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八章 氷の正義

翌朝、サキミヤに案内してもらい蒼琳院(ソウリンイン)に入る。サキミヤよれば軍関係者の了承があれば蒼琳院の内部もある程度見て回れる そうなので報告をするついでに許可を貰いに彼女の報告について行く事になった。

「ようこそ。…私は貴方達を招いたつもりはないのだけれど。」

「貴方達は…誰、ですか?」

開かれた扉の向こうにいたのはいつもの人物ではなく見知らぬ人物で、その事に驚きサキミヤはたどたどしく話しかける。 1人は女性で白に紫の模様が入った和服装で、烏羽色の髪を後ろで2つに分け三つ編みにしており、歳は20代ほどでその物腰から礼儀正しい事が分かる。

その後ろにもう1人いて傭兵と思われる男性が控えており、和服装なのだが、羽織っているだけの様で手が隠れている。深緑の長髪を左右違った高さで纏められていた。

「申し遅れました、私はレエスと申します。こちらはキノセです。」

言葉使いもさることながら丁寧に一礼して自己紹介をする2人。慣れた様にタク氏は一礼を返し、

「ご丁寧にどうも、私はタク氏と呼ばれております。早速で申し訳ないのですがレエス殿、面会を御願いしたいのですがコウセン代表はいらっしゃいますか ?」

「申し訳ありません。コウセン代表はもういませんわ。」

期待していた返答ではなかった。引っかかる言い方に彼は再度聞き返えす。

「もう…と、申されますと ?」

「その…先日、御亡くなりになりまして…私がその後任を務めさして頂いていますの。」

「死ん…だ ?コウセン代表が ?」

サキミヤは声を詰まらせてその言葉を繰り返した。…先月、謁見したときにはそんな素振りは一つもなかったし病気も患ってもいなかった。そんなの信じられない、有り得ない。と言った様に。

「ええ、ですからお話があれば私が代理、として聞きますわ。」

「そうですか…残念です。せっかくの旅行が無駄足になってしまいましたよ。」

タク氏は露骨に言ったのだが、どちらが残念なのか分からない。しかし、少し考えてから気分を変えたいように、

「さて、本題に移ってもよろしいですか?私達は…正確には、私は代表と対談したい事がありまして。代表の全権を引き継いでおられるようなので、貴女にお尋ねしたらよろしいのですね ?」

