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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
いざ、アキバへ
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21.


AGE、タカム、セルクルの3人はアキバの宿で、各々楽な体勢でのーんびりと天井を眺めている。

特に会話をするでもなく、ただ同じ部屋の中でゴロゴロしている姿は、元の世界においての休日の若者そのものだ。

とても緊迫した状況にある逃避行に加担しているとは思えないが、これが彼らの計画の一部であった。


ことは2日前に遡る。

この日、AGE、コンコン、赤司は念話にて計画の最終確認をしていた。


「外出を控えたらいいんですか?」

『そうですのん。出来る限り出かけたりせんでほしいんよ』

「いいですけど・・・なんでかは教えてもらっても?」

『まぁ、不便かけるしな、そこはしっかり説明するで』


AGEの質問に、赤司がため息をつきながら答える。

その声には明らかに疲労が滲んでいた。

この年若い参謀は、いつものようにコンコンにこき使われているようだ。

AGEは少し彼に同情した。


『正確に言うと、他の〈冒険者〉たちとの接触を避けてほしいねん』

「つまり、人と会うなってこと?」

『別に、自分らを信用してない訳やないんやで。ただな・・・』


赤司はそう前置きをしてから不穏な情報を口にする。


『最近、妙にアキバの状況に明るい奴がいっぱいおるんや。

もしかしたら、アキバとミナミで繋がっとるやつがおるんかもしらん・・・』

『つまり、テンプル兄弟さんが言った何気ない一言で、僕らの計画が漏れるかもしらへんってことです』

「それってまずいんですか?」


AGEは怪訝そうな声で尋ねる。

ミナミの状況を、いまいち掴むことができていない彼には腑に落ちない提案だった。

そんなAGEに、赤司は先ほどの疲れた声音で返事する。


こっちミナミでは新しい勢力がプレーヤータウンを牛耳ろうといとるって話や。

何やりだすか分かったもんやない。既に悪い噂もたっとる』

「悪い噂・・・。それが、今回の計画を狂わせるかもしれないのか?」

『念には念をですえ、AGEはん。

大きな力に抗えない弱者なら、全ての危険性に備える慎重さが必要になるんよ』


コンコンの神妙そうな発言のあと、一気に念話に沈黙が訪れる。

AGEはあっけにとられて、言葉を絞り出した。


「・・・コンコンさんから「慎重さ」なんて言葉を聞く日が来るとは」

『同感や。その対極におる人間やもんなぁ・・・』

『聞こえてますえ、お2人はん』


コンコンの不満そうな声が念話の向こう側から届く。

乾いた笑いが各々の口から洩れてから、コンコンが話題を元に戻す。


『まぁ、そういうことですわ。ミナミでの妨害、アキバに到着後の騒ぎ、どちらも避けたいんよ。』

「・・・アニアさんが一緒だったら、それは神経質にならざる負えないですね」

『そうやねんな。まぁ、置いていくわけにもいかへんし頼むわ』

「はいはい。でもあの有名なヒールエンジェル☆アニアに会う日が来るとはね…」


AGEは昔1度だけ動画で見たことのある、小柄な少女プレイヤーの姿を思い出す。

彼女は「ヒールエンジェル☆アニア」と名乗り、その見た目からは想像もつかないが前衛での戦闘を繰り広げていた。

天使を思わせる衣装に盾と剣を持った〈施療神官〉。いわゆる殴りクレリックとしての技能は彼女を世界的に有名にする1つの原因だった。


『あ、やっぱり知ってはった?』

「だってあの人、世界的に有名な殴りクレリックじゃないですか?」

『まぁ、あんま期待せんとき。自分との身長差30㎝に苦しんでんねん』

『ほんに可哀想やで。上手に動けへんねんから』

「それは災難ですね…」

『まぁ、あのロールプレイは健在やで』


彼女を有名にした2つ目の理由が、徹底したロールプレイにある。

設定上彼女は、天使と契約してその癒しの力を得た「戦う癒しの天使」らしい。

その設定を忠実に守り、衣装や戦闘スタイル、普段の会話に至るまでアニアになりきっているのだ。

国内外問わず、大きなお友達に大人気で、ファンクラブやサポートクラブが〈エルダー・テイル〉内にできている。


「へぇ。この状況下ですごいね。筋金入りだ」

『そうやんね。…まぁあの子は元々この世界の住人みたいなもんやけどな』

「え?どういう意味ですか?」

『いいえ。なーんにもありゃしません。気になさらんでください』


そんな3人の会話から2日間、テンプル兄弟は装備もつけず、街にも出ず、部屋に閉じこもっているのだ。

ゴロンゴロンと音が聞こえそうな程にベッドの上でひたすら寝返りを打っていたセルクルが、気の抜けた声を上げる。


「ぷえぇぇぇ…」

「急に変な声あげるなよ。セルクル」


セルクルに対して同じく気のない声でタカムが声をかける。

彼は手持無沙汰そうに〈ダザネックの魔法鞄〉の中身を整理している。ちなみにこの作業はこの3日間で4回目になる。


「だってー。暇すぎるんだもん」


衝立の向こうから、顔だけを覗かせたセルクルは少し寄り目がちだった。

あ、これダメなやつ。と兄2人は悟る。


「セルクル、これもコンコンさんたちが無事にこっちに来るためなんだ。もう少し辛抱してくれよ」

「そうそう。この宿の中なら動いても大丈夫だし、ちょっと歩いてきたらどう?」


AGEとタカムは妹に対しての精一杯の気遣いを見せる。

元の世界でのセルクルの扱いは慣れているが、今のセルクルにはたくさんの味方がいる。

召喚生物という名の味方たちは、ちょっと恐ろしい存在であった。


「うぅぅぅ。そうする。セーラたちと話してこよう…」


ゾンビのよう――本物のゾンビがいる世界ではリアリティに欠けるが――に部屋を出ていくセルクルを、兄2人はそっと見送る。


「触らぬ神にたたりなしだ」

「俺ら神官でも何でもないけどな」


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