―――デュランダル、不安
―――デュランダルフォートレス艦内・中央司令室
「で、スバル。……月政府でも動き始めたか?」
たくさんのモニタや電子機器が並び、そのどれもが機能し時を刻むように動いている。それらからは微かな機械音が聞き取れ、室内に漂いながら妙な緊張感を蔓延らせていた。その機器の間から覗く窓には果てまで黒い宇宙が映し出されており、時折遠くの方で光が小さく瞬いているのが見える。
そんな中央司令室内には一人の男が座っており、その前には多くの人が群がっているのが見えた。その間には緊迫感が漂っていた。
そんな群がりの前方にいる男―――エイジがそう口を開いた。その言葉に、群がりの前に座る男―――スバルと呼ばれた俺が少し驚いたように目を開いた。
「まだ何も言ってないのに、察しがいいな」
するとクレハが自信を持ったように微笑んで口を開いた。
「舐めないでよね、私達は伊達に長くスバルと付き合ってないんだから」
「お前が全員集めるってことは、非常事態なんだろ?そのくらい察しがつくさ」
エイジも同じような表情になってそう告げる。
そんな二人の様子を見ていて、俺はふと乾いた笑みを浮かべた。座っていた椅子から立ち上がると乗員へと少し近づき、マントをバサリと靡かせた。
「……そうだ!先ほど、遂に月政府が俺たちに目くじらを立てて、討伐隊なるものを結成した、との一報が入った」
俺がそう告げると、乗員たちがざわつきを見せた。心配や不安の色が少し漂い始める。
「ということは、これからはいっそう戦闘が激化するのか……?」
乗員のうち誰かが、そう不安げに吐露するのが俺の耳に届いた。
不安になるのも仕方ない。戦闘が起これば、激化すればその先に俺らを待ち構えるかもしれないのは―――死。臆するのも無理はない。
「そうだな、戦闘の激化にならないとは言えない。ただ、なるとも限らない。相手の出方次第だ」
「ま、そんなことは分かったことだろ?それでも俺たちは義賊的に物資を落としていく。だろ?スバル」
するとエイジが俺の言葉を聞いて悪っぽく微笑んだ。俺はそんなエイジの顔を見て薄く微笑み返したが、しかしその後すぐ真剣そうな顔つきになり俯いた。
「あぁ……だが、いつか違うことも考えなければならない。そうしないと、数的にこっちが不利だ。……負ければ、逆賊だ、罪人だ、と咎められて男は殺され、女は遊ぶ玩具にされる。俺なんて恰好の獲物だろうな、革命軍の息子だ。俺も向こうの立場なら打ち首にでもしたい」
「……スバル」
俺が俯いて不安を口にすると、クレハが眉を落として少し悲しそうな表情を見せた。
船員たちも不安げに表情を曇らせ俯き始める。
しかし、その時俺は顔を上げると、乗員たちをキリッと見つめ勢いよく口を開いた。
「でもな、今ここでそういうことには出来ない。親父の遺志?そんなものはどうでもいい。それこそ、宇宙の藻屑として捨ててしまっても構わない。政府が倒したい、自分が月を治めたい。そんな私利私欲の話ははなからしてない。とにかく、だ」
俺はそこまで言うと、乗員たちに背を向け力強く、自分の意思を再確認するように声を発した。
「俺たちはこの戦争に勝たなければならない。戦争は勝ったものが正義だ。今までの人類の歴史は、今の世の中は、そうやって出来てきた。……勝てばいい、それだけなんだ」
「でも……」
刹那、クレハが表情を曇らせて、悲しそうに声を漏らした。
俺はそれを聞いてクレハの方へと向き直すと、クレハの目を真剣に見つめた。
「何だ、クレハ。俺たちが負けるかもしれない、とでもいいたいのか?」
「……いや」
クレハが何かを言いかけて尻込みし、その後拳を強く握ると、力強くスバルの目を見つめ返した。クレハの目が断固たる意思を持ち、自信に満ちた光を帯びたように見えた。
「うん、そうだよ。勝てばいいんだ。私達はスバルに何処までも付いていく。そう決めたんだから」
クレハが力強くそう告げると、その近くでエイジが悪戯っぽく俺に向かって微笑んだ。
俺はそれを見ると、ふっと笑みを零してきちんと乗員たちに向きなおる。
「さて、行くか。革命を起こしに」
俺が力強くそう言うと、乗員たちも力強く賛同の声を上げた。