「もちろんお聞きいたしますわ、朱雀(スザク)部族長タクレイア殿 ?」

レエスはタク氏をそう呼んだ。

「族長 !?タク氏が ?」

その前の事に気を取られていたサキミヤだったが、今度の事にも驚き声を上げた。後ろで聞いていたノゾミもさすがに驚き を隠せなかった様で、会話に参加していた。

「朱雀の、族長がこんなところまで来るほどの事なのか ?」

「いや、…休暇のついでに条約でも結べればと思ってな。」

簡単な理由にノゾミとサキミヤの二人は呆れたと言った表情をしていたが、彼女はそうは思っていなかった。

「貴重な時間は、無駄にはしたくありませんものね。どのような条約をお望みかしら ?」

「平たく言えば友好条約だな。今後、他部族への進行や攻撃をしないで欲しい。」

「…思った通り。馬鹿な注文をつけてきたわね。」

この会話から彼女の、レエスから発せられる気配が一変した事を感じ、ピンと張りつめた空気になると同時に寒気とプレッシャーが3人にのしかかる。

「っ !!―――この威圧感(プレッシャー)、あの人が ?!」

「案外早く本性(しっぽ)を出しましたね…。私の予想が正しければ代表は、彼女達の手で亡き者に…。」

嫌な予感や予測程よく当たるものだ…タクレイアは心の中で思う。

「そうそう、貴女に話しておく事があったわ。」

レエスはサキミヤを差しながら言うが、当然ながら本人にはそんな覚えなど、到底ありはしない。

「私、…に ?」

「そうよ、これまで妖族について調べていたようだけど、その任務は意味がなくなったの。だから、これ以上調べなくていいわ。…それと貴女は自由にしていいわ。」

言葉の意味に少々理解が追いつかなかったが、わかりやすい言葉で聞き返す。

「用済みってこと ?」

「噛み砕けばそうなるかしら。この後の任務もないわ。」

「それは、どういう… ?」

「サキミヤ、下がれ。」

タクレイアが会話に割り込み二人の間に立つ。警戒した面持ちで、

「友好条約が出来ないと言うならば、どうするつもりだ ?」

「簡単な事ですよ、族長。」

レエスがにこりと微笑むとそれまで後ろに控えていたキノセと呼ばれた傭兵が前に出で来る。

「こうするつもりです。」

その言葉が終わるか否か、キノセがタクレイアに飛びかかる。その手には羽織で隠れていたのか、くの字型のブーメランとも短剣とも取れる武器が握られていた。幾分彼らに分があるせいか反応が遅れ、剣を構えるよりも早く刃が迫ってきた。

「っく――― !!」


キィンッ


鋼と鋼が擦れあう音が広い部屋にこだます。 目を閉じて痛みを受け最悪死をも覚悟していたがその痛みは永遠にこなかった。すぐさまその事に気がついたタクレイアの目の 前にはノゾミが剣を抜き、キノセが繰り出した鋭い一撃を受け止めていた。

「 !! ……済まない。」

「そう思うなら気を抜くな。」

淡々とした返事だが、彼が庇ってくれた事に感謝してもしきれないほどで、タクレイアは俯く。キノセを退け払いチン、と刀を鞘に納めながらノゾミは元いた場所に戻る一方、ほっとした様子でタクレイアを見ていたサキミヤは怒りをあらわに

「いきなり切りかかるなんて !それに、代表も… !!覚悟なさい !!」

抑えられない感情が、彼女の体を動かす。それを見たタクレイアは制止しようと手を伸ばす。

「サキミヤ ?!―――ば、やめっ !!」

しかし、それと同時にサキミヤは跳ね飛ばされる様に戻って来た。当然自分からではなく、キノセに返り討ちにあったのだ。

「もう少し考えて行動したほうがいいわよ ?…そうね、どうせだから貴女達も誘おうかしら。」

くすくすと微かに漏れる笑いをやめてレエスが、サキミヤの行動を見て何か思いついたようだった。

「いいのか ?こんなのを入れて。」

それまで無言だったキノセが彼女の思いつきに疑問をぶつけた。

「大丈夫よ。今までの記録を見ても戦力的には問題ないし、問題があるとすれば彼女達に合意の意思があるかどうかね。」

どうしても駄目なら始末してしてもらうだけだし。とその目が語っていた。

「…。」

納得したのか、黙ったまま彼女の後ろに控える。レエスの話が全く読めないので質問をするタクレイア。

「私達にも分かる様に話してもらいたいのだが ?」

「あら、ごめんなさいね。至極簡単なことよ?統一国家を作ろうっていう計画なの。参加する気はない?」

「今の部族同士の統治に何か不満でもあるの?」

“統一国家”と聞いてサキミヤは今の状態でもいい、という思いがある。レエスはそれに対して、

「不満というよりは、部族同士での戦争はなくなるし、なにより同族で分かれていること自体おかしいと思わない ?」

確かに彼女の言うことは道理に合っており、部族で分かれているものの本質的には同種の生物なのだ。いつからか別れて暮らす様になり、独自に文化を築いて来た。…でも、分からない。今の暮らしに何が不満なの ?

「どうして今更、そんな事を ?」

「今に始まった事でもないわ。争いを失くしたい、それだけよ ?

…でも、何かを成し遂げるには力は必要不可欠な物だし、犠牲だって仕方ない物なの。」

さらりと言うレエスにサキミヤとタクレイヤは怒りとも哀しみとも言えない感情が込み上げてくる。だからといって代表を、むやみに他者を殺してもいい理由になんかならない。決して相容れぬ存在だと気付いた二人。彼女らの少し後ろにいたノゾミはいつもと同じ関心のない様子で黙っている様に見えた。

「返事を聞かせてもらってもいいかしら ?」

「ええ。」

「ああ。」

二人はお互い同時に答えを返し武器を構える。その二人の行動が理解できないようでレエスは少し苛立った様子で、

「…なんのつもり ?」

「私達は、貴女とは違うんです。」

「統一国家なんていう幻想に付き合っていられないと言うことだ。」

「…わかったわ。永遠に眠りなさい。」

そう区切りをつける様に言うと、レエスは何もない所から透き通る氷の大鎌を出すとすぐに高く構え、勢いよく振り下ろす。当然、鎌からの衝撃波がノゾミ達の方へ走ったが、三人は散開して避ける。

しかし、どうも様子がおかしい。ただの衝撃波なら容易に避けられる事は撃った本人なら分かっている筈。ところが追撃が未だにないとう事は――― ?

