四章 残る傷跡
蒼景より街道沿いに西へ進んでいたサキミヤは木陰で少し休憩する事にしたが、休憩所で十分とは休めていないので眠りが 彼女を誘う。今いる蒼龍族管轄地域の南西部は春めいた心地よい風が吹いている。
その日はいい天気だった。
その日はいい天気だった。良く晴れており風が少し乾いていた。
「今日は東の草原に行ってくるね!お母さん。」
元気に少女はこれから出かける事を母に伝える。このやり取りは日常らしく母親は微笑んで答えた。
「あまり遅くならない様にね?この前は―――」
「分かってるもん!ちゃんと最後の礼の鐘が鳴る頃には帰ってくるよ !」
「本当 ?」
「ホント !いってきます !」
ちょっとムキになってはいるが嬉しそうに少女は言い返して出かけて行く。
「ふふ、貴方に認められたいのね ?あの子。」
微笑んだまま母親は壁にかけた短剣に話かけたが剣は答えず静かにそこに在った。
少女が言った東の草原とは彼女の家から言葉道りに東にあるなだらかな丘のある草原で少女は毎日晴れた日には 武術の稽古をしていた。
「お前、今日もやるのか ?」
「 ! 」
少女の他に東の草原ではこの近くの村の男やその子供が剣や武術の稽古の為集まってくるが、小さな少女の姿は一人だけ。
「あ、たりまえでしょ !花を摘みに来たわけじゃないわ。」
「ふーん。」
声をかけて来たのは少女と同じか少し上の少年で最近になって手合わせをしているので顔見知りになり顔を見れば挨拶する程度だけだが。同じ村には居ないから余所の村の子供だろうと少女は思っている。
「今日は勝ってやるんだから!」
意気込む少女を少年は不思議そうに見てから、尋ねる。
「なあ、」
「なに ?」
「女なのに何でそんなに稽古したがるんだ?女って村ん中で稽古じゃない事とかやってんじゃねーの ?」
「それは…そう、だけど。」
大体の村では家事や家畜の世話などをやっていたり遊んだりと稽古に参加する少女は居ない、彼女を除いては。
「じゃあ、なんで ?」
「なんでって、それは…。」
少女は心に秘めた決心を言えずに俯く。 言えるわけない…兄さんの神珠に選ばれたいからだなんて!っていうか女の子らしくないし…。
それよりも !きちんとた挨拶もしていない相手に言う必要なんてないわっ !
「それは、あんたにカンケーないでしょ !」
「関係あるね。疾風のスワロウの血縁だろ ?」
前にお母さんから聞いた話しで疾風のスワロウは兄さんの通り名でその素早い剣捌きからそう付いたって。村の外に知っている人がいるのは初めてだったから目を見開いてそいつの顔を見たらなんかすごく飽きられた。
「―――ったくどんだけ箱に入れてんだよ?スワロウのヤツ…。」
「箱 ?」
「なんでもでもねぇよ。…手合わせ、やるんだろ ?」
なんか話しが見えないけど取りあえず気が済んだみたいだから手合わせを始めるらしいので礼をして型をとる。
「参る !」
あたしの得物は短剣や双剣と言ったあまり力の要らない刃物。体術も合わせているから純粋な型ではないけれど 素早さを生かしたトリッキーさが売り。尊敬している兄さんと同じ型だから自慢なんだよね。 朝の稽古も終わり昼の礼の鐘が三回があたりに響き手合わせていた少年とともに昼食をとっているときだった。
ピイイイィィ――――招集をかける鳥笛の音が東の草原に響く。
「何… ?」
周囲にいた大人達も音の発生した方向を確認した後向き声を荒げて叫ぶ。
「妖族の奴らだ…おい、村に戻れっ !」
各部族において妖族は敵視される事が多い。この周辺の村も例外ではないようだ。 訓練の指導していた大人達はその手に剣を持ちそれぞれ村に戻って行くが 子供達は集まり周囲を警戒しその場にとどまる。 争いの中でまだ訓練中の未熟者が孤立する事はつまり死を意味する。
「俺達も集まるぞ !ここじゃいい的だぜ。」
「わかった… !あれ ?」
「…どうした ?」
「燃える匂い… ?」
「なに ?どこも燃えちゃいねぇ…いや、微かにするな。風向きから言えば西の方か ?」
「西…村の方 ?!お母さん !!」
そう言うと少女はいてもたってもいられず走り出す。 それを少年は止めようとするが少女はすでに遠く小さくなっていた。
「待て、お前1人じゃ…くそっ。」
少年は少女を追いかけ彼女の村にきたはずだったがそこには煙が燻りまだ揺らめく炎が残る 何かが在ったはずの広場に着いた。
「おい、どこだ ?!」
パキパキと燃え尽きた木を踏み、煙で視界が霞む。 黒と赤が占める景色の中で青色の少女を見つける。
「おぃ… !」
声をかけようとしたが少女が佇んでいる足下には何かが燃えた後があり その隙間には僅かに燃えずに残った剣が見える。
「なんで ?何も、何もしてないのに… !」
嘆く少女にかける言葉が見つからず少年はただ、全てを見ていたはずの空はいつもと変わらず 穏やかに流れている雲を見ているしか無かった。
眺めていた空が赤く染まり日が落る頃、少女がポツリと呟いた。
「赤い髪の男…。」
「う…。」
頬をなでる風が冷たくなりサキミヤは目を覚ます。
「……最悪。」
あんまり思いださない様にしていたが時折夢に見てしまう。あの日、彼女の日常は変わりそして始ったとも言える…今、軍に属している事も、剣を手にしているのも 全てはあの時に見た赤い妖族を探し出し仇を討つ事を目標にしている。
霞む夕闇の向こうに目印となる光があると信じて。
次回は本編に戻ります。




