―――月政府、画策
―――月政府官房会議室
「遂に奴らが動き始めましたぞ。あの、琴吹ギンガの遺した一味が」
白い照明を使用しているにもかかわらず、部屋の内装のせいか、はたまた人の黒い心のせいなのか、どこか暗い会議室の中に十人ほどの大人が円を描いて鎮座していた。
部屋の空気は重苦しくのし掛かり、人々の首を絞めるかのように息苦しく絡みつく。
そんな空間の中で、一人の男が慌てたように口を開いた。その言葉を聞いて、別の男がその男を落ち着かせるように口を開く。
「官房長官、まぁそう慌てるな。今回は、」
「首相!そう言われましても、奴らには“鍵”が……」
ダンッと鈍い衝撃音が響いた。それは首相と呼ばれた男が机を叩いた音だった。
首相の顔には官房長官と呼んだ男への苛立ちや現在の状況による不快感が相俟って、深く刻まれた眉間の皺がさらに濃くなり実に不愉快そうな表情が浮かんでいる。暗い目が官房長官をじとりと見つめていた。官房長官がそんな首相の威圧に怯え少し震えながら、口を固く噤む。
「確かに、奴らは脅威だ。しかし、軍部を統制すれば奴らなど容易く拘束できる」
首相が少し俯き、重みのある声でそう呟く。
そして首相は一息置くと、また口を開いた。
「それとも何だ、貴様は我々が奴らに負けるとでもいうのかね」
首相は、有無を言わさぬ暗い瞳で官房長官をじっと睨み付けた。
睨み付けられた官房長官は、蛇に睨まれた蛙のように膠着し、たじろぐ。光のない恐ろしい目に恐怖を覚えながら、慌てて弁解するように口を開いた。
「い、いえ、そういうわけでは……」
「そうだろうな、軍部大臣!」
そんな官房長官の様子を一瞥すると、首相は興味なさそうに目線を反らし、別の男の方を見やって尋ねた。
すると軍部大臣と呼ばれた男は、表情を少しも揺るがすことなく口を開いた。
「はい。当然のことです、首相」
その揺るがない冷たい瞳を見据えると、首相は軍部大臣をまっすぐ見つめながら口を開いた。
「本日付で軍の精鋭で討伐隊を結成し、奴らに仕向けろ。……いいな?」
その瞳をしっかりと見つめ返しながら、軍部大臣が口を開く。
「了解です」
その様子を見て、納得したように首相は目を反らした。そして水を一口飲むと、光のない目のまま口元を歪ませて不気味に微笑み、口を開く。
「さて、月の未来を考えようか」