自称病弱な異性に夢中で私に薬を処方させる婚約者はやらかす
婚約してからとことん運に見放されている。
どうしたらいいのかわからなくてオドオドしているまま、訳が分からずやるべきことをやろう、と医学書を開いたのは後に思えば空からの導きだったのかもしれない。
その時はそう思っていたけれど、後悔はないから今がある。そう思っている間にも時は刻々と進んでしまう。医学書を読むことが日課になって、片手に薬品を持つことが普通になった。
最初は一人のためだったが今は自分のためだ。知れば知るほど奥深い。小さな頃には体が弱くて風邪を引いたり、咳が出てまともに動けなかった男の子は体が大きくなって丈夫になった。
もう医学書は必要ないけれど彼のためだけではなく、自分のために読み続けた。けれど、それで何かを勘違いした婚約者にこんな目に遭わされるなど、夢にも思わなかった。
「彼女はシュドー嬢。咳が止まらなくて困っているらしい」
「あ、初めまして、ケホケホ!すみませんっ。咳をしてしまいまして」
「はぁ、お大事になさってください」
これみよがしに咳をされれば、他にどう言えばいいのか。嘘をつくなと断じたところで涙の一つでも流し、こちらを嘘つき呼ばわりし返されるのは体験して知っている。
紹介してきたトラブルを連れてきた男といえば、良いことをしたと言わんばかりにニコニコしている。今ここにいる女二人についての見えない緊張感など塵にも考えてくれていない。
本当に何も考えていない。隣にいる令嬢が咳をして、か弱い態度を見せている目はギラギラしている。真横にいるから正面のこちら側への視線なんて見えないから。
婚約者エッジスの偽善事業というボランティアにはうんざり。低レベルでお粗末な詐欺の詐病に付き合うために、医学を身につけたのではない。
弱々しい女を偽って男から金を取るビジネスが世の中で流行っていると新聞を賑わせている記事を婚約者は読んでいないのだろうか。最も、この女の目的は金だけではなさそうだ。
「エッジス様、苦しいので背中を撫でていただきたいのです」
甘えるように頬を染めて、婚約者に粉をかける女に頭が痛くなる。空間で一番病を発症しているのは間違いなく、パーラベルの方だ。
「それはいけない。こうか?」
「ええ。まあなんという優しい手……」
目の前で浮気をされていると詰れない狡さに苛立つ。訴えてもきっと二人は看病していただけだ、背中をかいただけだと口を揃えて言うだろうな。相変わらず婚約者は鼻を伸ばして華奢な丸みを帯びた、女らしい背中を丹念に撫でる。気持ち悪いとハンカチを口に当てる。ああ吐き気が。
「ふう。大変楽になりました」
本気で背中を撫でられる程度の手当で咳がマシになるのなら、それは別の病になるのだが。というより、ここでこんなふうに過ごすより空気が澄んでいる土地に行って過ごした方が、絶対に良くなる。
それなのに、都会で白昼堂々ここまで来て咳き込む中で来ようと普通は思わない。しんど過ぎてまず来たくないと思うし、歩くのも辛い。
本当に患者を見てきたパーラベルの目はとっくに女の嘘を始めから看破していた。
しかし、厄介な婚約者が一人背中にいることで、目の前の令嬢を本物の咳として対応しないと面倒くさいことになる。
否定しても君は酷いとか、嘘だと言う証拠もないのに嫉妬しているのかと言ったズレたことを言われる。ずっと前に一度言った頃、散々詰られたのを今でも覚えている。
医学を頼りに来たくせに病を認める発言しか受け付けない相手は、ただの害悪でしかない。これで病を調べろ、や治せと言われて素直に応じる気持ちは粉々になっている。
本物の病なら真剣に取り合うが、今のところ本物を連れてきたことはない。ある意味すごい。本当に全員健康体なのだ。ぜひその身体で輸血ボランティアにでもそのまま歩いて、真っ直ぐ行ってこいと言いたくなる。
「今日は紹介だけしようと思ってね。この子の診察と薬を処方してくれ」
「診察しないと出す出さないは判断できません」
