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33.
「あの、アニアさん?」
「なぁに?胡桃ちゃん、大丈夫?」
「あ、いえ・・・。あの・・・何でもないです・・・」
〈鷲獅子〉の上、胡桃はアニアの後ろにしがみ付きながら口ごもる。
(アニアさんって幾つぐらいなんやろう・・・?ていうか、もっとお話ししたいなぁ・・・)
この旅の中で、胡桃が気軽に話せる相手は雷牙だけである。
それでも彼は男の子、やっぱり女性と話したいのが、胡桃の世代の性だ。
ここにいる胡桃以外の女性は2人。
だがコンコンは年上で、見た目は男性、しかも話していても緊張するばかりの美しさなのだ。
(でも、うち話しかける勇気ないしなぁ・・・)
アニアは小柄で華奢だ。下手したら胡桃よりも身長が小さいかもしれない。
そして、何よりも、可愛い。
女の子を虜にする、キャラクターのようなルクスをしている。
日本の戦う魔女っ娘系のアニメとかに出てきそうな女の子らしいかんじだ。
ピンクのふわふわのツインテールも、きらきらのお目目もプリなんとかとか言うアニメにいそうである。
(可愛いやんなぁ。やっぱそういうのん意識なんかなぁ?)
「ねぇ、胡桃ちゃんは幾つなの?」
(ほら、話し方もそんな感じやん。可愛いわぁ。・・・って、え?)
「えっ・・・?えっ?えっ?」
「ど、どうしたの?なんかいけないこと言った?」
「あ、う、いいえ。あのそうやなくて・・・えっと・・・」
狼狽える胡桃を肩越しに振り返ったアニアは、鈴を転がすように笑う。
そこがまた、なんとかキュアにそっくりだった。
「ほら、アニアたちって数少ない女子じゃん?だからちょっと興味あって聞いたの」
「あ、そうやんね。はい。うちは14歳です」
「そうなんだ。てか、敬語いらないよ」
「あ、うん。・・・うん」
(やばい。心読まれたんかと思ったやん。びっくりした)
胡桃は変な汗が噴き出てくるのを感じながら、深呼吸をする。
こういう時、自分の会話の下手さを呪う。
いつも友達の話を聞く側になることが多い彼女は、会話を続けるのが苦手だった。
「14歳ってことは中学生?びっくり!そんなに離れてたんだ!」
「え?アニアさんは・・・?」
「アニアでいいよ。アニアねもうすぐ19歳なんだよねー」
「え?・・・えぇぇぇ?」
「ふふふ。びっくりした?」
「お、同い年くらいやと・・・思ってた・・・」
絶句する胡桃をよそに、アニアは可愛らしい仕草で笑う。
このテレビアニメから飛び出してきたような可憐な少女は、実は成人間近の大人の女性でした。
子供の頃の、「大好きなキャラクターの着ぐるみの中身が、厳ついお兄さんでした」っていうのと同じくらいショックな事実だった。
ついつい、この世界での身体は仮のものだということを忘れてしまう。
(そ、そんな・・・。こんなに可愛いのに年上だなんて・・・)
消して年上の女性が可愛くないといいたいわけではない。
ただ、この目の前の少女の可愛さは、年上の女性のそれとは異なったものだった。
「み、見た目で判断したらあかんね・・・」
「本当にそうだね。胡桃ちゃんは、それ元の自分と同じ見た目なの?」
「うーん。身体のサイズには違和感はないで。でも、髪はこんな明るない」
「へぇ。いい色だよね。亜麻色の髪の乙女って感じ」
「亜麻色・・・?」
「えっ?知らない?有名なあの歌!え?これがジェネレーションギャップ?」
上空でバサバサと舞う、胡桃の長い髪を見てアニアが懐かしそうに呟く。
胡桃には聞き覚えのない単語だった。
アニアは心底驚いて、ちょっとショックを受けて、すね始める。
忙しい人だなとは思っていない。断じて思っていない。
「あのね、有名な歌でね「亜麻色の髪の乙女」って曲があるの。
簡単にいうと女の子が、恋をしてて、声がきれいで、好きな人に会いに行くみたいな歌詞」
「えっと・・・?よくわからへんかも・・・」
「そう?うーん、アニアこういうの説明するの苦手なんだよね・・・」
そう言いながらアニアは右手を顎に当て、首をかしげる。
この魔法少女のようなポーズは、ファンが見たらきっと卒倒してしまうだろう。
胡桃も思わず見つめてしまった。
「まぁ、恋する女の子て可愛いみたいな?胡桃ちゃんっぽい歌詞かなーって」
「う、うちは別に・・・こ、恋はしてないんやけど・・・」
「え?」
アニアは一瞬、考えごとをするように黙りこくる。
そのあとで、何か思いついたのかふーん。と小声でつぶやいた。
風の影響で、胡桃の耳には届いていなかったが。
「あ、うーん。・・・まぁ、素敵な色だと思う!すごく優しい色!」
「うちは、アニアさ・・・アニアのピンクがすごく可愛いと思う。
なんか、戦う魔法少女みたい。なんで魔法攻撃職やないん?」
「それは・・・まぁ、・・・いろいろね・・・」
「そ、そうなんや」
褒めちぎられてばかりで恥ずかしくなってきた胡桃は、アニアに話をそらす。
彼女の世界中のファンも気にしているであろう疑問を、彼女にぶつけてみた。
しかし、胡桃の言葉にアニアは居心地悪そうな声を出した。
胡桃からは彼女の表情が見てとれなかったが、きっと渋い顔をしていただろう。
(聞いたらあかんかったかな?)
その後も2人の少女たちは〈鷲獅子〉の上で、可愛らしい会話を繰り広げていた。




