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ETERNAL BREATH  君のための鎮魂歌  作者: 小野宮 夢遊
第三話「sea‐through communication」
18/26

―――少年少女、大阪へ

―――大阪・半森林化郊外

 木々とその葉が織出す黒い影と、太陽が作り出す白い光を踏みしめながら、先に見える光に包まれた世界を目指して、背負った荷物を握る手を強める。額からするすると汗が流れる。その汗を拭うこと無く歩を進め、俺たちは光の世界へと足を踏み入れた。

 「ようやく、また文明の痕跡が見え始めてきましたね……」

 万華が少し眩しそうに目を細めながら呟いた。それを聞いて、一行は頷く。

 「そうね……。もうすぐかしら、源じいの言ってた場所は」

 小首を傾いだかすみを見て、麻美がうへっと嫌そうな顔をした。

 「もうすぐ着かないとクタクタだよー……」

 「もうあさみはクタクタなのですか?弱っちぃですねぇ」

 その時、万華が悪戯っぽく笑った。それを見て、麻美がむっとする。

 「何を!私は荷物が重いんだぞ!万華と違って!」

 「万華だって、おっもーい地図の書かれた書物持ってますよーだ」

 「そ、そんなの、私の荷物より軽いじゃん!むー!」

 悪戯っぽく笑う万華に、麻美がむっとして言い返す。しかし万華はクスクスと笑い小走りに駆け出すと、麻美の方を振り返ってあっかんべーをした。麻美もそれを見て、「万華のばかぁ!」と叫びながら、負けじと万華の方へと駆け出す。

 「……元気だなぁ、あさみと万華は」

 「そうねぇ」

 それを見ていた俺は呆れたように呟き、かすみはクスクスと笑う。

 「万華ー、あさみー、そこら辺にしとけーー」

 俺がそう叫ぶと、しかし追いかけっこを続ける万華と麻美の方から、「さとるのばかぁーー」と麻美の叫び声が聞こえてきた。何でだよと俺は突っ込む。しかしなんだか微笑ましく思って、クスッと笑った。重い荷物を背負いながら、万華と麻美が叫び合い駆けている。かすみがクスクスと笑い、俺も三人を見て微笑む。風がさらりと吹いて、湿った髪の毛をふわりと揺らした。



 「はぁ、はぁ……。ま、まだなのですか、ぷ、プラ・ブロードウェイは……」

 「と、遠いよ……。遠すぎるよ……。おかしいんじゃないの、迷子なんじゃないの……」

 万華と麻美が息を切らし、疲れ切った様子でトボトボ歩きながらそう呟いた。

 それを見て、俺は溜息を吐く。

 「全く……。走り回るからそうなるんだぞ?」

 「だってー、あさみがぁ……」

 「だって、万華がぁ……」

 「お前らなぁ……」

 口々に互いのせいにする二人を見て、俺はまた溜息を吐く。

 するとその時、かすみが俺のすぐ隣に近寄って、疲れた万華の代わりに俺が持っている地図を覗き込んだ。

 「んー。もう少しかかるみたいねー。もう大阪には入ったみたいだけど」

 かすみが手を口元に当てながら、考えるようにそう言った。

 それを聞いて、俺も地図に目を落とす。確かにもう大阪には入ったようだった。

 「そうだなぁ……。まぁ、今日中には着くんじゃ無いかな……」

 「アバウトですねーー」

 「アバウトだなぁーー」

 「こうゆうときだけハモるなよ……」

 俺が呆れたように突っ込み、眉を顰めた。かすみがクスッと笑う。

 「まだみたいだけど、ファイトだよ!万華、あさみ!」

 「「ふぁ~い……」」

 元気なかすみの声に対して、気の抜けた二人の返事が聞こえてきた。

 「でも、そもそも」

 俺はその時、そんな三人を見ていて不服そうにまた地図に目を落とした。

 そしてプラ・ブロードウェイがあると思しき場所の斜め上方を指さして軽く叩く。

 それをかすみが覗きこんで首を傾げた。

 「そもそも、本来の目的忘れてるだろ?俺たちは、プラ・ブロードウェイに行くためにわざわざ京都から出てきたんじゃないぞ?本来の目的は日本橋。スペースシャトルの設計を見直してくれる人を探しに来たんだからな?」

 俺がそう言うと、麻美と万華がはっとして立て続けに拳で手のひらを叩いた。

 「そういえばそうだった!」

 「そんな話もありましたね!」

 「思いっきり忘れすぎだろお前ら」

 「あぁ、そうだったね!」

 「かすみまで!?」

 俺は驚いてかすみを見た。すると、かすみが照れたように笑った。

 「えへへ、ごめんなさい。忘れてた……」

 「全く、全員して……」

 俺が呆れたように溜息を付くと、かすみが照れ笑いながら舌をほんの少しちろりと出した。

 「ごめんなさーい。でもたまにはいいじゃないの、私だってまだ十七歳の子どもなのよーだ」

 かすみはそう言うと、後ろで手のひらを組んでくるっと回った。

 そして楽しそうな笑顔を浮かべながらまた前へと進んでいく。

 俺はそんなかすみを見て驚きながらも、クスッと微笑んだ。

 青い空に、茂る緑が少し覆い被さっている。文明の残骸は、緑の礎であるかのように緑に覆われ、今にも緑に飲み込まれてしまいそうな脆さを感じさせていた。さらりと吹いた風が緑を静かに揺らし、その風に従うように鳥が飛び立った。



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