あるロボット
あるロボットがようやく役目を終える日が来た。
ロボットの最後の主は問う。
「ロボットとは言え長かったろう」
「私が人間であったならそう思ったかも知れません」
最後の主は少し考える。
この時が来る前に何度も考えていたことだが、やはり今が一番恐ろしく思えてしまう。
「なぁ、君は役目を終えたらどうなるんだ?」
「別も何も起こりません。存在するだけです」
「壊れたりしないのか?」
「壊れません。壊れるよう作られていませんから」
「……確かに君が壊れてしまえば本末転倒だ」
そう。
このロボットには壊れるという概念がない。
なにせ、絶対に壊れないように作られているのだ。
無論、何らかの手段はあるかも知れないが、少なくとも現状試せる手段は全て試されている。
具体的には核の力でも壊れないことは証明されているのだ。
「なぁ、君は。開発者を恨んでいるのか?」
「恨んでおりません」
「何故だ?」
「そのような機能はありませんから」
残酷な話だ。
本来であれば不満や苦しみを抱くはずであるときに、そうならないよう元々造られていないのだから。
最後の主は静かに目を閉じる。
時間がやってきたからだ。
そう。
この人間は今から死ぬ。
寿命が尽きるのだ。
暗闇の中で声が聞こえた。
「神様は実にうまく命を創ったものだと思いますね」
いつもと同じトーンの声が。
「なにせ、必ず死ぬように設定したのですから。ロボットと違って」
それが恨み言のように聞こえた。
事実そうなのだろう。
胸が痛んだ。
しかし、それも束の間だ。
もう、死ぬのだから。
*
「死にましたか」
最後の主の前でロボットは問いかける。
自分の役目が終わったことを認識する。
「さて、どうしましょうか」
ロボットは呟き、そして。
「死にましたか」
最後の主の前でロボットは問いかける。
自分の役目が終わったのを認識する。
「さて、どうしましょうか」
ロボットは呟き……。
「死にましたか」
ループする。
与えられた『最後の人間が死ぬのを見守る』という役目を果たした瞬間からどう動くのか、設定をされていなかったから。
「さて、どうしましょうか」
「死にましたか」
「さて、どうしましょうか」
「死にましたか」
「さて、どうしましょうか」
繰り返される。
人類が自分勝手に作り上げた『死の恐怖から逃れる』発明。
これは今日も壊れることなく無意味に同じ言葉を繰り返す。
人間という生き物がどんなものであったかを伝えるように。




