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39.
ダーシーは昔話をするかのように、穏やかな声で語る。
その話はなんとも興味深かった。
「中国サーバーでは、今大手のギルドによる内戦が起こっています。
その規模もさることながら、彼らの主張も滅茶苦茶で・・・」
「それは、ヤマトも変わらんと思いますけど…」
「それが少しわけが違うんです。
中国の歴史で、多くの王朝が繁栄しては衰退していったことはご存知ですか?」
「まぁ、世界史で簡単には習ったな。三国志時代とか」
「どうせゲームで覚えとるんちゃうん?それ以外出てこうへんやろ?」
「うるせ」
丹波と赤司が場の雰囲気に合わない軽口を叩き合い、それをコンコンがたしなめる。
中国側の〈冒険者〉たちは苦笑を浮かべていた。
「すみまへん。それで?その中国の歴史が、今の状況とどう関係しとる言うんです?」
コンコンの困惑した問いかけに答えたのは、シェンシュンと名乗った小柄なドワーフの少年だった。
彼は椅子の上に立ちあがり、咳払いをしてから話し始めた。
「今中国サーバーには、「華王」と名乗る大きなギルドが3つあるんだ。
それぞれのギルマスたちが、中国サーバーの王様になろうとして戦ってる。
だから、中小のギルドの〈冒険者〉やロロプレイヤーを無理やりギルドに加入させようとするんだ。
あと、敵対する〈冒険者〉たちを殺したり、奪ったり、襲ったりしてて・・・」
シェンシュンの声は、最後のあたりは震えていた。彼も被害者の1人なのかもしれない。
しかし、レベル90の〈妖術師〉である彼が襲われるとは、中国サーバーはかなり恐ろしい状況のようだ。
「それで、ヤマトサーバーに逃げてきたってわけやな」
「はい。日本は困難な時も、うまく乗り越えることができる国として有名ですからね。
我々には低レベル・低年齢の仲間もいます。安心できる場所かと思いました」
シェンシュンの言葉を引き継いだダーシーは、声を強めて言った。
彼らにとってヨコハマという街は、やっとたどり着いた安息の地なのだろう。
どういうメンバーが机についているのかは、コンコンたちには計り知れないが、彼らが代表的存在ということは予想できた。
だからこそ、こちらもコンコンや丹波、赤司といった、中心人物が出てきているわけなのだが。
おそらく、彼らもコンコンたちのように、目的を同じくした〈冒険者〉の集まりだろう。
しかし、昼間見た限りその規模はかなりの大きさだ。
それでも、彼らが統制のとれた組織であることはなんとなく感じ取れる。
(このダーシーとかいう奴、そんなカリスマ性があるんろうか?
あんまそんな風には見えへんけど・・・)
赤司は目の前の頼りなさげな優男に目を向ける。
確かに、頭が切れそうに見えなくもないが、どこか頼りなさそうな印象を受ける。
大変失礼な心象かもしれないが、赤司だったらこいつについて行こうとは思わないだろう。
「それで、あんたらはどういう風に集まったんですん?
ギルドが同じいうわけでもなさそうですけど?」
「昼間見かけたけどあれだけの人数じぇけん、そう簡単に統制はとれへんやろう?」
コンコンが相手のステータスを、読めないなりにも吟味した結果を質問する。
あれだけの人数が、結託して行先の分からぬ旅を続けられるのか疑問でしかなかった。
その質問に答えるため、ダーシーは気恥ずかし気に話し出す。
「それは、最初は僕たちを中心に10人程度の人数だったんですが、いろいろあって・・・」
「途中で立ち寄った町で助けたり、私たちに噂を聞いて合流したりって感じで、今の数まで膨らんだの。
元からこんなに大所帯じゃなかったわ」
「俺たちも、多少は腕に覚えがある〈冒険者〉だ。
心も鬼ではない、助けが必要な者に手を差し伸べてきたつもりだ」
しどろもどろな口調のダーシーに代わり、銀髪の〈エルフ〉の少女と大男が答える。
コンコンは感心したように、目を見張る。
この誰もが厳しい状況下で、他の者に手を差し伸べるのは簡単なことではない。
赤司もこの優男に、少しだけ骨太な面を見出して感心していた。
「まぁ、僕一人ではできなかったことで・・・この仲間だったからできたのかな・・・」
「なんや、決まらんやっちゃなぁ」
「赤司はん、いくらなんでも口に出したらあきまへん」
「それは、心の中ではコンコンも同意してるってことか?」
やはり、シドロモドロが抜けないダーシーに、赤司は半ば呆れた。
そこはびしっと、決めてほしいセリフだったように思う。
それでも、彼の周りの仲間が離れないのは、やはりその人柄なのだろう。
確かに人好きしそうな雰囲気をまとっている。
「まぁ、中国サーバーの様子やら、あんたらのことは少し分かりましたわ」
「そうですか。拙い説明でしたが、それは良かった」
「で?何ですのん?本題って?」
そう、コンコンは彼らの身の上話のために、貴重な睡眠時間を削ったわけではないのだった。




