六章 双頭の龍
サキミヤの任務の最中に現れたのは 蒼景の街で会った赤錆色の髪の青年。 タク氏と獣の間に入り刀で獣の手を押しのけるが、それだけだ。
「…何者だ?軍の増援と言う訳ではなさそうだが ?」
サキミヤが知っているという事は蒼龍軍の者かと思ったが蒼龍族ですらないようだ。 蒼龍族は好んで金の装飾を身につける習慣があり彼はそういった類いを身につけていない、とタク氏は割り込んだ人物を見る。
「前に少し…たまたま一緒に行動しただけでほとんど知らない。」
実力者だっていう事と何か探しているっていうことくらいだし…と前のときの会話を思い出そうとするが 会話自体が少な過ぎて情報が少ないのでサキミヤは何も知らないも同然であった事を知る。ノゾミはというと獣との間合いを取りつつサキミヤに話しかける。
「おい、気をそらせろ。…片をつける。」
「何であんたが仕切ってんのよ ?って聞いてないし。しょうがないわね、タク氏も援護してくれる ?」
「あぁ、もとよりそのつもりだ…任せておけ。」
その言葉が合図の様にそれぞれ行動に移る。 サキミヤはノゾミが攻撃する方向と違う箇所に攻撃をして獣の気をそらして相手の的を絞らせない様に、後方でタク氏は先ほど中断してしまった術をもう一度唱える。
「…2人とも離れてくれ!汝を滅する炎よ降り注げ火炎隕石」
獣を中心に空から火の玉が降りその身を焦がし焼き尽すそして後に残ったのは焼けた匂いと光る神珠。
―――その光景は昔見たモノと似ていた。
「火・・・。」
「…サキミヤどうかしたのか ?」
その手は微かに震え声も上擦って消える様だったが確かに火、とそう紡ぐ。
「…へい、き。匂いが…鼻についただけよ。」
「そうか ?…確かにあまり好ましくない匂いだが、仕留めるには炎撃の術の方が確実だったものでな。」
術にも幾つか種類がありその用途により部類が分けられ火、水、木、土、金が五大要素と呼ばれ他の要素より強い力が得られる。神珠の場合はさらに個体が持つ要素で威力が変わる事が多く得意要素が限りなく扱いやすくなる。 特に気術を攻撃の要としている神珠を持つ者、気術師と呼ばれる者達はその要素を中心に力を取得し使いこなす努力をするのである。
「これで完了ね。」
「この神珠はどうする?これは…龍の眷属だな。」
焼け跡から拾った神珠を見てノゾミが2人に問いかける。
「私が預かっていかしら ?龍ならば軍に一度預けないといけないから。」
「それで異論はない。」
「決まりね。」
結論が出たためノゾミは神珠をサキミヤに渡すが一言言っておかなければいけない事がある。
「なくすなよ。」
「わ、かってるわよ !それよりなんでノゾミは蒼碧にいるの ?私より先に出たはずよね ?」
知り合ったきっかけが神珠の紛失だったのでどもりながら神珠を受け取る。 サキミヤは話しをそらしたいのと、純粋な疑問から蒼碧にいる理由を尋ねる。
「ここは伝承があるからな。」
「意外にそういうの気にするんだ?」
我が道って気がしたから意外といえばタク氏がそれをたしなめる。
「…伝承とは言えサキミヤ、神珠や神獣の原点ではあるから使い手なら知っておくものだ。」
「そんな事言っても知ってなくても使えるじゃない。一般常識くらいは知っているわよ ?」
「それは表面的な力に過ぎん。神髄とは理を知ってこそ習得出来ると言うもの。」
「タク氏は知ってるの ?」
「…まぁそれなりには、な。」
「どうでもいい会話は済んだか ?…この辺りの伝承は双龍伝説、つまり始龍の話になる。」
〈遥か昔、聖獣はひとつの龍で在ったと伝えられている。 二つの頭、二つの尾、一対の翼、鋭い牙を持ち理の全てを守る龍。その名は―――――。〉
「太夜」
タク氏はノゾミが話した伝承で思い当たる名前を答える。ノゾミが話した物語は本を読めば書いてある。 しかしその本は早々に手に入る代物ではない、とだけ言っておこう。
「その名を知っているのか。」
「古文書を集めるのが趣味で少し…な。」
ずれてもいないのに眼鏡を上げ隠すかの様にその目は反らされその介入を拒む。この話については誰も詳しい内容が出ないと判断するとノゾミは話しを変えることにした。
「それよりも…また獲物が一緒だとは。」
「ちょっと、そのいかにも嫌そうな口ぶりは?こっちも好んで一緒の目的にしてる訳無いでしょ !」
「あたりまえだ。…サキミヤお前は蒼琳院にいくのか ?」
「そうよ。」
蒼琳院は蒼龍族の主都であり王族や軍事的な政が集まる。今回の任務の報告も踏まえ 諜報員としての報告もありすぐにサキミヤは蒼琳院に向かうつもりでいた。
「ついて行ってやる。」
「…はぁ ?なんで今更…。」
一度ノゾミはその返事を断っていたが今度は了承すると言う。
「気が変わった。龍の事は龍の方が詳しいからな。」
「何それ・・・まぁ、一緒に行ってくれるのならいいけど。」
「ならば私も同行してかまあないだろうか ?」
「え、タク氏も ?」
「いや、無理にとは言わないが…私も蒼琳院に用事があるのでな。」
「そうだったの?多い方が安全だし全然かまわないわ。
一度サキミヤとタク氏が落ち合う場所にしていた宿に戻りその日は日が落ちかけていた為 休んでから翌日の早朝に蒼碧を出る三人の後ろ姿があった。