戸惑う彼らを嘲笑うかの様にレエスは笑みを崩さずに言葉を続けながら右耳のピアスを外す。

「…永遠を意味し水を司る永帝(エイテイ)、それが私の珠称(シュショウ)。」

レエスの髪は深藍色から透ける様な空色へと変わる。妖族の帝の位を持つ者は総じて髪と瞳の色素が薄くなり、その証となる。

「―――汝に永久の時を与えん…我が望むは白の荒野。零侯氷原(ゴールドフィールド)。」

詩を語る様に詠う。するとレエスの周囲から熱が奪われ、吐く息が透明から確実な白へと変わる。状況の悪化と危険を察知し、サキミヤとタク氏の二人はすぐにその部屋から出るため扉のある後ろへ駆け出すが、急激に氷点下まで気温が下がった室内は霧が発生し視界が悪く三人はそれぞれの姿を確認する事が出来なかった。

それに加えて元々滑りがいい床が凍り始めているせいか、気を緩めるとすぐに滑ってしまいそうになる。先程までいた広間の部屋に続く階段を降りて来たところでサキミヤは ノゾミの姿ないに気付くと、側にいたタク氏にそれを伝えたが、彼は冷静だった。

「この視界だ、方向を間違ったのだろうな。だが、彼なら心配ない。…それに案外私たちよりも先に降りているかもしれない。」

「―――そう、ね。」

…確かに。彼は他人に対して関心は低いけど誰かに心配させるような事はしない。

(―――アイツなら大丈夫、きっと。)

サキミヤは振り返る事なく走り続けた。二人はその会話以降、下に降りるまで一言も言葉を交わすことはなかった。






一方その頃、ノゾミはまだあの広間でレエスと名乗った妖族の永帝とキノセと呼ばれた男性の傭兵と向かい合っていた。 珍しくノゾミの方から会話が始まる。

「好きにすればよい、“私”は干渉せぬ。」

いつもと違った固い口調。しかし、相変わらず興味のなさそうに言い放つ。

「そう…そうでしょうね。どうして貴方が彼女達と共に行動をするのかしら ?」

投げかけられた疑問にノゾミは、またも珍しくはっきりと顔をしかめた。それとは裏腹に彼女の口元は微笑んでいる。

しばしの沈黙が部屋を覆う。ノゾミは目を閉じてから声には出さないが何かを囁くと彼の周りの氷が解け始める。それは次第に広がり、いつしか部屋は埋め尽くされた氷に代わり水浸しになっていた。しかしその水は徐々に湯気が立ち最後には蒸発してゆく。

「我らと相容れぬだけ。」

「今はね。次はどうなるか分からないわよ ?」

「…。」

ノゾミはその言葉には答えなかった。その代わりに彼を中心に段々と部屋は炎に包まれ始める。その炎は勢いを増して 舞を演じる様に周囲に飛び散り彼の姿を書き消し、後に残ったのは残る炎と頬を焦がす熱風だけだった。

「深追いはしない方がいいわ。」

ノゾミの後を追いかけようとしたキノセはレエスに止められ、声の主に率直な疑問を聞く。

「なぜだ。アイツは、強いのだろう ?」

「ええ、貴方よりも…ね。」

帰って来た返答に不満なのか舌打ちをして黙り込む。その姿は先ほどの荒々しい様子からは想像できない程、彼の態度は至って静かなものだった。


床が焦げる独特の臭いが漂う中、レエスはその炎を見て愛しそうに微笑んでいた。

実は1話と2話目ができた後に書いたのがこの8話。なので一番話が進みます。

壱幕で一番最初に浮かんだのがこのシーンなので思い入れはあるけど戦闘シーンが

ヘちょくてすいません^。^;

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