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ETERNAL BREATH  君のための鎮魂歌  作者: 小野宮 夢遊
第三話「sea‐through communication」
17/26

―――月政府、開発


―――月政府官房会議室

 白い照明を使用しているにもかかわらず、部屋の内装のせいか、はたまた人の黒い心のせいなのか、どこか暗い会議室の中に十人ほどの大人が円を描いて鎮座していた。

 部屋の空気は重苦しくのし掛かり、人々の首を絞めるかのように息苦しく絡みつく。

 本日はそこにほんの少し、緊張の色が漂っていた。それは今し方立ち上がった男から発せられているものであり、その男の額には脂汗が浮かんでいる。

 男は銀縁の眼鏡をクイと押し上げ、咳払いした。

 「えー、長らくお待たせいたしました、この度は」

 「御託はいい。要点だけ述べろ、技術庁長官」

 眉間に深く刻まれた皺を持つ男―――首相が、少し苛立ったように皺をほんの少し動かした。

 それを見た男―――技術庁長官はビクリと少し震える。焦ったように机の上に置かれた資料を捲り、首相の方を見た。

 「は、はい。……コホン、失礼いたしました。この度、新兵器“ラグナロクキャノン”を開発致しましたことを、ここにご報告申し上げます」

 技術庁長官がそう言って指を弾くと、彼らの鎮座する部屋の中心に、突如スクリーンレスディスプレイが現れた。映し出されたそのディスプレイは宙で輪状に回転している。

 「新兵器“ラグナロクキャノン”の開発は、すでに生産段階を終え、後は試運転を残すのみとなっております。兵器の点検を行いましたところ、不具合はなく、理論上は今世紀最強の兵器として、その威力を発揮するでしょう」

 「具体的には、どのような威力を持つのかね」

 首相がそう尋ねると、技術庁長官はもう一度指を鳴らした。すると先ほどのディスプレイの上にまた新たなディスプレイが現れ、宙で輪状に回転する。そこには、多くのグラフや数字が並んでいた。技術庁長官はそれを確認すると、手のひらで示した。

 「こちらのデータの通りです。被弾した宇宙船の艦内に“ラグナロクウイルス”を散布し、艦内の人間を高確率でウイルスに感染させます。ウイルスの効果についてはこちらに示しましたが、皆様もご存じの通りかと」

 刹那、首相がくつくつと笑い始めた。次第にそれは高笑いへと変化し、その奇妙な笑い声が、重苦しい空気の充満する室内に響き渡る。

 それを見た技術庁長官が、驚きディスプレイと首相を交互に見た。

 焦ったように首相に向き直る。

 「いかが致しました?どこか、ご不明な点でも?」

 「いや?」

 首相は笑いながらそう答えると、再びくつくつと笑いだした。

 ようやく笑いを収めると、それでも口元に笑みを残したままその口を開く。

 「いや、これであのデュランダルを攻撃するかと思うとな……。これで本当に倒せるんだろうな?」

 そう尋ねられ、技術庁長官はきちんと胸を張って立ち直した。眼鏡をクイと押し上げる。

 「理論的には」

 「そうか、よし」

 そう言うと、首相は立ち上がった。それを見て、他の人間も一斉に立ち上がる。

 立ち上がると、皆一様に首相の方へ向き直った。それを一瞥して、首相が頷く。

 「新兵器を持って、我々はデュランダルを潰す。月の未来のために。そして我らの未来のために」

 首相はそう言うと、その血管の浮き出る、色の濃くなった拳を上へと突き上げた。それを見て、全員が拳を天井へと伸ばす。そして、首相が叫んだ。

 「我等が月面に栄光あれ!」

 「栄光あれ!」

 男たちの野太い声が、その薄暗い室内に響き渡った。



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