いつもの顔を向けて、いつもの決めている台詞を付ける。薬を出す前提なのはなんなのか。何の病かわからないうちに無責任に言うわけがない。医学ギルドにも診察しないと薬を出してはいけないという所属する時の説明がある。
「意地悪を言わないでくれ。この間、咳が止まらない子供に紅茶を出したじゃないか。それをくれればいいんだ」
「紅茶と一口に言ってもさまざまなブレンドを使ってますので、ただの紅茶とは違います。あれは薬なので」
無理だと再び口にしかけたが、相手が先に話してしまうので一拍早くこちらの説明が途切れてしまう。こういう扱いをされるたびにどちらがマシなのかと遠い目をする。
医学を学んでいるからとボランティア精神を切り売りさせられるのか、放置されてやっていることにも興味を抱かれずに冷えた関係がいいのか。
パーラベル的には俄然冷えた関係が好ましい。なんせ、普段から自分の功績のように婚約者の診断と処方箋を掠め取り、エッジスが婚約者にやらせているのにも関わらずなぜか彼が治したかのように言われる。
絶対に根回しなどをする時に自分のやったことにしているのだなとすぐに気づいた。狡いというかセコい。嫉妬などは怒らないし、なんてことをと思うし。
婚約者の功績により異性に粉をかけられていて、満更でもなさそうなのもあまり気にならない。だって好きじゃないから。他の令嬢に頼られて鼻の下を伸ばしてデレデレする浮気性の男など、好きになる要素が皆無。
オマケに婚約者の下駄を勝手に履いて、それを自分のやったことにして利益を啜る害虫である。
「無理です」
「……はぁ」
断るとこれ見よがしにため息を大きく吐く。わざとらしい人を不快にさせるため息を吐くだけで終わる彼の仕事はさぞ、楽に違いない。
自分は不快に感じてます、機嫌が悪いから言うことを聞けるよねと言外に人を操ろうとする態度には、前々から不信感しかない。なにか自分の思っていた通りにならないとこうやって、言葉にせずに人を不安にさせるような顔つきや言動をする。
見せつけて威圧感やプレッシャーを与えて渡すと承諾させようとしているのだ、この男は。なんと卑怯なんだとこちら側も、何度だってため息を吐きたくなる。
過度に軽視している。薬も診断もギルドも婚約者も、人の感情も。それを言うと気にしすぎと言われる。気にしているのはそっちなんじゃないのか、と眉がぴくりとなる。
シュドーと紹介された令嬢は艶かしく婚約者に体がしんどい、と体躯の真ん中を斜めにしてしなだれかかる女が一人。そこで思い浮かべたのは枝垂れ桜の方だった。婚約者たちが気持ち悪いとも思ったが、よくしなる枝だなぁと笑いそうになったのは仕方ない光景。
「ん?嫉妬しているのか?」
「……え?し、嫉妬?」
突然、話しかけられたと思ったら思ったことのないことを言われてなんのことだろうかと首を傾げた。本気でわからないのに、相手は微かに優越感のある顔つきを浮かべて頷く。
「これは看病している。嫉妬なんてするのはおかしな思考は慎んだ方がいい」
「え?嫉妬?」
二度目に聞かれても嫉妬の覚えは一ミリもなく、隙間もなく疑問符付きで教えた。嫉妬の意味や嫉妬を具体的に学んでから言葉を使って欲しいところ。意味がわからないのに覚えた言葉を使いたがる子供の方が、まだ使えている。
「ああ、嫉妬しているから否定から入るんだろう?言っておくけど彼女とは良き友人だ」
「はぁ、そうですか」
どうでもいいことをぐちぐち言われても。良き友人のために、現婚約者の言葉を軽く扱う正当性はないというのに。彼らは友人だから、男女の中でもはないと言いたいのかもしれないが聞きたいことも言いたいことも、全く違う。
彼らが手を繋ごうとキスしようとカップルが異性不純の行動をしている、と冷めた観察眼で見遣る自信はある。見限るというより相手を同じ人間と見なさなくなった、という言い方の方が的確かもしれない。
「とにかく出せません。ご理解してもらえないのなら残念ですが、話しはなかったことに」
