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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
いざ、アキバへ
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34.


「これは良うない・・・」

「へぁ?」


コンコンの呟きに丹波は間抜けな反応を見せる。

彼の位置から、後ろにいるコンコンの様子をうかがい知ることはできない。

コンコンが彼の背中にぴったりとくっついているからだ(決して悪い気はしない)。

また彼女が何をもって、そんな不穏なことを口にしたのかも分からないでいた。


「ちょいと難題が転がってきたんです。どうしましょうか思ってねぇ」

「難題?なんやねんそれ?」

「これ見てくださいな」

「なんじゃ?鏡か?」


コンコンが見せたのは小さな手鏡だった。小さい割には、装飾が豪華だった。

覗き込む丹波の顔どころか、後ろの様子すらまったく映り込まない。


「前言うてた、フレーバーアイテムの〈忌み鏡〉ですえ」

「あぁ、これがかね。そんで、なんが良うないんや?」

「映り込んでくるもんがね、悪趣味すぎてしゃあないんよ」

「悪趣味?」


それは映り込んでいる人に対して失礼ではないかと、思いながら丹波は鏡を覗く。

一瞬にして彼はコンコンの言っている意味を理解し、驚愕した。

思わず驚きの声を上げる。


「これ、全員が俺らの邪魔しようってやつらなん?」

「まぁ、どこまで大きな障害になるかは別にして、そうなんやろうなぁ」

「まじかー。これはほんまに悪趣味やな」

「何人おるんでっしゃろねぇ?多すぎてよう分からんわぁ」


〈忌み鏡〉に映る人の群れは膨大な数になっていた。

そこには、知った顔、知らない顔、冒険者ではない顔、様々な顔が混在している。

その顔は全員、意地悪そうな顔をしているわけでもないのに、不気味だった。


「1週間前はもっと少なかってんけど、増えとるんよ」

「この1週間でなにがあったんや!って感やな」

「そうやねぇ。嫌やわぁ、ほんま」


2人の間に少しの沈黙が流れる。

丹波は彼女のイライラとした空気を感じ取り、機嫌を損ねること覚悟で言葉を発する。


「なんや、心配事でもあるんか?」

「・・・なんでそう思わはるんです?」

「なんとなくやな」

「ほんまですか・・・?」

「・・・顔に出とる。何かがひっかかとる顔や」

「えっ・・・?!」

「冗談やで」

「・・・もぅ」


ぷりぷりと効果音が付きそうなコンコンの様子を見て、丹波はくすりとほほ笑んでしまう。

なんとなく、この様子が彼の知る本当の彼女・・に近い気がした。

呆れた声のコンコンをよそに、丹波は手綱を持ち直して前を向く。


「なに笑ろうてはるん?こんな時に・・・」

「いや、別に」


『悪い知らせですよ。みなさん』


この和やかな雰囲気に似合わない、不穏な言葉が念話でクロノからもたらされる。

コンコンと丹波の表情は自然と厳しくならざる負えない。

クロノの優秀なところは、このニュースをコンコン、丹波のみに連絡をよこしたことだ。

他のメンバーは、空にいる状況で混乱に陥りかねない。


『ミナミ周辺で脱出する〈冒険者〉が、〈冒険者〉に狩られ始めたらしい』

「そうか・・・。とうとう始まったか・・・」

「僕らはミナミを出た時期がえかったんやねぇ」

『そうだね。ただ、遠征してくる部隊がいつこっちまで来るか分からないよ』


クロノは何か気になることでもあるのか、すごく沈んだ声を出す。

その声は念話を受けた2人をも不安にさせた。


「どうしはったん?なんか心当たりでもあるん?」

『はぁ。まぁ彼がそんなことをするとは思えないけど、友人のギルドが加担してたりしたら、恐ろしいなと思って』

「へぇ、そんな統制のとれたギルドがあるん?〈大災害〉後どこのギルドもバラバラやったけど」

『あそこはね、粒ぞろいだから。それにこミナミ脱出狩りが、一部の人間の狂気的趣味とは思えないから』

「組織的な統制のとれたものの仕業か・・・」


クロノの言いようから、その範囲はかなり広いと考えてよいだろう。

暗い声で受け答えするクロノが小声なのは、彼の後ろに乗る雷牙を気遣ってだろうか。

だが、これでこの旅を急ぐ理由と、心配事が増えたといえよう。


コンコンは自分の砂時計を確認する。

〈鷲獅子〉の搭乗可能時間を計測しているそれは、1/4ほどの砂が下に落ちている。


「あと3時間しかあらへん。ヨコハマまで飛ぶんは無理やねぇ」

「また馬で距離稼ぐか?でも年少組にはちょっと殺生やで?」

『ここまで来て、ミナミに後戻りよりかはましでしょう』


さまざまな意見が2人から出てくるが、コンコンは比較的落ち着いていた。

彼女は本当に誰に相談するべきか、しっかりと分かっていた。

2人に断りを入れてグループチャットに、フレンドリストの中の1人の名前を追加する。

相手はすぐにグループチャットをアクティブにした。


『・・・なんやねん』

「ちょいと頭使うてもらわなあきまへん。しゃっきとしんさい。赤司はん」

『はぁ?頭使うってなんやねん?』


後方と旅の進捗管理を任せている、頼れる〈神祇官〉にコンコンは望みを託したのだった。


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