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脇役〈冒険者〉たちの話  作者: hanabusa
日常と冒険のはじまり
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15.


セルクルはその夜、ひどい夢にうなされていた。

早く覚めろと思うほど、眠り覚めずその夢のリアリティは増していく


森の中を彼女は必死に走っていた。

その背後には何も見えない。しかし、彼女は何かに怯えるように足を速める。

呼吸は乱れ、頭は恐怖でいっぱいになる。


「はぁ・・・はぁ・・・。ここ、どこ・・・?」


周りを見渡しても見覚えのない森が広がるばかり。

鬱蒼とした木々のせいで、見晴は決してよくない。


「お兄ちゃん・・・?いないの・・・?」


兄の姿を探してみるものの、周りには人の気配も感じられない。

その事実が、彼女をより不安にさせるのだった。


「兄さん!ウンちゃん!お願い!」


震える手で、杖を握りしめ〈召喚獣〉を呼ぶが、彼女の忠実な従者たちは姿を見せない。


「うそ・・・。なんでぇ・・・・」


自分の最大の武器を呼び出せない彼女は、この世界で戦う術を持たない。

このまま、自分はこの恐怖の源の餌食になってしまう。


「兄さん?・・・ウンちゃん?・・・セイちゃん!冬っ子!ビー!ユニ!・・・みんな・・・!」


一向に姿を見せない従者の名前を呼びながら、彼女は自分のステータス画面を開く。

そこには先ほどまでパーティーを組んでいたであろう、兄2人の名前の横に「死亡」の文字が表示されている。


「うそぉ・・・・」


パニックが押し寄せる。

震える手で〈召喚獣〉のステータス表示を操作する。

そこには、瀕死状態に陥っている従者たちの表示が映し出された。

すでに、彼女の〈召喚獣〉たちは壊滅的な状況で、今の彼女を助けられるものはいなかった。


「あっ・・・!」


2人の兄と大切な〈召喚獣〉たちの不在に、セルクルの脚は止まる。

その場に膝をついた彼女は、背後から何かが迫っていることを感じていた。

しかし、兄も〈召喚獣〉もいない彼女には、もう何もできることはない。

ただ、それが襲ってくるのを待つしかない。


「いやっ・・・!」


夢が終わりきる前に、彼女は夢の世界から舞い戻る。

そのまま、元の世界に戻れていたらいいのにと、心の底から願った。

〈エルダー・テイル〉の世界の中に入り込んでしまっただなんて、嘘のようなことが現実に起こるわけがない。

兄たちと夜中までログインしたまま、寝落ちしてしまったために変な夢をただけだ。

そうであって欲しかった。


しかし、セルクルの体にかかる布団は、彼女の部屋のファンシーなものではなかった。

背中に感じる長い髪の毛も、ベッドのそばに立つ衝立も元の世界では見覚えのないものだ。


「あぁ・・・」


今いる世界が夢でないことに絶望し、夢が現実になる可能性に絶望する。

兄たちや、〈召喚獣〉たちを失う恐怖に目の前が涙でかすむ。


「私・・・こわい・・・。この世界が怖い・・・」


セルクルは、恐る恐る床に足をつける。

ひんやりとした床の温度が、足の裏から体中に這い上がってくる。

その生々しさと寒さに震えつつ、こっそりと兄たちの様子を垣間見る。

相変わらずの寝相でいびをかくAGE、だらしなく口が開いているタカム、その寝顔を確認してやっと安堵する。


「あれは、夢・・・。大丈夫・・・」


そう自分に言い聞かせて、少し冷えてしまった布団に潜り込む。

こんな時に呼び出すのは、この子しかいないだろう。


「セイちゃん・・・?」


その呼びかけに答えるように、光の中から姿を現したのは、翼を持った美しい女性だった。

自らが生み出す風に、緑色髪をなびかせた彼女は、その美しい顔に微笑みを浮かべる。


「来てくれてありがとう。」


彼女の大きな翼に包まれたセルクルは、ここぞとばかりに甘える。

それは、昔亡くなった母に抱かれているような心地よさがあった。


「どうしたんですか?セルクル嬢?」

「怖い夢見ちゃった・・・」

「そうですか」


〈セイレーン〉の心地よい風に吹かれながら、その優しい声を聞くと徐々に眠くなってくる。

安心から半分夢の中に導かれ始めたセルクルは、ふわふわした意識の中で〈セイレーン〉に尋ねる。


「セイちゃんはいなくならないよね・・・?」

「はい。セルクル嬢が望まない限り、おそばにいますよ」

「良かった・・・」


規則正しい寝息を立て始めた〈契約主〉を見つめ、〈セイレーン〉はにっこりとほほ笑むのであった。


ブックマーク数、評価が少しずつ増えていて、読まれていることを実感。

とても嬉しいです。

つたない文章ですが、これからもお付き合いください。

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