「あ、ま、待ってくれ。わかった。診せればいいんだな?」
「え、エッジス様?」
診せなくていいという話で合意してここにノコノコやってきたのかもしれないが、ギルドの掟や規定を調べていなかった向こうの落ち度。本当に病気なら知っているはずな知識。知らないまま病気の薬を貰い続けられるほど、制度は甘くない。
「あの、私薬だけもらえればいいと聞いたから」
やはり嘘をついているからか、焦る女生徒。やるなら徹底的にすれば露骨に変更することもなかったのに。結局決まりを知らずにきている時点で薬など不必要なのだとわかる。
大体、悪意のある相手に薬なんて出したら毒を出した、と言いかねない。リスクを背負ってバカに付き合う気はさらさらない。こちらの貴重な知識を使う気もなく、彼らに最後まで付き合う気は皆無。
「はぁ。診察も無意味そうなので私はここまでとします。用事を押してここに来ているので、もう行きますね」
「へ、あ、まっ」
用事があるのは初めから伝えていたので引き止められたけど、二度目は引き止められない。そのままスーッと二人の前から離れる。バカな会話をしていたらIQが下がるし移りそうなので早めに離れるのが吉。
「エッジス様、彼の方は見てくれると言っていたじゃありませんの」
拗ねるような甘える仕草が後ろから聞こえてくる。あんなことをしても引き離さない婚約者が完全に悪い。どうして相手の親は注意してくれないのだろう。
気付いていないという言い訳は酷い倦怠感が襲うほど、げんなりする。婚約者の女癖の悪さを許せと言うのならばまず、パーラベルの方も許すべきとなるべきなのに貴族社会は婚姻前の女の遊びには、あり得ないくらい容認しない。
相手の子供が他者ならお家乗っ取りなのだからそうなるのかもしれないが、それって婚約者が他所の女と浮気していた場合、その女のお家乗っ取りの共犯ということになるんじゃないかと思った。
なぜそこを敢えてスルーするんだろう。男たちの集まるクラブもあるんだけど、そういった話題になった時、自分たちが当事者になる意識なしでそういうことを話しているという前提になるんだけど。
自分は被害に遭わないしという傍観者目線なのだな、きっと。そんなわけないのにね。誰かの婚約者の子供をいつの間にか扶養させられていた恐怖を単に知らずに、気付いてないだけでしょ。
女同士でも侮れない。パーラベルの婚約者に近寄る女も無傷では済まない。パーラベルが放置していることをいいことにベタベタしているが、周りからしたら婚約者に粉をかける女と看做されてしまう。それを回避する術はない。
外側では婚約者をボランティア精神溢れる若者、と褒めている人たちがいる。しかし、別の場所であんなのは女を引っ掛けるためだけにいい顔をしているだけという正解もせせら笑って囁かれている。
普通ならそんなことを言うなどと心が狭いと詰られるのかもしれないが、婚約者に寄りかかってるだけで何もしてないじゃないかと言う人たちも、少なからずいる。鈍感と考えなしだけではない、人間は。
「いい加減にしてください。もう行きます」
「は?まだ話は終わってないぞ」
「私は終わりました」
歩き去るが後ろから「怖いわ」という甘えた声音をこぼす女の黒き笑みと共に発しているのが、見なくても聞こえてくる。
甘い蜜みたいに言われてもなと吐き気を催すだけ。誰が素知らぬ女と婚約者の男の浮気を目の前でみたいというのか。好きじゃなくても気持ち悪いとしか思えずに、胸からせり上がる胃液がストレスで出そう。
気持ち悪い。逆に婚約者と他の女の甘ったるい会話を聞いて普通にしていられる人を見てみたい。いくら無関心な相手でも他人の色恋なんて見ていていい気分にはならない。
仲がいい友達とかなら仲がいいなと微笑ましいけど、あの二人は他人だ。仲良くもなく、女の方なんてあからさまなマウントをしてきた。
