンさんがそこまで悩むなんて…。ミナミで一体何が起きようとしてるの?)


しかし、彼女の計画性や組織力、そしてパーティーやレイドでの頼もしい姿を知っているからこそ、混乱した。


現状でモンスターの相手をしながら、アキバとミナミの間を移動するというのはかなりの無謀な行為に思える。

Lv.90を超える長年のプレイヤーとはいえ、今の戦闘には自分の体で攻撃し、自分の体で攻撃を受けなければならないのだ。

コンコンが、元の世界でどういった経験をしてきたかはしらないが、一般人にとっては苦痛でしかないであろう。


(コンコンさんは勝算があって言ってるのかな?…今の私じゃ、迎えに行ってあげられない…)


セルクルは自分の無力さに打ちひしがれる。

もしこれがゲームのままであったら、彼女は途中まででも迎えに行っていただろう。

でも今は、戦闘の場に置かれると恐怖で頭が真っ白になり、脚が震えるのが目に見えている。

そして、もう一つ彼女には気になることがあった。


「…コンコンさんは何でAGE兄ぃに連絡してきたの?」

「アキバに着いてからの街案内とか、生活の面倒を見てほしいんだって」

「…そう、なんだ」


(よかった…。お兄ちゃん達は、連れていかれない…)


セルクルが気にしていたのは、兄たちの安全だった。

兄たちは、セルクルと違いこの状況でも、彼らを迎えに行くだろう。

だからこそ、彼女は兄たちに置いて行かれることを恐れていた。

自分勝手ではあるが、今の彼女には彼らなしで過ごすだけの、精神的・肉体的な余裕は全くなかった。


そんな安堵をつくセルクルを知ってか知らずか、AGEの言葉はよりセルクルの心にショックを与える。


「コンコンさんの連れてくる人には、低レベルのプレイヤーも混ざってるみたいだしいろいろ助けてあげよう」

「えっ…?」


(初心者さんを庇いながら、アキバまで?無理だよそんなの…)


Lv.80代の自分でも辛いのに、経験もレベルもないプレイヤーには相当辛い旅になるだろう。

まだ見ぬミナミからの訪問者に対して、セルクルの悲壮感はより深まっていった。


彼女にできるのは、ただただ、みんなが無事にアキバまでたどり着くことを願うだけであった。


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