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28.
コンコンとクロノの声が、すぐ後ろを進む丹波の耳にも届く。
「僕自分が焦ってるて気付いておまへんかってん。でももう大丈夫やわぁ。
気付いてまうと、こう胸のつっかえが無くなって、スッキリやねぇ」
コンコンが言ったその言葉が、丹波の脳裏に引っかかる。
(その言い方は、まるでつっかえていた物を無理に無視しようとしとるみたいやないか)
この世界に来て、丹波はコンコンの振舞に疑問を抱き続けてきた。
元の世界での、あの甘えん坊で頼りない彼女の面影は全く見ることができなし。
何かをその手に握りしめ、誰にも渡さないと隠しこんでいるように感じられた。
(まぁなんや、この状況でいろいろ目覚めたんかもしらんが、明らかに無理しような)
丹波としては心配でもあるし、そのことをきちんと話し合いたいと思っていた。
しかし、そのたびにこの世界で目覚めたばかりのころ、コンコンが丹波に告げた言葉が邪魔をする。
「僕は『コンコン』なんですえ。破天荒で常に余裕がある、美しい男なんです。
せやから、前みたいに甘やかしてもらわんで結構ですえ」
周りが混乱している中、ひどく落ち着いたその言葉は、丹波を大いに不安にさせた。
彼女は、本当に混乱するといやに冷静になってしまうのだ。その為、他人には混乱していることに気づかれにくい。
ただ、不安と同時に、彼がさみしさを感じたのも事実である。
(こう感じるんは俺のエゴなんやろうかなぁ・・・?)
悶々と考えを巡らせていると、念話で赤司の声がする。
内部の考えと外部の音声が混ざってよく分からなくなり、丹波は一度思考を止めて赤司の言葉に集中する。
『ところでこっちの世界でのハママツってどんな街なんや?』
『確かに、元の世界とおんなじ感じなんやろか?』
元の世界をもとにして作られているとはいえ、〈エルダー・テイル〉での都市にさまざまなゲーム的要素が設定されている。
例えば現実世界の豊田市は〈不死の街トヨタ〉と呼ばれ、街ごとダンジョンになっている。
アンデッド系のモンスターが出現し、とても人間が住む場所ではない。
『行ったことないから分からないけど、ダンジョンはないはず』
『でも新しいパッチが当たっとるし、もしかしたら何かできてたかもしれんな』
「浜松といえば楽器が有名やな。ピアノとか有名やなかったか?」
『そ、そういえば、そんなことを学校で習ったような気がします・・・』
あくまでも予想、感想の域を脱しないコメントが一通り続き、いよいよハママツの街の入り口が見えてきた時、胡桃の召喚獣の〈グレイウルフ〉たちが騒ぎ出す。
動揺したような胡桃の呟きと、今にも涙が零れ落ちそうな涙目に、一同に不安が募る。
「あ・・・、あぅ・・・」
「どうしたんや!胡桃!」
「ま、街の中から・・・戦闘の気配が・・・するって・・・そんなことあり得ないのに・・・」
真っ青な顔の胡桃は、街の方を指さして小刻みに震えている。
街から戦闘の気配とは、穏やかではない。
基本的に街の中には、モンスターは立ち入ることができないのだ。
なので、戦闘の気配がするとなると、人為的な理由しか挙げられない。
「アニア、胡桃を下げったて!赤司はん前に!
丹波はんと雷牙は後方組の護衛を、僕とクロノ君は突っ込みますえ!」
「おい!回復圏内にはいなあかんで!」
すぐにコンコンの指示が飛び、各員が動き始める。
後方組との距離が開きすぎると、支援魔法が一切届かなくなるので、距離に注意が必要になる。
馬を降り街に飛び込んだ一向の目に、戦場と化した街の様子が映し出される。
丹波は咄嗟に、胡桃の前に立ち視界を遮る。彼女を雷牙にそっと託しつつ、小声でささやいた。
「2人は街の外におり、ええ言うまでは入ってきたあかんで」
「はい」
雷牙に伴われた胡桃が、町の外に出ていくのを見送り、丹波は背中の刀に手をかける。
そっと先頭を行くコンコンの後ろに降り立つと、街の様子を確認していく。
人気のない家々には、つい先ほどまで誰かがいた痕跡がありありと残っている。
道端に落ちた人形や、買い物籠などに人々の逃げた跡が残っている。
「〈大地人〉は死んだら痕跡なく消えてまう…」
そんな言葉が赤司の口から洩れる。
街の奥へと進むと、そこには逃げ惑う〈大地人〉を襲う複数の姿があった。
赤司がすかさずステータスを読み上げる。
「メイン職〈山賊〉の〈大地人〉が11人、レベルは30から4じゅ…」
「はぁっ!」
赤司の言葉を遮るようにコンコンが、倒れている男性を襲おうとしていた〈山賊〉を切り伏せる。
その声で異変に気が付いたのか、〈山賊〉たちの顔色が変わる。
「な、なんでこんなところに〈冒険者〉が・・・?」
「くそっ!撤収だ!撤収!」
「逃がしは!しまへん!」
そこには鬼の形相をした、コンコンが刀を構えて立ち塞がっていた。