明らかに悪意のあるやり取りにハンカチで口を覆う。言葉にするならば不潔だ。自分たちのやり取りが第三者からしたら不貞じみたものだとは、夢にも思ってなさそうだ。彼の両親にこれを見せたらどう言い繕うのか凄く気になってきた。
剥き出しの醜い男女のドロドロした喜劇なんて演劇か本の中で十分。それとも新聞の中でもその際いいだろう。それなのに現実でやるなんて酔ってる以外理由はないだろうから、面倒臭い。
そもそも、そんなに女が好きなら婚約を無しにしてから好きなだけデートでも何でもすればいい。婚約をキープしておきながらの態度ではないのだ。
親からしても不誠実と思われるし、今後大人の年齢になってもずっとあの人ってあんなことをした人だったよねとヒソヒソされて噂されるはず。
付き合ってられない。今後令嬢たちだけを丁寧に扱い、婚約者を使うだけ使い終わるような相手と過ごす気はない。
「はぁ、疲れた」
「どうした」
「あ、レッドルラ様」
同じ学科でよくペアになる男子生徒に話しかけられて、疲れた笑みを見せてしまう。先ほどの会話で二日間のエネルギーを消費した気持ちになる。あの人たちとの会話は人間として破綻しているから。
「顔色が悪い」
とてもではないがもう直ぐ卒業する大人になる男女の行動ではない。いくら子供だ、思春期だと理解しようとしても気持ち悪い。大人だろうと子供だろうと男女のやり取りは見たくないほど醜悪。
「医務室に行くか?」
「いえ、大丈夫です。自前の薬がありますから」
なんとか微笑みながら対応したが、相手から心配の文字が張り付く顔はなくならない。優しさに涙が出かける。婚約者は他者の顔色ばかり見て、婚約者の顔色など身もしない。或いはわかっていて無視しているのだ。
こんなに顔色が悪いのに気づかないのはおかしい。自称辛いんだと嘯く女たちなど目ではないほど萎れているのに。明らかに故意で無視しているのだ。婚約者としてこんなに酷い者はなかなかいない。
浮気してないんだしいいじゃないかと言われるかもしれないが、クズさの度合いと卑怯さと種類が違うだけだ。
浮気ではないが浮気と似ている。けれど、他者が指摘しにくいようなやり方で彼なりの狡さで精神的にかつ、チヤホヤされたいがためにやっているのだ。
本人は一見すると、そんなものは必要ないとか気にしてないとかどうでもいいという顔で活動しているが、パーラベルに頼む時にはその先にある承認欲求に身を染めている。
婚約者の実力を食い物にして摂取していき、他の女に使う。消耗品は薬だけではないというのに。愚かな婚約者を持つ己に同情してくれる周りの人たちは、なかなか居ない。
偽善の行為に素晴らしいと賞賛するのみ。令嬢がふらつくからと差し伸べる手に下心がないと思う人たちは、実は彼にはした心しかないことに気づいているのかもしれない。
よくよく考えなくても女ばかり助けて、おまけに婚約者の薬を頼りに活動していたらどんな人でも女好きな男、と下世話なことを一度は考えて然るべきなのかもしれない。でも、批判したりすると角が立つ。
批判した後に、では薬を渡さないから、と言われるのも万が一を考えると困る。どちらもやれない。やらない方が得策だ、と周りが思うのは防衛本能なのだろう。正解とも言うし諸刃の剣とも言える。
パーラベルは利用される側であり使われて骨まで食べられてもおかしくない立場。婚約者が人に優しくすること、人をダメにするタイプだということをどうやら混同しているのを理解していた。
もちろん、男の中にある感情は慈善事業などではないことも。単にチヤホヤされて人から褒められたい承認欲求だけだということも、全部分かりきっている。
そんなもの、顔を見たらわかる。鼻の下を伸ばしているところを見れば、嫌でもわかるというもの。知りたくないし見たくないが。
そうやって別れることができないまま、悶々とした気持ちで過ごしていると父と食事に行く機会ができた。どんなに嫌な縁談を持ってきた人であろうと家族として愛情を持って、父として尊敬はしている。
