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―――エイジ、過去の記憶



―――エイジ機体内、エイジの心の中

 俺の中に鮮明に残っているのは、赤と、銀の、その二色だった。

 赤は、壊れた家の中に広がる家族の血の色で、銀は、その赤の上に影をつくり空に浮かんだPGの色。

 その時は、突然起きたことに状況が把握できなくて、ただ崩壊した家の中からひっそりと、身を隠しながらそれを眺めていた。

 あの時、俺は、いや僕は、物陰から飛び出してしまえば良かったんだろうか。最後に母さんから告げられた、隠れなさいなんて言葉を無視して、一緒に殺されてしまえば良かったんじゃないだろうか。そしたら、どんなに楽だっただろう。それでもそれが出来なかったのは、母さんの言い付けを守ろうとしたからじゃなく、単純に怖かっただけだったんだ。

 しばらくして銀色が消えても、僕は動けないでいた。目の前には、大好きな母さんと仲のいい妹が、赤にまみれて落ちていた。これから二人が動かないということは信じられなくて、人が死ぬっていうことがどういうことなのか理解できなくて、ただ帰ってきた父さんに見つけてもらうまでずっとただ呆然とそれを見ていた。

 なんで、母さんと妹は殺されたの。

 黒い服を着た人たちが、二人の骨が砕かれ、壺に入れられてゆく様を見届けているとき、僕は父さんに感情のない声でそう聞いた。父さんは口ごもった。何か知っている風だった。

 ねえ、どうしてなの。

 僕がまたそう尋ねると、父さんがぽつりと呟いた。

 父さんが弱かったからだ。ごめんな。

 僕は、そう言ってポツリと僕に雫を落とした父さんを見て、それ以上何も言えなかった。

 それから、父さんと二人きりの生活が始まった。初めは暫く暗い気持ちが抜けずに、毎日ろくに物も食べず、ぼんやりとした様子で、魂のない人形のようにグダリとする日々が続いた。そのうち、そうやって毎日を過ごす中でふと、あぁ、二人はもう死んでしまっていないんだと気づいて、涙が止まらなくなった。

 暫く泣き続ける日々が終わると、少し前向きになった。仕事の忙しい父さんが、それでもよく僕の面倒を見てくれたからかも知れない。父の仕事にも興味を持ち始めて、いろいろ教わったり、話を聞くようになった。父さんの扱う、PGや宇宙艦などにも興味を持ち始めた。父さんは、忙しいにもかかわらずよく僕の面倒を見てくれて、たまには一緒に遊んでくれたり、出掛けてくれたりもした。父さんと過ごす生活も、悲しいばかりじゃなくて、楽しいものだった。

 しかし、それでもずっと心にとっかかりを感じていた。

 何故、二人は殺されたのか。何故、殺されなければいけなかったのか。

 俺の知る限り、二人は何も悪くないはずだ。なのに殺されたのは、どう考えてもおかしい。二人はこれから、ずっと生きられたはずなのに。

 それを考えると、段々と悲しみよりも怒りや憎しみがこみ上げてきた。

 死ぬべきなのは、どう考えたってヤツのほうだ。

 今ものうのうと生きてるかもしれないと思うと、腹立たしかった。次第に、心の奥底から殺意が芽生え始めた。

 いつからか、俺は復讐を志すようになった。俺の手で、ヤツを殺す。そう密かに心の奥で闘志を燃やして毎日を生きてきた。

 そしてある日、あの記憶の断片に落ちていたあの銀色の正体を突き止めた。都合のいいことに、ヤツは生産数一台の固有機、しかも操縦士は固定だと分かった。

 そいつを俺が殺してやる。いつかきっと、復讐してやる。

 そう心の奥底で誓い、闘志を燃やした。誰にも言わず、心の奥の深いところで色の濃い炎を静かに燃やしながら、虎視眈々と、ヤツの姿をこの目に捉えこの手で殺す為に。淡々と、坦々と、感情を心の奥底に押し込めながらその時を待ち続けた―――。




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