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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
いざ、アキバへ
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22.


ミナミを出てまだ半時間も経っていないだろうが、赤司は既にまいっていた。

乗り物に弱い訳ではないが、高所からの眺めは彼に吐き気を催させるには十分だ。

どれくらい弱っているかというと、先ほどの念話で、隣を行く少女2人組から心配される程度だ。


だが、〈鷲獅子〉で気持ち悪くっていること以外にも、彼をまいらせることがあった。

それは、あの殺されたであろう〈大地人〉の少年に関連することだった。


あれから数日経ったが、彼の姿が戻ってくることはなかった。

そして、あの〈大地人〉の少女の姿を見ることもなかった。

気になって彼らのものと思われる村を覗いてみたが、特に変わった様子はなかい。

ひとまず安心んしていたが、やはり気になるものは気になる。


(あの子がおらんくなって弊害は絶対にでるはずや・・・)


赤司はこっそりと下唇を噛み、眉間にしわを寄せる。

ミナミの門の脇に立っていた少年は、村を守るためのモンスター討伐という、オーソドックスなクエストを司っていた。

ただし、そのクエストの報酬は、多くのプレイヤーが欲しがるMP補助系のアイテムだ。


(現に俺も持っとるが、これがあるのとないのじゃレイドクラスのモンスター相手やったら大きな違いが出てくるくらいやで。

これが新たに手に入らんくなったってことは、〈冒険者〉に優劣がつくなぁ・・・)


だが、赤司が本当に悩んでいるのは、その少年がいなくなったことで、起こるであろう2つの弊害のことだ。

1つは、〈冒険者〉に中で需要と供給がアンバラスになり起こる、アイテムの高価格化。

もう1つは、〈エルダー・テイル〉内で少なくとも1つの村が消滅すること。


1つ目の弊害は、まぁ致し方ないことだろう。影響が出ても〈冒険者〉間で対処すればいい。

だが、2つ目の方はそうはいかない。

この世界がどのような摂理で動いているか分からない今、村が消滅して何が起こるかなんて分かったものではない。


(理屈うんぬんで何とかできるもんやない、自然の摂理との対決やからな・・・。

どうやっても、乗り切るんは難しいやろうな)


赤司は〈大地人〉たちがインフラや物流を、全て担っていることに気が付いていた。

あの村が消滅したことによって、ミナミに、はたまたヤマトに何が起こるのか、それは赤司の想像を超えるものだった。


その村は、どんな役割をこの世界で担っていたのか、そこまで突っ込んで調べることはしなかった。

正直、またあの少女に出会いたくないという気持ちがあったからだ。

そのときどんな顔をしたらいいのか、赤司には分らなかった。

身内を目の前で亡くした少女にかける言葉は、赤司の辞書には多く存在しなかった。


(いくら勉強ができても、こういうときは役に立たんなぁ)


そしてもう1つ、苦笑した彼の頭を悩ませるものがあった。

それは、あの〈武士〉の姿をした男のことだった。

恰好は立派な鎧兜の〈武士〉であったが、中身の方はただの脳足りん青年だったらしい。

あの後、〈大地人〉の少年を殺したことが知れたらしく、ミナミの外で大勢の〈冒険者〉たちに文字通り制裁されたらしい。


最初は、ただNPCを殺したぐらいでと、考えていた〈冒険者〉たちがほとんどだった。

しかしそのNPCが戻らない、GMからの連絡もないとなると、その責任を誰かがとらなくてはならない。

その役目を言い渡されたのが、あの〈武士〉の青年だったのだろう。


(まぁ、最終的にどうなったかは知らんが、ろくなことはなかったやろうな・・・)


哀れな青年がたどったであろう末路を思い浮かべてから、彼はため息をつく。

人間はおろか、動物や自分が食べる生き物すら手にかけたことのない現代人が、いきなり人を殺してしまったのだ。

知らなかった、そんなつもりはなかったとはいえ、大変なことだ。


その背景には、元の世界に帰りたいという、思いがあったと予想できる。

あんなにいとも簡単に少年にてをかけてしまったのは、思慮不足と強烈な願望のため。

そして、彼と同じ思いを持つ人間はこの世界に多いはずだ。


何とかして元の世界に帰る方法を探そうとする

 →段々と手段を択ばなくなる

  →その先にある「行い」とは・・・


「傷つけるのが自分か、他人かの違いやろうな・・・」


赤司が呟いた言葉は、ビュウビュウと吹き荒れる風にかき消されてしまう。

彼の頭に浮かんだのは、不確定で不明瞭で、ひどく不格好な「行い」ばかりだった。

どれも根本的な解決になりそうなものでは少なく、ただ被害者が出るだけにしか思えない。

しかし、人間の思いつくことなんて所詮その程度なのだった。


(あんな馬鹿が増えへんかったらええけどなぁ・・・。何やらかすか分かったもんやないで、ほんま)


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