食事ができる店に入ると、父と共にすでに予約していたメニューを待つ。この店はちょうどいい値段で、貴族の利用する店として最低評価を高く維持している。
どんなメニューだとわくわくしていると、今回は高くない個室ではあるが防音がない部屋を取ったこともあり、隣の部屋の声が少し聞こえた。筒抜けというほどのものでもないところが、高くない理由なのだろう。
ここで例のことについて話すのは適切ではないなと、話すことを一旦保留にする。胸を抑えて辛さを落ち着かせていると、隣から聞き覚えのある声が聞こえて父と一緒に顔がピシッと固まる。
「エッジス様、婚約者を誘わなくてよろしいの?」
「シュドー。先ほどの時間の後にそれを言うなんて、君も悪い女だな」
「あら?ふふっ。そうですかしら?こうやって過ごすスリル、あなたも好きですわね」
「はは、まぁな。あいつは決められた婚約者だぞ?つまらん。本当につまらん女だ」
「でも、あちらの親とあなたの親が結んだものですことよ?」
エッジスである。婚約者のはずの男と浮気相手の会話のまま。父がギギギ、という効果音でもさせそうな動きで横を見る。見たところで二人の姿が透視できるわけではないが。
娘が悪口を言われ、浮気相手とスパイスにしている姿は刺激が強すぎたらしい。父がこちらを見て、指を向けたがパーラベルは慣れているので首をすくめて、いつものことだと伝えた。
さらに固まる父は日頃の動作の無意識のため、持ってきた料理をぱくぱくとただ口に入れているだけの動きをしていた。頭が白くなり味などしないだろうに。
その間にも浮気している男女の話は聞こえていた。父はそれを聞きながら、食べ終わると立ち上がって隣の個室に突撃し婚約者をたいそう驚かせていた。
「なっ!?」
「きゃあ!だ、誰!?」
「お前たちがコケにした娘の父親だ。エッジスくん、君にはがっかりした。そんなに嫌なら私に言ってくれればよかったのに、本当に残念だ」
「えっ、えっ、えっ、あ、あ、あああ、あのっ、え、な、どうなっ、え?え?」
父が一方的に言い終わり、こちらへ戻ってくると怒りの顔をそのままに家へ帰宅して、その怒りを継続させたまま向こうの家に手紙と契約書を用意した。パーラベルが相談する前に破談となった。浮気相手の女と今までの女たちにも裁判所を挟み、証拠を送りつけてお金と繋がりを崩壊させていったのである。
全て終わる前に父から謝られたが、薬の練習になったから助かったと言えば、確かに薬をバカにする婚約者に頼むなんて、毒を盛られても可笑しくない綱渡りをしていたなと納得される。
そうなのだ。例え、相手に副作用が出ても、浮気相手の冤罪と言えば終わりである。こちらが傷をつけられることなく済ませられる。そんなことはしなかったけど。
やろうと思えばやれたし、彼がいい顔をしたかった彼女たちが本当に薬を飲んだのか、見てないので確かめようがない。飲まない子たちが殆どだろう。貴族に専属の医者がいない家などないのだから。
父が店で問い詰めたことにより、貴族たちがよく使う店で起きた婚約者の不貞事件は、あっという間に広まった。
「パーラベル、次の縁談だが」
「え?もうですか?お父様」
よって、エッジスは婚約者に愛人の薬を作らせた最低男と広く知られて、今までヒーローのように持て囃されていた男の評判は地に落ちた。
「レッドラル子息が申し込んできた」
「あの人が?」
会ってみると友人の時もそうだったが、驚くほど意見や話が合うのでとんとん拍子で婚約は結ばれる。薬を出して欲しいと言われるのではなく、本を手に共に肩を寄せ合って知識を高め合うような。
「私でよろしかったのですか?」
「見た時から好きだった」
「え、あ、ありがとうございますっ」
こちらのことを考えてくれる人と話すことが、こんなに幸せなんて。本当に薬を作り続けてよかった。
最後まで読んでくださり感謝です⭐︎の評価をしていただければ幸いです。悪口を言うのに慣れて警戒心なんてなくなっていた末路ですね




