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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
いざ、アキバへ
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20.


「その笛音出えへんのんですね」

「そうだな。〈獅子鷲〉には聞こえる音なんだろう」


クロノと雷牙の会話が終わると、遠くの空に4つの点が現れた。

それはすぐに大きくなり、7人の目の前に雄々しい〈鷲獅子〉が着地した。

その美しさに、思わずクロノは見惚れる。


今までグラフィックでしか見たことがなかったその生き物は、美しい羽毛と雄々しい体で回りを魅了していた。


「美しいな」


クロノはぽつりと呟いて、自分に近寄ってきた〈鷲獅子〉を撫でる。

〈鷲獅子〉はクロノの言葉が分かるのか、自慢げにその胸を張った。

その羽の感触は本物の生き物の温かさと、柔らかさを持っていた。


(あぁ。本当に現実の世界なんだなぁ)


クロノは〈鷲獅子〉の背に雷牙を乗せ、自分も乗り込む。

〈鷲獅子〉の所有しない胡桃と雷牙のために、2人乗りをする必要があった。

また緊急時の移動のために、利用制限時間がずれたものを、1頭は確保しておかねばならない。

そのためにコンコンも丹波の後ろに乗り込んでいる。


「ほいなら、出発としましょうか」


コンコンの声とともに4頭の〈鷲獅子〉と7人の〈冒険者〉が空に舞い上がる。

歓声をあげる者、悲鳴をあげる者、下を見ないようにする者、それぞれが初めての生き物での飛行に反応を見せる。

これからの旅路、ほとんどの行程をこの状況で過ごすことになる、早く慣れた方がいいだろう。


(噂には聞いていたが、ミナミからアキバを目指す人は多いみたいだな)


今回の旅路には風の噂で聞いた先行者がいる。

AGEからもたらされた情報によれば、彼らはイセ、ハコネ、ヨコハマ、シブヤを経由するルートでアキバにたどり着いたらしい。

アキバの大手ギルド〈D.D.D〉に所属する冒険者が率いた一団だったそうだ。

低レベルのプレイヤーを連れている場合、無駄な戦闘はしたくない、とても打倒な順路だろうと、コンコンが言っていた。


今回クロノたちが行く行程は、ほぼ同じ経路を通る予定だ。

1日目のまだ体力気力が残っている間にできる限り距離を稼ぐために、ハママツ付近まで移動する。

〈鷲獅子〉の搭乗可能時間の4時間を目一杯使って、その後は馬での移動することになるかもしれない。


「あの噂さえありゃせんかったら、僕らもイセでゆっくりしたいんやけどねぇ」


ふと、コンコンが言っていた言葉を思い出す。

あの噂とは、ミナミの街から〈冒険者〉が出ることを禁止する者が現れるかもしれない、という曖昧なものであった。

しかし、もしその噂が事実ならば、もしその「禁止する者」が追手をよこすような執拗な輩だったら、ミナミから離れるスピードは速いほど良いだろう。

イセは高レベルプレイヤーなら、追いつかれる危険がある距離にあるのだ。

それがコンコンの読みだった。


(イセの様子も見てみたかったなぁ・・・)


そんな悠長なことを考えていたクロノの耳にグループ念話の音声が響く。

お互いの姿が確認できる距離にいながら、風の音のせいで互いに声が届かないのだ。


『みんなはん、飛行を初めて幾分か経ちますがが大丈夫ですかいねぇ?』


コンコンの間延びした声がそれぞれに届く。


『アニアと胡桃ちゃんは大丈夫でーす!』

『で、でもお隣の赤司さんは、大丈夫じゃなさそうです…』

『うえぇ…』


今回、集団の後方を固めている、回復/補助組からの報告が入る。

小柄な少女が2人乗る〈鷲獅子〉の横を、同じく〈鷲獅子〉で飛ぶ赤司の顔色は優れない。

高所恐怖症の彼にとっては、嫌に近い空も、はるか遠い地上も死活問題なのだろう。


『相変わらずやなぁ、坊は…』

「赤司は大丈夫か?休憩いるか?」

『そんな悠長なことしよう時間おまへん。赤司はん、我慢してや』


丹波の呆れたような声と、クロノの提案をすっぱりとコンコンが切り裂く。

今回はスピード勝負なのだ。できる限りロスは作りたくない。

コンコンの焦りが見えたような気がする。

クロノはふと、違和感を覚える。


(コンコンさんは何をそんなに焦っているんだ…?この前まではあんなに落ち着いていたのに)


クロノはちらっと、自分たちの隣を飛ぶコンコンと丹波の〈鷲獅子〉に目を向ける。

いつもの着流しから、戦闘用の鎧兜に着替えている彼女は、丹波の背中にしっかりと掴まりながら、手元で何かをいじっている。

それが何なのか、クロノのいる場所から見えなかったが、今回の旅の重要なアイテムに違いない。


クロノの視線を感じてなのか、コンコンは手のものを懐に入れ込んでしまう。

進行方向へと向けられて視線は、不安と緊張からなのかいつもに増して鋭かった。

悠々とした彼女をそんなにも焦らせる存在に興味を惹かれつつも、クロノ〈鷲獅子〉の手綱を握りなおす。

実際、それで〈鷲獅子〉を操っている訳ではないが、何となく安心感があった。


(コンコンさんは、この冒険は難しくないと言っていたけど、果たして本当なんだろうか?)


後ろにいる雷牙の存在を感じつつ、クロノはぼんやりと考えていた。


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