✿01
はっ、と目が覚める、寝汗が酷く吐き気もする。気分が心底悪いというのがわかる。何故、自分はベッドに寝かせられているのだろうか。
金髪の女性を追いかけて廊下に出た筈なんだが……?
「目が……覚めましたか?」
か細い、鈴を転がしたような声がして振り返る。そこには先ほどの金髪の女性が立っていた。
こちらをじっと、碧眼の瞳で見つめてくる、それをじっと見つめ返すと彼女は少し口を開く。しかし何も言わずにこちらに手を伸ばす
「貴方に、お願いがあるのです」
「……はぁ」
ぽかん、と口を開けながらも頷けば彼女は喋りだした。
「私は、今までこの世界をずっと見てきていました。何百年も、何千年も前からずっと……しかし、私は気づいたのです、この世界は醜い争いが多すぎると。ですから貴方にこの争いを止め、世界を平和にしていただきたいのです。貴方のほかに、5人の方たちに同じお願いをするつもりです。もちろん、私が選んだ世界を平和にしてくれるであろう人たちが」
「…………まさか俺に、屋敷から出て世界を平和にしろ、なんて言わないよな?」
「いいえ、そのまさかです」
……、俺と彼女のあいだに沈黙が降りる、そして俺はキッパリと言った。
「めんどくさいんで、ほかの人にお願いしてください」
今まで無表情だった彼女の片眉がピクリと動く、そして赤眼の目でこちらを睨んでくる。
彼女は先ほどまで碧眼だったはずだ、なのに今は怒りを表すかのように真っ赤になっている。彼女は恨めしげに俺を睨みつける。
「なぜ……なぜ、」
「いや、だから言ってるだろ、めんどくさいって」
次の瞬間、俺はベッドから放り出されて床の上に倒れていた。何事かと今までいた場所を見てみると俺がいた目の前が黒こげになっていた。爆発でも起こしたのだろうか。
普通の人だったら、怖がるか、攻撃するか、そこらへんだと思うがそんなめんどくさいことしたくない、ふぁぁ、と大きく欠伸をして伸びをする。
今度は彼女の髪の毛までもが浮かび上がる。
「あのさぁ……アンタがどこから入ってきたのかは知らないけどさ、俺そういうの大嫌いなんだよね」
ぎりっ、と歯ぎしりをする音が聞こえる。
もう耐えられないとでも言いたげに、彼女は手を振り上げる。世界を救ってほしいというほどの人物がそれほどまでに醜い顔をしてもいいのかと疑うくらい。
『火の精霊、火蜥蜴よ、我に汝の力を示し、契約と命の元、炎のうずを作り出せ!』
こりゃあ、また凄い火柱だ、と感嘆しながら彼女を見やる。これほどまでの火柱を作れるということはよほどの魔力を持っているのだろう。
もしかしたら、精霊王とも契約してるかもしれない、と思いつつ、首から下げてある笛を吹く、彼女と精霊が作り出した火柱が乱れるほど、強く、強く
「……ははっ、なんのつもり?世界を救ってくれない貴方なんか、もういらないわ」
「おいおい、自分勝手すぎるだろ……つかお前誰だよ」
俺の疑問はすべて無視して今度はより強力な魔力を感じる、何をするつもりだろうか、この屋敷ごと焼き払うつもりなのだろうか、もったいない
「そろそろ、か」
「何を言ってるかなんて知らないけれど、貴方にはここで死んでもらうわ」
「なんて身勝手な……」
『炎の精霊王マーズよ、我と汝の契約により、焼き払え!!』
ものすごい熱エネルギーと魔力のせいで頬がちりちりと痛む、早く来てくれよな、と思いながら耐えていれば、目の前の景色がグニャグニャと歪んだ
きた、と思いこれから現われるであろう彼女の姿を思い浮かべ、ため息をつきたくなる。今日はどんな言葉で罵倒されるのだろうか。
「……随分と面倒なことになってるわねぇ、あとで絞める」
「どこを」
俺の問いは無視して、いましがたあらわれた彼女の姿を見て、迷惑女は目を見開き狼狽える。
「な、んで【人魚】が、ここに」
「そりゃあ、あんたらを止めるためと……この馬鹿を絞めるためよ」
「いや、だからどこを」
それも無視して、彼女は大きな水球を作り出して、それを分裂させる。
そして、マーズと迷惑女に向かって――――
「手加減って、知ってるか」
「ええ、知ってるわ」
彼女の放った水球は見事に壁をぶち破っていた。