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―――月近宙、光の雨



―――月近宙

 「全く、エイジったら私に手間かけさせて……。後でシメてやる」

 イバラがボソリと文句を呟きながら、デュランダルフォレストより撃ち届けられた補充弾を受け取り戦線へと戻っていった。エイジの視界には入らないように背後に回りながら後方支援に入る。エイジ方へぽいと補充弾を投げると、少し驚いたように身体を構えたが、直ぐに補充弾と気づいたらしく受け取ってくれた。一か八かで投げてみたが、敵と勘違いされて狙撃されずに済みイバラは少しほっとする。するとイバラはそこから離脱してエイジの背後に迫る敵の弾を、レーザーソードを抜いて弾き返しながら敵のPGへと猛進していった。弾を弾き、間をスルリと掻い潜りながら敵の懐へと潜り込みソードで切り裂く。電気の閃光がその機体から漏れ出し、そのうち出力が落ちていった。イバラはそれが機能停止になったのを一瞥すると、その機を土台に跳ね上がって、弾を華麗に無駄なく避けながらまた次の機体を襲いにかかる。接近戦を得意とするイバラは、一機ずつ確実に機能を停止させてゆき、エイジの背後を狙いに掛かる輩を排除していった。光の弾の間を縫うようにしなやかに進み、機体の主動力を切り裂き、劈く。刹那機体から閃光がバチリと漏れ出て、そのうち力をなくして動きを止めた。それを一瞥するとまた次の機体へ機体へと、光の弾の飛び交う暗い闇の中を自由自在に飛行しながら、無駄なく確実に機体を停止させてゆく。その動きは今のエイジとは正反対に冷静沈着で無駄のないもので、何処か見ていて惚れ惚れする力強い美しさのあるものだった。

 機能停止に追い込んだ機体を踏んでまた飛び跳ねると、遠くに浮かぶ瑠璃色の惑星を背に飛び越える様に美しく光の弾を避け、次の機体へと斬りかかる。するとその時、イバラはエイジの遙か前方に、複数のPGの背に鎮座する、異様な存在感を放つ銀色の機体を見た。月明かりに照らされてぬらりと輝いている。イバラはそれを眼窩に捉えたとき、何処か妙な違和感を感じた。

 「あれ、どこかで見たことあるような……?」

 一瞬脳裏の奥底に、銀色がぬらりと輝いた気がした。しかし靄が掛かったように白んでいて、はっきりとは見えない。何処か昔、見たことがあるような……。

 しかしその時、銀色に気を取られている間にイバラのPGに光線が当たってしまった。肩部をやられ、そこから電気の光がバチリと音たてた。

 「チッ、しまった……!」

 イバラはそこでハッと気を取り戻すと、俊敏な動きで襲いかかってくる光を跳ね返しながらひとまず自分が止めた停止中の機体の影に身を隠し、敵の攻撃がひとまず止まったところで体勢を立て直すと急加速してそこから離脱、浮上した。また光線を避けながら機体を切り裂き劈いてゆく。しかし、やはり片腕では体勢が取りにくく、徐々に弾がイバラのPGに当たり始めた。急所は外れているものの、段々と速度が落ち、反応が鈍ってゆく。イバラはこの状況に焦りを感じ、冷や汗を額に一筋流した。

 「あたしとしたことが、ここまでやられるなんて……。油断したわ」

 イバラが苦い顔を見せる。しかしそれでもなお、イバラは敵に襲いかかり、機体を劈きに掛かった。

 しかしその瞬間、イバラは側方から強い光が迫ってくるのを感じた。見ると、強い出力の光線がこちらに向かって撃たれたらしく、あたりが光に包まれ始めている。

 「しまった……っ!」

 イバラがその光に気がついた時にはもう時すでに遅く、逃げようと反応する前に光があたりを包み込み始める。私の人生は、ここで終わりを告げるのか。脳が状況を飲み込み、死という言葉が思考を支配していった。不安と恐怖を胸にイバラは固く目を瞑り、光を受け入れる。あたりが強い光に飲み込まれていった。

 ……あぁ、とうとう死んでしまったか。つまらない私の人生は。

 そう思いながら、イバラはゆっくりと薄く目を開けていった。きっとそこには地獄が広がっているのだろう。この宇宙より暗い闇がこれから私を待ち受けて、身体に鋭くその闇が刺さり続けるのだ。

 固く目を瞑ったせいか、強い光を浴びたせいなのか、目を開けても周囲がぼんやりとしか見えてこず、暗い闇が覗いているのだけが見えて急に孤独感に襲われた。

 しかし暫くして目が慣れてくると、そこが地獄ではなく、闇に浮かぶ自分の操縦するPGの中であることが分かった。先ほどまでぼんやりと見えていたのは、いつも自分が見ている黒い宇宙で、何処にも地獄が見当たらない。

 「……あれ、なんで……あたし……」

 状況が飲み込めず、ポカンとしていると、目の前の宇宙に一つの機体が顔を覗かせた。

 「大丈夫だったか?イバラ」

 その機体の首を傾げたのに合わせて、スピーカーから男の声が聞こえてくる。

 「え……?もしかして、スバル……?」

 イバラがそう不思議そうに尋ねると、目の前の機体が頷いた。

 「あぁ。間に合って良かったよ」

 そう男―――スバルと呼ばれた俺が安心したように声を漏らすと、イバラが急に元気を取り戻したように、いつものように横柄で自信に満ちた態度を取った。

 「なにしてんのよ、遅かったじゃない。何が大丈夫だなのよ、死にかけたわ」

 イバラが俺に毒づき、不機嫌そうにむっとする。俺はその態度の中に安心が隠れていることを見つけてふっと微笑んだ。

 「悪いな、遅くなって。でも今度こそ安心しろ。俺が来たからには、絶対に大丈夫だ」

 「ふん、どうだか。信頼損ねたわ。……で、そのPGは何なの。やけに頑丈そうな機体ね。何処から湧いてきたのよ」

 イバラが鼻を鳴らすと、訝しそうにそう聞いてきた。俺はそんなイバラの言葉に苦笑する。その後質問に答えるため口を開いた。

 「これは、デュランダル三番目にして最後のギア―――ロートケプションだ」

 「……スバル、そんなの隠し持ってたの。知らなかったわ」

 俺がそう言うと、イバラが少し驚いたように表情を動かした。俺はそれを見てイバラに薄く微笑みかける。

「これは俺たちデュランダルの隠し兵器だからな。もう少し隠しておきたかったが……」

 「エイジの馬鹿がそのスバルの計画を少し狂わせた訳ね、ふんっ」

 「……いや、これは俺のミスだ。エイジのやつのことは、許してやってくれ」

 イバラがエイジを馬鹿にしたような態度で鼻を鳴らした。それを見て、俺は少し悲しそうに苦笑した。

 「さて、この戦いを終わらせるぞ。イバラは後方支援に回れ。得意なのは接近戦だろうが、その態じゃ厳しいからな。まだ弾は残ってるだろ?」

 俺がそう尋ねてイバラに背を向けると、イバラが少し悲しそうな表情を見せながら肩を竦めた。

 「……そうね。深追いは止めて大人しく後方支援に回るわ。大丈夫よ、了解」

 「じゃあ、背後は任せたぞ。後は任せろ。一気に方を付ける」

 「了解。任せといて」

 俺はイバラの返事を聞くと、急加速して戦場へと繰り出していった。




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