笑いたい!
足元に転がっている空き缶を蹴ろうとしたんだ。昔やっていたサッカーと同じ感覚でね。
だがなんと、空振りした。それはもう見事に。うだつの上がらないサラリーマンの青春を思い出すワンシーンのように空き缶を蹴っ飛ばし、「明日も頑張るか!」なんて事をやろうとしたんだが、まさかの空き缶を蹴ることすら出来なかった。それも助走をつけてかっこつけてのこれなもんで、後ろから歩いてきた通行人に横目で見られる始末。ああ、やっちまった――
俺こと中村周平は、まだまだ若い29歳独身のサラリーマンだ。毎日特別やりがいを感じるわけでもない仕事を続け、同僚と飲む事すらあまりないようなつまらん生活を続けてもう七年になる。まだもう少し前はなにか自分を変えようとか、別の仕事に就いて人生の軌道修正をしてやろうとか思ってたが、どうしてかもう29になり、そんなことを考える事も少なくなり、思い返すとつまらん人生を送って来た。だが意外と人間諦めは付くもんであって、もう俺の人生はこんな感じで終わるんだろうなと変に悟ってしまった。悲しいような情けないようなもんではあるが、恐らく俺みたいな人間の方がこの日本じゃ多いんじゃなかろうか。そんな自分に対して言い訳をしながら今日も軽い溜め息をつき、帰路に着いた。
アパートの階段を上がりながらネクタイを緩め、懐からストラップの付いた鍵を取り出した。このストラップは昔流行っていたアニメのキャラクターで、半笑いのなかなかふてぶてしい顔をしている。もうずいぶんと長い間使っているもんだから、ほつれや汚れが目立つが、俺はどうしてかこれを外す気にはなれなかった。まあ多分面倒くさいというのが大半だろう。もうどこにも売っていないだろうし、自分もどうやってこれを手に入れたか覚えていない。だから、まあこれいいんだ。愛着湧いてるし。
鍵を差し込み、開けてドアを開く。するとなにか白いものが視界の端で落ちた気がして、ぱさっと音が聞こえた。とっさにしゃがみこんで落ちていたものを拾う。それはまあ綺麗な白い封筒で、うさぎのシールが貼ってあった。