―――エイジ、憎悪
―――エイジ機体内
「やっぱりヤツは……」
エイジの目に映っていたのは、一機のPGだった。それは、月明かりを受けながら銀色に輝く、厳めしい機体。機体の腕の部分にはASSPの文字が刻印されていた。
そのPGの銀色が、こちらに反射されてぬらりと輝く。
その光に照らされたエイジの目が、驚きと恐怖で暗く輝いた。
「ヤツは……俺の母さんと妹を殺したギア、だ」
エイジがそうポツリと震える声で呟いた。表情は先ほどから動きを見せることなく膠着している。
刹那エイジの脳裏には過去の記憶が走馬燈のように蘇った。それがエイジの心を抉っては絡め取り、支配していく。心臓がそれに合わせてドクドクと激しく脈打つ。手足が震え、落ち着かなくなる。脳裏に銀と赤の二色が浮かび、その二つが断末魔を上げるように掻き回され、渦巻き、無造作に激しく塗りたくられていく。それらはエイジの中を支配して、グチャグチャとエイジの心を掻き乱しては壊していく。エイジは恐怖と不安に駆られ、発狂しそうになる。エイジの中に収まりきらなくなったそれらが、意味もない言葉の呂律として口から零れ始めた。エイジの心が崩壊してゆく。
その時脳裏の奥底で誰かがエイジに叫んだ。
あれは宇宙に一台しかない固有機で、操縦方法も難しく操縦士は不動……!
それはいつかの復讐に燃える自分の声で、憎しみと悲しみの塊そのものだった。
その叫び声を聴いたエイジの表情がピタリと止まった。するとエイジに追い打ちをかけるように、憎しみの声が叫び続ける。
そいつを俺が殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる―――。
それはエイジの壊れた心を埋め合わせる様に深く溜まっていき、エイジの感情を別のものへと変化させていった。エイジの手が硬く握られ、力が込められすぎた拳が震え上がる。エイジの目が、銀色のものを鋭く捉えて恐ろしく輝いた。
その時にはもう、先ほどまでの恐怖に駆られたエイジの姿は存在しなかった。表情には先ほどまでの恐怖や驚きは全く浮かんでおらず、ただひたすらと、怒りと憎しみのみが顔面を支配している。鋭く尖った目には憤怒と憎悪が宿り、ギラリと恐ろしく輝いた。
エイジは操縦桿を握りつぶす勢いで掴むと、ぼつりと低い怒りの籠もった声で呟いた。
「……殺す」