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ETERNAL BREATH  君のための鎮魂歌  作者: 小野宮 夢遊
第三話「sea‐through communication」
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―――少年、隠した笑顔

―――プラ・ブロードウェイ・某ビル屋上

 風が吹いて、戸松の髪の毛が靡いた。風はクレーターの方へと、残酷にも清々しく吹き抜けていく。遠くの方で、クレーターの縁に育ち始めた草木が揺れたように見えた。 

 戸松はその様子を、錆びた手すりに肘を付き、.寄りかかりながらじっと見ていた。時折少し腕を動かすと、錆びた鉄や古びたペンキがザラリと落ちた。

 「スペース、シャトル……かぁ……」

 そうぼんやりと呟いて、戸松はどこか悲しそうな、寂しそうな表情を浮かべた。

 ぼんやりとクレーターと空の境界を眺めながら、先ほどの出来事を思いだし思案にふける。

 「あいつら、ほんまに……」

 「ほんまに作る気とちゃうんか?」

 その時、戸松の背後から女の声がした。戸松が驚いて振り返ると、そこには背の高いスラリとした女が立っていた。汚れたTシャツに、着古したつなぎを着ている。年は戸松と同じほどに見えた。

 「理沙……!お前、いつからおったんや」

 戸松が驚いたようにその女―――理沙に尋ねた。すると理沙は、微笑んで、「そこの出入り口の上で昼寝しとったんよー」と答えた。

 戸松がため息を吐いて、またクレーターに視線を戻す。

 理沙が戸松の隣にきて、戸松と同じように手すりに寄りかかった。

 「……さっきの“作り話”、うちには聞くに聞けへんかったで?」

 理沙が少し悲しそうな顔で微笑みながら、戸松の顔を見て言う。

 それを聞いて、戸松はばつが悪そうに俯いた。理沙はそれを見て、悲しそうに微笑みながら息を吐く。

 「親が殺されたとか、そーゆーこと関係あらへん、“昔大阪でスペースシャトルを作っとった時みたいに、笑顔で宇宙の話しーや”?……うちはな、今のしんどそうに作り話をしゃべる戸松よりも、昔の楽しそうな戸松の方が好きやで?」

 戸松は俯きながら、深く息を吐いた。そして戸松は表情に陰を持ちながら、真剣な表情で思考を巡らせる。

 「……わかっとる、わかっとるんや」

 そう言って戸松はまた顔を上げて、クレーターの方を見た。何処までも広がるその更地は、その絶望的な現状とは裏腹に、その絶望などどうでもいいほど清々しく開放的である。クレーターの縁には、緑が茂り始めており、一面の茶を緑が浸食し始めていた。

 傾き始めた日が、それでもなお燦々とこの世界を照らし出す。その照りつける日の光に、戸松は汗をぽたりと垂らした。


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