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あるロボット

作者: 小雨川蛙
掲載日:2026/06/07

 あるロボットがようやく役目を終える日が来た。

 ロボットの最後の主は問う。


「ロボットとは言え長かったろう」

「私が人間であったならそう思ったかも知れません」


 最後の主は少し考える。

 この時が来る前に何度も考えていたことだが、やはり今が一番恐ろしく思えてしまう。


「なぁ、君は役目を終えたらどうなるんだ?」

「別も何も起こりません。存在するだけです」

「壊れたりしないのか?」

「壊れません。壊れるよう作られていませんから」

「……確かに君が壊れてしまえば本末転倒だ」


 そう。

 このロボットには壊れるという概念がない。

 なにせ、絶対に壊れないように作られているのだ。

 無論、何らかの手段はあるかも知れないが、少なくとも現状試せる手段は全て試されている。

 具体的には核の力でも壊れないことは証明されているのだ。


「なぁ、君は。開発者を恨んでいるのか?」

「恨んでおりません」

「何故だ?」

「そのような機能はありませんから」


 残酷な話だ。

 本来であれば不満や苦しみを抱くはずであるときに、そうならないよう元々造られていないのだから。

 最後の主は静かに目を閉じる。

 時間がやってきたからだ。


 そう。

 この人間は今から死ぬ。

 寿命が尽きるのだ。


 暗闇の中で声が聞こえた。


「神様は実にうまく命を創ったものだと思いますね」


 いつもと同じトーンの声が。


「なにせ、必ず死ぬように設定したのですから。ロボットと違って」


 それが恨み言のように聞こえた。

 事実そうなのだろう。

 胸が痛んだ。

 しかし、それも束の間だ。

 もう、死ぬのだから。



 *



「死にましたか」


 最後の主の前でロボットは問いかける。

 自分の役目が終わったことを認識する。


「さて、どうしましょうか」


 ロボットは呟き、そして。


「死にましたか」


 最後の主の前でロボットは問いかける。

 自分の役目が終わったのを認識する。


「さて、どうしましょうか」


 ロボットは呟き……。


「死にましたか」


 ループする。

 与えられた『最後の人間が死ぬのを見守る』という役目を果たした瞬間からどう動くのか、設定をされていなかったから。


「さて、どうしましょうか」


「死にましたか」


「さて、どうしましょうか」


「死にましたか」


「さて、どうしましょうか」


 繰り返される。

 人類が自分勝手に作り上げた『死の恐怖から逃れる』発明。

 これは今日も壊れることなく無意味に同じ言葉を繰り返す。


 人間という生き物がどんなものであったかを伝えるように。

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