―――少年、不運な饒舌者
―――デュランダルフォートレス艦内
それからの戦況は優位なものだった。エイジが見事に暴走し暴れたおかげで敵は大ダメージを負い、イバラがエイジを守りながら活躍してくれたおかげで敵の戦力はかなり削がれていた。そこにもう一機、新たなPGが登場したことにより敵は徐々に後退を始め我々は戦線を押し、ついには撤退命令が出たらしく敵のPG討伐隊はどこかへ消えていった。それにより、我々デュランダルは輸送船を制圧し、物資の奪取に成功する。今回も我々の勝利という結果になった。ついで弾が尽きて意味も無く暴れるエイジのPGを機能停止させると母船へと奪還し、興奮状態から戻らないエイジは医療班によって鎮痛剤と睡眠導入剤を打たれ大人しく眠りに入ることになった。……あとでしっかりと話し合う必要があるだろう。
戦闘が終わり、デュランダル内に蔓延っていた緊張が少しずつ解かれていった。整備班の輩が損傷したイバラのPGや、やはりこちらも損傷していたエイジのPGを見ながらなにやら頭を抱え話し合い、修理を始めている。しかしその割には顔には安堵し嬉しそうな表情が浮かんでいた。
艦橋では安堵した連中が少し気を抜いた様子でモニタを確認したり、休憩に入ったりしている。俺はそんな状況を見ていて、安堵し少し微笑んだ。
しかしその時、目の前のモニタがザワリと蠢いた。瞬間、そこにいたものの表情が強張る。俺も驚いて、訝しげにその画面を注視した。
ザワリザワリと画面が揺らめいて、灰色の砂嵐の向こうから何かが姿を覗かせ始める。
「……あーあ、誰か、聞こえたりしない?……あー……あー……」
刹那そこから声がノイズを含めながら断片的に聞こえてくる。
クレハがそれを聞いて、別のモニタを見ながら機械を操作し始める。
「正体不明の未確認機体から、広域通信反応!通信に応じます!」
クレハがそう言うと、その時ざわめいてた画面が鮮明に映り始め、ノイズだらけの声がはっきりと聞こえるようになった。
「ねー、もしもしー?誰か聞こえてない?……はぁ、上官の弾が当たって半壊とかないでしょ、普通……。しかも僕だけだし、死んだと思われたのか回収されないで取り残されるとか……ホントありえない。どうするよこれぇ、僕宇宙の藻屑じゃん。何その展開。あー、あー。もしもーし、ねえちょっとぉ、誰かぁー」
そこに映ったのは、半壊したPGの中でぶつぶつと文句を言う中高生ほどの少年の姿だった。誰にも届いていないと思っているらしいのに、饒舌である。
「しかし僕ってすごい損だよね、これ。味方の飛び火で半壊とか……かっこわるすぎるな。……ってちょっと待ってよ、さ、酸素量があとちょっとじゃん!いや、待て待て待て、死ぬ!ちょ、僕、好気性呼吸生物!なにそれあり得ないよ、冗談じゃないよ!ちょっと待て、酸素、留まれ酸素!僕死んじゃうから、君がいないと死んじゃうからぁ!」
「……君がしゃべりすぎるのもあるんじゃないかな?」
それを聞いていたクレハが困ったように微笑みながらそう呟いた。ここにいる全員の気持ちを代弁してくれた気がする。
するとそんなクレハの声が聞こえたらしく、その少年がこちらに向かって安堵の顔を見せた。
「あ、声が、声が聞こえた!良かったー、このまま死ぬかと思ったよ、僕ー」
するとそこに警告音がけたたましく響き始めた。それを聞いて少年がギョッとする。
「え、あ、ちょっと待って酸素!あと10分!?さっきまで30分あったでしょ!え、漏れてる?これ漏れてる!?」
そんな少年の様子を見て、俺は溜息をついた。そして尋ねる。
「お前は誰だ?助けてやるからまず名乗れ」
「えー、まずそっちから名乗るのが礼儀って……」
「こっちはデュランダルだ。俺はデュランダル艦長」
俺が少し苛つきながらそう答えると、少年がばつが悪そうに顔を歪ませた。しかし、酸素量を見て再びギョッとすると、少し考え込んだ後、観念したように大人しくなって口を開いた。
「……僕は君たちデュランダルの討伐に来た、このPGのパイロット、アサギ。海堂アサギだよぉーっと。まさか敵に発見されるとはねっ」
少年―――アサギは肩を竦めてそう自己紹介すると、その後困ったように微笑んで首を傾げた。
「僕を、捕虜にしてくれないかい?」
眉を顰めて笑うその少年には、まだ幼さが残っていた。